「接種が進んでも、感染が再拡大する懸念って?」ワクチンの疑問、豊田真由子がお答えします

感染収束の切り札であるワクチン。「どれくらいワクチン接種が進んだらよいのか?」「英国では、ワクチン接種が進んでも、なぜ感染が再拡大」--最新のデータを基に、豊田真由子がお答えします。

■どれくらいワクチン接種が進んだらよいのか?

新型コロナウイルスについて、どれくらいワクチン接種が進めば、集団免疫を獲得できるかというのは、確定的な結論は出ていない状況ですが、7割から9割の接種率で集団免疫が得られ、そして、4割程度で感染動向に変化が現れるという認識が示されています。

(1)米国ファウチ博士(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所長)

多くの人が免疫を持つようになることで感染が広がりにくくなる「集団免疫」について、アメリカ政府の新型コロナウイルス対策チームのファウチ博士は、「はっきりした数字をあげることはできないが、個人的には70~90%の間のどこかだと思う」と述べ(2020年12月24日)、「集団免疫」の状態になるには、ワクチンを接種したり、ウイルスに感染したりすることで人口の7割以上が免疫を持つようになる必要があるという見方を示しています。

 割合の振り幅が大きいのは、不確定要素が多いためです。ワクチン接種や既往感染による免疫の獲得が、他者への感染をどこまで防げるか、より感染力の強い変異株の登場、マスク着用や距離の確保といった感染防止措置の程度、免疫の持続期間や環境的要素(人口規模や人口密度、集団内での免疫の均一度等)等によっても変わってきます。

(2)野村総合研究所

野村総合研究所によると、新型コロナワクチンの接種が先行する英米やイスラエルでは、接種を完了(2回)した人が、人口比で4割に達すると、新規感染者が減少する傾向が明確になったと分析しています。

米ファイザー製のワクチンのみを使用する想定で、日本で4割に達する時期を試算しており、6月17日から1日100万回接種が実現した場合、9月9日に接種完了率が4割に到達。1日80万回のペースにとどまれば、4割の接種完了は10月1日にずれ込む結果となったとのことです。

■英国では、ワクチン接種が進んでも、感染が再拡大

ワクチン接種が進んでも、感染が再拡大する懸念もあります。

英国では、入院患者数や感染者数は数カ月間減少傾向でしたが、ここにきて英国のほぼ全域で上昇に転じ、特にイングランド北西部では感染拡大の兆しがみえています。4月には、新規感染者数を2000人程度まで減らしましたが、5月下旬より再び増加に転じ、6月8日には5400人となり、警戒を強めています。若い世代の入院も増えています。

英国政府は6月8日、新型コロナウイルスのデルタ株(インド型)の感染拡大阻止に向けた支援強化策を取ることを発表し、イングランド北部の一部地域では、軍を動員して住民の一斉検査を実施する等しています。これら地域やロンドン西部ハウンズロー区等では、不要不急の外出や家族以外との室内での交流が規制されました。

これまでロックダウンの段階的緩和を進めてきており、6月21日には規制を全面解除する計画でしたが、デルタ株の感染拡大に伴う今回の発表を受け、4週間後の7月19日まで先送りされる見通しです。

英国では5月半ばに、デルタ株の感染者数がアルファ株(英国型)を上回り、主流ウイルスとなりました。遺伝子研究機関ウェルカム・サンガー研究所が、5月29日までの2週間に約1万4000件のコロナウイルスをゲノム解析したところ、デルタ株が4分の3を占めていました。

デルタ株は、感染力が、従来株より1.78倍強い(※)といわれており、2週間後に規制が全面解除されればワクチン未接種者に感染が急拡大する可能性があると指摘されています。(英イングランド公衆衛生局(PHE)によると、デルタ株の入院リスクはアルファ株の2.6倍、集中治療が必要になるリスクは1.6倍に上ると示されています。(諸説あります。))

(※)北海道大学伊藤公人教授と京都大学西浦博教授らのグループによる(厚生労働省の専門家会議(6月9日)

英イングランド公衆衛生局(PHE)によると、英アストラゼネカ製または米ファイザー製のワクチンを1回だけ接種した場合の予防効果は、デルタ株の感染拡大後、33%にまで低下したが、2回接種した場合の効果は、アストラゼネカ製で60%、ファイザー製で88%になったとのことです。

したがって、変異株の感染がこれ以上拡大する前に、あるいは、さらなる変異が起こっていく前に、できるだけ早くワクチンを2回接種することが重要になってきており、これは、日本を含む他国においても、同様のことがいえます。

■世界全体で収束させることが必要

6月11日から英国コーンウォールで始まったG7(主要先進国首脳会議)において、来年末までに新型コロナウイルスワクチン10億回分を低所得国に無償提供することで合意する見通しです。

ジョンソン英首相は、英国は少なくとも1億回分のワクチン余剰分を低所得国に提供すると表明し、バイデン米大統領も、低所得国向けにコロナワクチン5億回分を購入し、無条件で提供すると表明しています。

WHO等が主導するワクチンを公平に分配する国際的枠組みである「COVAXファシリティ」は、今年中に途上国の人口の30%にあたる18億回分のワクチンを供給する目標を掲げていて、必要な資金は83億ドルとされています。

日本は、COVAXに、これまでに2億ドルを拠出しており、6月2日の「ワクチン・サミット」で菅首相は、新たに8億ドルを追加で拠出することを表明し、これまでと合わせた日本の拠出額は10億ドルとなります。約3000回分のワクチンの現物を提供する方針も表明しています。

日本政府は、ファイザー製(1億9400万回分)、モデルナ製(5000万回分)に加えて、英アストラゼネカ製ワクチンを、1億2千万回分(6千万人分)確保していますが、アストラゼネカ製については、接種後に血栓症が極めてまれに起きると報告されていることから、使用を見合わせており、COVAXに提供する3000万回は、このアストラゼネカ製の国内生産分を想定しています。

(※)COVAXへの各国の拠出額(5月30日時点)

1位 アメリカ25億ドル、2位 ドイツ9億ドル、3位 イギリス7億ドル

昨年の新型コロナウイルス出現当初より申し上げていますが、世界全体で収束に向けて助け合わないと、新興感染症のパンデミックは終わりません。現代社会は、グローバル化が進み、航空網が発達し、ウイルスはたちまち世界中を駆け巡ります。途上国で感染対策が不十分でウイルスの変異や感染拡大を招くと、その影響は世界に及びます。

感染症対策における格差解消は、人道問題にとどまらず、保健衛生や経済の面での安全保障問題でもあります。

自分や自国を助けたければ、他者や他国を助けることが、必要になります。「国内の感染を抑える」「国民の社会経済活動を回復する」ことはもちろんなによりも大切ですが、それと同時に「世界全体で感染を抑える、そのために助け合う」こと、そのための実効性のあるアクションが、求められます。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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