空き家に新たな市場の可能性 マッチングサイトやオークション、有効利用されるケースも
相続税の申告が必要な人はどのくらいいるかご存知だろうか。
令和元年、相続税の申告が必要だった被相続人(亡くなられた方)の人数は115267人だった。これは亡くなられた方全体に対して8.38%になる。実はこの割合は平成27年を境に今の水準になったが、それ以前は約半分強だった(平成26年分4.4%)。ご案内の通り、税制改正があって基礎控除がいまの3000万円+600万円×法定相続人の数になったからだ。
改正前の基礎控除額に対して60%に減額された。配偶者と子一人で、基礎控除は4200万円。住宅ローンを完済していて、ある程度退職金を遺していれば超えてしまう水準である。ただ、配偶者の税額軽減や小規模宅地の評価減といった制度があるため申告は必要だが納税額はゼロといった場合も考えられる。
では、相続財産に占める割合が最も大きな財産はなにか。今のところはやはり「土地」である。令和元年における土地の占める割合は34.4%で、それに対して預貯金が33.7%と肉薄している。平成22年頃には土地の価格が預貯金の価格の倍ぐらいだったが、この差はどんどん縮まっており、近いうちに逆転するだろう(個人的な見解)。
それは土地の評価がこのところほぼ横ばいであるのに対して、預貯金の残高は右肩上がりに上昇しているからだ。ただ、この上昇がいつ頃まで続くのかわからない。様々な要素があるが、どこかでピークアウトするのではないかと考える。たとえば、現在の高齢者世帯ほど、次世代は預貯金を残せないのではないか。
次に土地のうちに占められる「宅地」の割合はどうか。令和元年、土地全体のうちに占める割合76.4%が「宅地」だった。残りの土地は「田・畑・山林」などである。耕作中の田畑は別として、活用の困難な土地も多く含まれている。過去に原野商法などで購入したケースもあるだろう。こういった場合は相続人間の遺産分割の際に「貰いたくない」という意味で揉めることになる。
固定資産税や管理の手間を考えると負債を抱えることになるので「負動産」といわれたりする。理由は一概に決めつけられないが相続未登記の土地も増加しており、所有者が分からない土地の総面積は九州の面積を上回っているという報道があったのは記憶に新しい。
さらに、自宅の家屋が有効活用できないことにより、空き家となってしまうことが多くあり問題になっている。国内に853万戸の空き家があり、一軒家の8軒のうち1軒が空き家だという。実際はその気になれば売却が可能な物件もあるだろうが、なかには買い手が付かず、不動産業者にも見放されるような場合もある。
「家いちば」というサイトがあるのをご存知だろうか。空き家の売り手と買い手を結びつけるサイトだ。「物件サイト」というより「人と人とのマッチングサイト」だという。価格を下げていけば買い手は必ずいるそうだ(「空き家幸福論」著者:藤木哲也)。
かなり前だが、ハウステンボスで体験したオランダ式オークションを思い起こした。(下げセリ)古民家の空き家から「アルベルゴ・ディフーゾ」(分散型ホテル)へと発想を広げる買い手も現れてきている。ゴミ屋敷のような空き家や、倒壊しそうな状態の空き家は確かに問題であるが、そうでなければ放置せずに買い手をみつけだし、有効利用してもらえれば「空き家」自体は必ずしも問題だとは限らず、新たな市場の可能性を感じた。
◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。