迎えた子猫の心臓には穴が!?保護主さんに返すか「うちの子」にするか…障害のある子に家族が下した決断
楽しいはずの猫との暮らし。しかし、もしその猫に障害があったら……。その問題にぶち当たった家族が福岡県におられます。T家です。
T家にはすでに1匹の猫がいました。2020年8月に迎えた保護猫のコタくんといいます。元野良猫で、約生後1カ月のころ用水路を流されているところを保護されました。コタくんの弟がぎんちゃん、このお話の主人公です。母猫からはぐれているところを、生後約1カ月のころボランティアさんに保護されました。
ボランティアさんのもとから、すぐT家に迎え入れられます。でも、コタくんには不評。「なんだなんだ」と遠巻きに見るばかり。弟だと説明はしたのですが、兄弟の概念は分からなかったよう。
それでも、1週間ほどでお互いの鼻を付けたり毛づくろいをし合ったりと仲良くなりました。やっぱり、兄弟ですね。
ぎんちゃんは末っ子として、T家の3人の子供たちにも可愛がられます。でも、コタくんと少し違うことがあったのです。それは呼吸が荒いこと。それに、なんだか心拍数も速いみたい。何かの病気だろうか……。
心配したお母さんは、かかりつけ病院にぎんちゃんを連れていきました。そこで検査をした結果、ぎんちゃんの心臓には穴が開いていると分かったのです。心室中隔欠損症といいます。これだから、呼吸が荒くなっていたのです。心臓の穴は大きくないものの、小さくもないとのこと。薬を飲み続けなければ、長くはない。
獣医師の宣告に、お母さんは目の前が真っ暗になりました。せっかく迎え入れた子猫にこんな大きな障害があるだなんて…。
T家では家族会議が開かれました。ぎんちゃんの病状の説明をし、今後を話し合います。このままうちの子にしておくか、それとも保護主さんに返すか。
お母さんとお父さんは、子供たちにも意見を求めました。すると、小学4年生のお姉ちゃんは苦しそうな表情で言いました。
「保護主さんに返してほしい」
一昨年、愛犬のいのりちゃんを見送ったお姉ちゃん。仲良くなったとしても、またあの別れを経験しなければならない。もう大切な存在の苦しむ姿は見たくない。それならば…。
お母さんは悩みます。例え猫であれ、ひとたび家に迎え入れたなら我が子も同然。その我が子に障害があるからといって、見捨てられるだろうか。それでも、愛娘が「返してほしい」と言っています。一体、どうすれば…。
保護主さんに電話をかけ相談をしますが、答えは出ません。そうこうしているうちに、ぎんちゃんは成長し、心臓の穴も大きくなるかもしれません。そうなったら、生きていられないかも知れない。
遂に、お母さんは結論を出しました。
「ぎんちゃんはうちの子にする」
こう家族に伝えた時、お姉ちゃんは心底ほっとした笑顔で「良かった」と言いました。
ぎんちゃんと一緒にいたくないわけではありません。ただ苦しむ姿は見たくないだけ。何より、お母さんの苦しむ姿も見たくない。お母さんを苦しめるなら、一緒にぎんちゃんのお世話をしたい。
こうなると、本格的にぎんちゃんの障害を受け入れる体制を整えます。まずは家族の理解。抱っこも心臓の負担になるので、極力控えること。あとは遊ばせ過ぎないこと。これを家族全員で守ります。
もちろん、コタくんも家族ですからお願いです。「ぎんちゃんを遊ばせ過ぎないでね」と。コタくんは言いつけを守り、あまり激しく遊ばなくなりました。
当のぎんちゃんは、自分で分かっているのでしょう。少し遊んだら休憩のためにコロンと転がります。この「コロン」があるからこそ、ハアハアと息切れすることなくコタくんと遊んでいられます。
お母さんがぎんちゃんに望むことは、ただ一つだけ。
「元気で長生きしてほしい」
ぎんちゃんは生涯薬が手放せないものの、その分、日々が大切なものになりました。毎日が記念日みたい。
1歳の誕生日は4カ月後です。その時はどんなお祝いをしましょうか。ぎんちゃん、今から何がほしいか決めておいてね。一緒にその日を迎えようね。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)