電車運転士のお給料事情は? 中部地方の私鉄の場合「多い泊まり勤務」「ボーナス減も、今は贅沢いえない」
早朝の始発から深夜の終電まで、交代勤務とはいえ生活が不規則になりがちな電車の運転士。仕事について、そしてお給料について、中部地方の私鉄で電車の運転士を務める「現役電車の運転士」さん(20代)に聞いた。
■電車の運転には「免許」が必要
「現役電車の運転士」さんは、車掌を経て今年で5年目の若手運転士だ。Twitterで鉄道に関する情報発信もやっている。
「電車を運転するには免許が要ります。免許の種類はいくつかあって、すべて国家資格です。ちなみに運転士のことを、行政上の呼び方で『動力車操縦者』といいます」
動力車操縦者免許は国土交通省が認可した動力車操縦者養成所で取得するが、養成所をもっているのは大手の鉄道会社だけ。養成所をもたない鉄道会社は、養成所のある会社へ委託したり出向したりして運転士を養成している。
免許を取得するまでの大雑把な流れは、鉄道に関する法律、列車、線路、設備に関する知識などの学科講習を受けて試験に合格したら、指導運転士が同乗して技能講習を受ける。
「学科試験の難易度は、高くはないです。ただ短期間で覚えることがたくさんあって、暗記の苦手な人には辛いでしょうね。技能は、はっきりいってセンスしだいかなと思います」
機械的な操作のほか、さまざまな外的要因も意識しなければならない。たとえば雨の降り始めはレールの踏面上の塗油が浮き出て、列車が滑ったり車輪が空転したりする。また線路の踏面以上に雪が積もっていたり、超満員で車体が重くなっていたりするとブレーキの効きが悪くなる。進行方向によっては、日光が差し込んできて眩しい。このように天候、季節、時間帯などによる特性の変化を意識して、適切な運転操作をすることも求められるのだ。
取得した免許は、JRも私鉄も共通で使えるという。たとえばJR在来線の運転士が大阪メトロへ転職した場合、会社が認めたら地下鉄を運転できるそうだ。
「ただし気動車、電車、新幹線、路面電車などは免許の種類が異なりますから、新幹線や路面電車を電車の免許で運転することはできません。信号や標識なども会社によって決まりが違うので、他社へ転職したら一から学び直す必要があるかと思います」
■早朝から深夜におよぶ勤務…お給料は?
「乗務員は泊まり勤務が多いです。うちの会社では基本的に1泊2日ですが、2泊3日という会社もありますし、泊まらずに日勤だけの勤務もあります。私はお昼頃に出勤して、翌日のお昼頃に終わります」
休みは取れるのだろうか。
「乗務員は5日働いて2日休みというパターンです。有休休暇は、会社の人員状況で取りやすかったり取りづらかったり。人が足りないときは、有休の取得を控えるよう会社から『お願い』されます」
気になるのは年収だが、車掌を経て運転士歴5年だと、どれくらいだろうか。
「350万円くらいです。ちなみに独り暮らしです。コロナ禍みたいに、お客様の数が大幅に減ると影響は小さくないです。実際、今年のボーナスが昨年より少し減りました。そうはいっても、こういうご時世でもお給料やボーナスをいただけることはとても恵まれていると思います。今は贅沢をいえる状況でないことは十分理解しています」
■突然の体調不良…そんな時、どうする?
拘束時間が長く緊張を強いられる勤務の中で、やりがいを感じる瞬間はどんなときだろうか。
「いちばんは、お客様からの感謝の言葉をいただいたときです。とくに小さな子どもから手を振ってもらうと、この仕事をやっていてよかったなと感じます」
子どもに関して、こんな出来事があったという。
「ある日、小学生の男の子が寝過ごしてしまい、降りる予定の駅から随分離れた駅まで行ってしまって、泣きながら『家に帰れない』といってこられたことがありました。たまたま折り返しで、その子が降りたい駅に行く電車も私が担当だったので、慰めながら駅まで送って行ってあげたことがありました。電車が好きな子だったみたいで、それからは私が運転する電車に乗ったら運転台の後ろに張り付いて、降りるときに手を振って挨拶をしてくれるようになりました」
その一方で、対応に困るお客さんもいる。
「前の電車に乗るはずだったのに、乗り遅れたお客さんがいました。定刻通りに発車したので、こちらに非はないのですが、私に向かって『どうしてくれるんだ!』と一方的に文句をいわれました。こちらの説明に全く耳を貸さないお客様もおられます。会話が成り立たないのは困りますね」
ところで今年(2021年)5月、東海道新幹線の運転士が、トイレへ行くために運転席を3分間離れた事案があった。このような場合の正しい対処マニュアルはあるのだろうか。
「乗務中の場合は、無線もしくは業務用の携帯電話で司令に連絡して、お手洗いへ行きます。あくまでうちの会社でのことですが、運転ができないほどの体調不良を除いて、乗務員は交代しません。もっとも運転中に駅で停車したついでにトイレに行って、多少の遅延が生じても責める人はいません」
現役電車の運転士さんは勤務の特性上、睡眠不足になりがちなので、健康管理にはとくに留意しているという。
■完全無人運転は実現するのか? これからの鉄道
タクシーは将来AI化による自動運転が進むといわれているが、鉄道はどうだろう。大阪のニュートラムや神戸のポートライナーのように無人の自動運転が電車にも導入されるのか。
「自分の考えでは、いずれはなるでしょう。でも、毎年赤字を出すような路線を抱える鉄道会社では夢の話ですから、導入が進んでも大手だけじゃないかなと思います。
自動化のメリットは人件費の削減、オーバーランや操作ミスなどのヒューマンエラーが減らせることです。デメリットは、機械やシステムのトラブルなどで事故が起きて死傷者が出たら、責任の所在が曖昧にならないか。私はまだ人間が運転したほうが信用できると思います」
最後に、運転士に向いている人・向いていない人を聞いてみた。
「向いている人はメンタルが強い人、社交性が高い人、臨機応変に物事を判断することができる人だと思います。向いていない人は、社交性が無い人、分からないことを人に訊かず自分の想像で判断する人、メンタルが弱い人ですね」
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)