真夏日に助けた猫の「恩返し」を待ち続けて16年 「私の恩人のこと、よろしく頼んだで」

ジブリ映画に『猫の恩返し』という映画があるのをご存知でしょうか。猫を助けた少女がえらいこっちゃな御礼をもらうお話です。

実は私・月亭天使も猫の恩人になったことがあります。たぶん、本ニャンは覚えていないと思いますが、それを確かめに久しぶりに助けた猫に会いに行ってきました。その猫は名前を「サスケ」といい、なんと16歳。大阪市某所で40代の女性と一緒に暮らしています。

このサスケの飼い主・仲村さんは私が以前勤めていた会社の先輩。今から20数年前、同じ時期に会社を辞め、仲村さんはフリーデザイナーに。一方、私は当時流行っていた自分探しの真っ只中、派遣会社に登録し流転の民として派遣先の会社を転々としていました。

サスケと出会ったのは、そんな流転の民をしている時。淀屋橋のとあるオフィス、昼休みから帰ってくると女性社員が上司の男性に「ゴミ捨て場に猫が捨てられているんです」と話す声が聞こえてきたのです。

当時、私も猫を飼っている身だったので、思わず「裏のゴミ捨て場ですか?大丈夫ですかね?」と、その社員と上司の間に割って入りました。聞けば、ゴミ捨て場の入り口に小さめの段ボール箱が置いてあり、中を見たら子猫が入っていたとのこと。

これは明らかに確信犯や。飼えないから、捨てにきたに違いない。

時は8月中旬の真夏日。 

もちろん、午後の仕事には一切手につきません。もっとも、基本的に入力作業だったので、入力する書類がたまらないと仕事がないというのもありますが。私は社員の方とゴミ捨て場に向かい、生後1カ月ぐらいの子猫を発見しました。暑さのせいか少しぐったりしているようだったので、お水をあげ、日陰に移動させて様子を見ることに。

子猫の顔には仮面をつけたような模様が…。もしかしたら、それで貰い手がなかったのか?お水を飲むと、段ボール箱から顔を出そうと、ニャアニャアと鳴き始めました。よかった。

しかし、今、この子を連れ帰っても、うちには猫がいる。社員さんも飼うことはできないとのこと。飼い主を探さないといけない!誰かいないか?と考える間もなく、仲村さんのことを思っていました。 

実は、私が我が家に子猫を迎えた際、もともと海外旅行の予定が入っていたので、旅行の期間だけ仲村さん宅に子猫を預けたことがありました。当時、仲村さんは大学の同級生・ゆうこさんと同居中だったものの、二人とも喜んで預かってくれました。

その上、一眼レフで何枚もうちの子の写真を撮ってくれ、それをホームページのフォトギャラリーにあげるぐらい可愛がってくれたんです。なのできっと、仲村さん達なら、この子を温かく迎えてくれるはずだと連絡しました。思惑通り仲村さんは喜んでくれ、その日の夕方、迎えに来てもらうことになりました。 

後日、仲村さんから、あの時サスケが入っていた段ボール箱が、とても持ちやすいよう細工してあったと聞きました。それで私は思い出しました。あの日は派遣先の仕事より、子猫の段ボール箱に穴を開け、紐を通すことに夢中になっていたことを…。

それが16年前の出来事。

仲村さんとゆうこさんは、うちの猫を預かった後、引っ越しを機に猫を迎えようと考えていたそうです。預けたうちの猫がメスだったせいか、当初はメスが良いなぁと思っていたらしく、「こまち」という名前も考えていたそう。しかし、私からの連絡で性別に関係なく、その子猫を迎えてあげようと思ったとのこと。

グッジョブ、私。派遣先の仕事はあまりしてなかったけど。

連れて行った病院でオスだとわかった子猫ちゃん。それなら、「こまち」という女の子に似合う男の子の名前は何か?と考えた結果、「サスケ」という名前に決まりました。

しかし、サスケは穏やかでおっとりとした雰囲気だったため、仲村さん宅に遊びに来る人からは「女の子だよね?」と言われることもしばしば。「『サスケ』って呼んでるのにねぇ」と、笑う仲村さんの近くにサスケが寄ってきます。

仲村さん曰く、慎重派のサスケは他のお客さんの時は奥の部屋に入っていることが多いそうです。が、私のことを命の恩人とわかるのか、結構早い段階で近くに来てくれます。若干、遠巻きなのが気になりますが。

そんな話をしていると、サスケが「ニャア」と近づいて来ました。「お、やっぱりわかるんや」と感慨深く思っていたら、ただただ仲村さんへのお土産のプリンに興味を示しただけでした。

私にとっては仲村さんは恩人のような方。例えば、派遣バイトでロッカー荒らしに遭い私服を盗まれた時、コスチュームのミニスカートでなんば駅に呆然と立っていた私に服を持ってきてくれたり、今ではHPを作ってもらったり…。サスケ、私はお前の命の恩人やねんから、その私の恩人の仲村さんをよろしく頼んだで、と思うのでした。

◆月亭天使(つきてい・てんし) 大阪府豊中市出身。2010年2月、月亭八天(現・七代目月亭文都)に入門。大学卒業後、出版社勤務や繁昌亭アルバイト勤務を経て落語家に。人間国宝・桂米朝、初の玄孫弟子として話題となった。新作落語や古典落語の改作等を手掛けるだけでなく、門真市市民ミュージカル『蓮の夜の夢』『夢、ひとつぶ』では脚本と出演、2016年度豊中市公共ホール演劇ネットワーク事業『演出家だらけの青木さんちの奥さん』への出演等、幅広く活躍。

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