猫は神だから「家に迎える猫を選ぶだなんておこがましい!」 運命に身を任せ、やってきた子猫と家族の物語
猫の飼い主のことを「下僕」と称する人は少なくありません。猫の世話は「させていただく」、猫を貰うことは「お迎えする」。全ての猫好きがここまでへりくだるわけではありませんが、とても多いのではないでしょうか。
というのも、猫は神様だからです。「神」という字の中には「ネコ」と隠されているのにお気付きでしょうか。猫好きが高じると、こう思ってしまうのだそう。
東京都に住むSさんも、そんな猫好きの一人。彼女は一緒に暮らす猫を選ぶことすらも抵抗を覚える猫好きです。猫から選ばれるならまだしも、選ぶなんておこがましい。
ですから、いざ譲渡会に行ったとしても自分で猫を選ぶことはしませんでした。それでも猫が必要でした。その理由は、すでに家にいる猫のため。今までは2匹一緒だったのが、1匹虹の橋のたもとに旅立ってしまい、残されたキジトラの男の子が少し心が不安定になってしまったのです。
大切な愛猫のために新たな猫を迎える。そのことすらも猫に申し訳ない。だから、Sさんは保護団体にお願いしました。「猫と暮らしたことのある体が大きい子と暮らせる子」と。こう伝えておかないと、ビックリする猫さんがいるかもしれない。そう心配してしまうほどの大きさの猫なんです。なんと8キロもあり、まるでヤマネコのよう。
この子と合う子はいるのだろうかと気を揉んでいましたが、保護団体はピッタリの子を選んでくれました。生後約4カ月の子猫です。この子こそ、現在S家で暮らす「わちょ」さんです。
わちょさんは元々野良猫の子供。妊娠中の母猫が保護され、人間に見守られながら誕生しました。4カ月になるまで母猫や兄弟たちと過ごしたせいか、とても落ち着いた性格。なにより好奇心旺盛です。これなら、相棒を亡くし失意のどん底にいる先輩とも仲良くやれるかもしれません。
わちょさんは名前を決める時も運命に身を任しました。方法はとてもシンプル。S家の家族、お父さんとお母さん、そしてお姉ちゃんの3人がそれぞれ4つずつ名前を書いた紙をぱあっと部屋に撒き、その中で最初にわちょさんが踏んだものにしたのです。最初に踏んだものが、「わちょ」でした。
余談ですが、S家は長年この方法で名前を選んでいるのだとか。Sさんと猫との暮らしは子供の時からですので、もう30年以上名前の決め方は変わっていません。ちなみに、Sさんと暮らした猫の中でSさんが選んだ子は1匹はいないとか。だからこそ、わちょさんも選ぶのではなく選んでもらうことにしたのです。
さて、S家に本格的にS家に迎えられたわちょさん。母猫よりもずっと体の大きい先輩との暮らしになります。最初はケージ越しの対面でした。これが大丈夫そうだったので、2日目からケージから出して先輩と過ごすように。3日目にはお互いに鼻をちょんとつける仲になったんですよ。わちょさんを選んだ保護団体の目に狂いはありませんでした。
2匹はとても仲が良く、いつも一緒です。先輩の落ち込みも徐々に薄れてきました。そんな矢先、この2匹が学術団体のイメージキャラクターに起用されることが決まりました。
その団体とは、「光が丘デジタルアーカイブ」。練馬区の地域歴史資料の公開や研究を目的とした団体です。猫と資料は昔から関係が深いもの。ネズミに資料をかじられないよう、イギリスでは中世から公共の図書館で猫が飼われていました。いわばアーカイブの守り神です。
日本でもお寺でよく猫が飼育されているのは、古来から経典を守るため。仏様をもまもる神様が猫なのです。Sさんが「選ぶなんておこがましい」と言うのも納得です。
でも、そんなことわちょさんにも先輩にも関係ありません。今日ものんびり2匹でちゅーるの夢を見ながら過ごしています。明日のごはんは何かな?
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)