過酷な環境で暮らす、サウジアラビアの猫たち 現地で保護活動する日本人女性、帰国し里親探しをする理由

サウジアラビアで猫の保護活動に取り組む、保護団体「クロスカントリーキャッツ」代表のピアース真実さん。4月中旬ごろ日本に帰国し、27日に東京都内で開かれる猫の譲渡会(猫の未来とびら主催)に参加します。母国の日本に戻ってきたのは2年ぶりです。サウジアラビアでの保護活動や日本の譲渡会に参加することになったいきさつなどについて、真実さんにお話を伺いました。

■居住地で数え切れない猫を目撃「まるで猫のスラム街」

真実さんはイギリス・ウェールズ出身の旦那さんと結婚後、旦那さんの転勤で2016年5月からサウジアラビアに移住。日本からの駐在者が滞在する外国人が多い居住地区(コンパウンド)に住むことになりました。そこで初めて見た光景に驚いたといいます。

「コンパウンドというのは、塀に囲まれたところに家が立ち並んでいます。至る所に数え切れないほどの猫たちを目撃したんです。全て野良猫…とてもやせていて、病気の子やケガをしている子、お腹が空いている子がたくさんいました。まるで猫のスラム街のようで、すぐに猫たちのご飯を買いに行きました」

以前からニュージーランドやイギリスの動物保護施設でボランティアをしていた真実さん。状態の悪い野良猫たちを目の当たりにして、このまま放っておくことはできませんでした。そこで、移住してすぐ餌やりを始めることに。しかし、思いがけないストップがかかりました。コンパウンドの管理者から「餌やりをするな」と警告書が送られてきたのです。

■コンパウンドの管理者が猫を捕獲、砂漠に捨てていた

さらに、コンパウンド内の野良猫たちは管理者が定期的に捕獲し、砂漠まで車で連れて行かれて捨てられていたという事実も知ることになりました。

「餌やりを始めてから、お世話していた子がいつのまにか行方不明になったり、至る所に猫の捕獲器が置いてあったりして…おかしいなと思い周りの人に聞いたら、猫の数を減らすため定期的に捕獲していることを知ったんです。子猫は袋にまとめて入れられ捨てられたり、成猫は捕獲器で捕獲されたりしていました」

捕獲の事実を知った真実さんは、餌をあげていた猫や子猫2匹を急きょ保護。これをきっかけに、保護活動に取り組むことになったといいます。移住してから1カ月も経たないうちに起こした行動でした。

そして、真実さん以外にも餌やりをする居住者もいたことなどから、コンパウンド内でTNR(Trap/捕獲し、Neuter/不妊去勢手術を行い、Return/元の場所に戻す)をして地域猫として猫たちを見守ることを認めてもらうため署名を集めました。その集まった署名を管理者に提出しましたが、真実さんたちの要望は受け入れてもらえず。捕獲は継続されることに。ただ、これ以上不幸な猫が増えないようにと、真実さんは避妊手術などを行いながらお世話を続けました。

■移住1年で保護団体を結成 そのわけは…

保護活動を続けて1年経ったころ、大きな転機がありました。

真実さんと同じように猫のお世話や保護活動をしていたポーランドの女性がサウジアラビアを離れることになって、保護した子猫の里親探しをしていたところ、スリランカ人の男性に譲渡することになりました。しかし、譲渡後すぐに子猫が行方不明に。当初男性は「猫が逃げた」と話していましたが、のちに「ベッドの上でおしっこをしていたから腹が立って外に出してやった」などと打ち明けたのです。

「そのとき私は日本に一時帰国していたんですが、譲渡後に子猫がいなくなったことを友人から聞いて、すぐにサウジに戻りました。友人は既にサウジを離れていましたので、私がいなくなった子猫を1カ月ほど捜索しましたが見つからず…そんなトラブルを通じて、この国で譲渡するのは無理だとあらためて感じました。

サウジでは猫の飼い方さえも十分に理解せず譲り受けてしまう方も多く、私たち保護活動家は以前から里親探しに苦労していたところがあって。その出来事をきっかけに日本や海外で里親探しをしようと考えるようになったんです」

サウジアラビアで保護した猫たちを母国の日本などで里親探しをしようと思い立った真実さん。本格的な保護活動に乗り出そうと、保護団体「クロスカントリーキャッツ」を作りました。そして、ブログを立ち上げて、サウジアラビアにおける野良猫の現状などを発信しながら広く支援をお願いするようになったそうです。

■東京の譲渡会に4匹の保護猫が参加予定

現在、真実さんは旦那さんの勤め先が変わり別のコンパウンドに2年半前ごろに引っ越し、野良猫たちのお世話をしながら保護活動を続けています。そのコンパウンド内には数百匹以上の猫がいるとのこと。引っ越してからこれまで100匹ほどの猫の避妊・去勢手術を行ったといいます。

ご自宅で保護している猫は11匹。そのうち5匹の猫を日本に連れてきたとのこと。留守中は、旦那さんに自宅の猫のお世話のほか、外猫たちの餌やりなどをお願いしているそうです。

■下半身不随の保護猫 虐待されて背骨が曲がった可能性も

今回譲渡会に参加する猫は、みけちゃん(雌・推定4歳半)、ティトくん(雄・推定2歳)、すずちゃん(雌・推定2歳)、みうちゃん(雌・推定1歳8カ月)の4匹。このうち、最年少のみうちゃんは下半身不随の猫です。生後3カ月くらいのときに保護されました。

出会いは1年半くらい前、真実さんが息子さんと一緒にお散歩をしていたときのこと。草むらのところに子猫を見つけました。「おいで」と呼んでみたら、後ろ足を引きずりながら近寄ってきたそうです。そのうち子猫がいた場所の前の家から子どもが出てきました。子猫のことを尋ねたところ、「3日前からいるよ。この子のお母さんが死んだよ」と…保護するしかないと思った真実さんは子猫をカバンに入れて、急いで帰宅。動物病院に連れて行き、レントゲンを撮ってもらい、子猫の背骨が曲がっていたことが分かりました。その子猫が下半身不随のみうちゃんでした。

獣医師からは「外傷なのか、生まれつきなのか、分からない」と言われましたが、腰周りに何カ所かケガをしていたこともあり、虐待を受けた可能性もあるのではと考えたという真実さん。そのころ、ケガをしている野良猫を多数目撃していました。みうちゃんを保護する少し前には、同じく下半身不随のキャラメルちゃん(雌・推定1歳8カ月)を保護。実は、下半身不随の猫と出会うのはみうちゃんが3匹目でした。このほか、骨折している猫もいたそうです。そんな負傷の猫たちが相次ぎ、「虐待している人がいるんじゃないか」と居住地で話題にもなっていたといいます。

幸運にも真実さんに助けられたみうちゃん。1日3回排泄の介助が必要ですが、今は少しずつおしっこを自力で出せるようになっています。また、ちょっとした刺激でおしっこが出てしまうこともあるので、おむつを付けているそうです。

■アリが全身にたかっていた猫 今では人間好きの甘えん坊さんに

一方、最年長のみけちゃん。エイズキャリアの猫ではありますが、元気に毎日を過ごしています。人間が大好きでいつも膝の上に乗るなど甘えん坊さんです。

そんなみけちゃんも壮絶な過去がありました。真実さんたちが別のコンパウンドに引っ越してから初めて保護した猫です。真実さんたち家族が外出する際に、真実さんのところに近付いてきて「にゃーにゃー」と鳴く1匹の猫がいました。それがみけちゃんでした。ガリガリにやせていて、まるで死臭のような臭いがしていたそうです。体を見ると、たくさんのアリがたかっていました。

急用だったため、そのまま外出先に向かいましたが、みけちゃんのことが気になった真実さんはすぐに戻りましたが、探してもおらず…その日は、あきらめて帰宅しました。翌日、もう一度見つけた場所を探し回り、無事にみけちゃんを見つけることができ、保護することに。当時、ご飯と水をあげましたが、みけちゃんは全く口にすることはありませんでした。

動物病院に連れて行ったところ、獣医師からは「歯の状態が悪く、ほとんどの歯を抜かないと感染症などになって命に関わる」と宣告。すぐにみけちゃんを入院させ、衰弱した体力が回復してから抜歯手術を行ったとのこと。そして、真実さんの必死の看病で、徐々に元気な姿を取り戻したといいます。

こうしてみけちゃんも真実さんに助けられ、今回の譲渡会に参加。優しい里親さんとの出会いを待っているそうです。

   ◇   ◇

27日に開かれる譲渡会の会場は、東京都中央区築地4-1-17銀座大野ビルB1「TKKセミナールーム」。予約は不要。11時~15時(最終受付:14時30分)。里親募集に関する問い合わせは、真実さんのインスタ(@saudineko)、あるいはブログのDMで。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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