「もう一度会いたい。幽霊でもいいから、姿を見せて」保護猫活動を支えた2匹の猫との思い出
もう一度、愛猫に会いたい。幽霊になってでも構わないから。そう願う愛猫家は少なくありません。福岡県に住むトリマーのYさんもそう願っている一人。娘さんは気配を感じることがあるのだそうですが、霊感ゼロのYさんは全然分かりません。
あの子が嫌いだった鼻をすする音、聞こえるといつも嫌そうな声で「ニャー」と言っていました。今、わざと鼻をすすってみても、その「ニャー」は聞こえてきません。姿が見えないならせめて声だけでもと思っても、それも叶いませんでした。
Yさんがどうしても会いたい猫とは、QPくん。享年20歳でした。猫では長寿中の長寿ですが、長く一緒にいたからこそ喪失感が大きいのだそう。
思い出すのは、QPくんとの出会い。Yさんが勤めていたペットショップの看板猫が、QPくん。元は野良猫で店員の一人が飼っていたものの同棲相手がアレルギーのため、QPくんはお店で寝泊りをすることに…。見かねたYさんがQPくんを家に連れて帰ったのが始まりです。
この時、QPくんは1歳ぐらい。看板猫であるため、ファンがついているQPくん。ファンの皆さんに可愛がってもらえるのは嬉しいけれど、やはり疲れていたよう。Yさんの家でとてもくつろいだ表情を見せました。夜もぐっすり眠れているよう。
これを見てYさんは、もうお店に連れていかないことを決意。お家だけで過ごすことになります。
しばらくは、Yさん家族とQPくんだけの暮らしでしたが、ある日のこと、Yさんの夫が氷雨に濡れた1歳ぐらいの女の子の猫を拾ってきます。ひどく衰弱していたため、この子もYさんの家で暮らすことになりました。
名前は「時雨」と名づけられ、QPくんの恋人のように。この2匹はとても仲が良く、お互いを支え合える関係。産休後、保護猫の預かりボランティアを始めたYさんの助手のような猫たちでもありました。
QPくんは看板猫になるほど誰とでも仲良くなれるため、保護猫たちの良いホスト。どんな子にも優しく接して、一緒に遊んでいました。でも、体力や気力は無尽蔵に湧いてくるものではありません。いくら楽しくても、QPくんに疲労の色が見えることが…。
そんな時は、時雨ちゃんがお迎えに。「アナタ、帰るわよ」と。
時雨ちゃんは社交的とは言い難い性格ですが、それがQPくんの働き過ぎを食い止めていたのです。
この2匹がいてくれたからこそ、Yさんも保護猫活動を安心して行えていました。まぁでも、時雨ちゃんはもっと他の猫と仲良くしてくれても良かったかなと思うことも。すぐ「シャー!」というクセは、晩年になるまで続きました。
いくら仲が良くても命の時間まで共有はできません。刻一刻と別れの時は近づきます。
遂に、時雨ちゃんは老衰で先に虹の橋のたもとへ旅立ちました。時雨ちゃん18歳、QPくん19歳の時です。いつまでも亡骸に寄り添う姿は、お世話をするY家の人達の涙を誘いました。
そして、QPくんもまた虹の橋のたもとに旅立つ時が訪れます。獣医師は老衰だといいますが、Yさんはもっと出来たことがあったかもしれないと、今も自分を責めます。もっと早く異変に気付けば……。
QPくんが旅立って1年が経ちました。Yさんは、トリマーの仕事も保護猫活動も続けています。代り映えのしない日々の中、QPくんがいません。19年、パートナーとして支えてくれたQPくんが。
せめて夢の中でも会いたい。その願いは虚しく、一度もQPくんは夢に現われることもありませんでした。
Yさんは今、2匹の愛猫と3匹の保護猫、1匹の犬と暮らしています。この子たちは、Yさんに寄り添い生きています。恐らくQPくんたちは、この子たちに遠慮しているはずです。そんな優しい子でしたから。
それに、あまりQPくんのことばかり考えていたら、ヤキモチを妬いて時雨ちゃんが化けて出てくるかもしれませんよ。「シャー!」って言いながらね。
それでも良い。あの子たちにもう一度会いたい。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)