ご飯を食べた!…安楽死がよぎった下半身不随の野良猫に生きる力が 前足だけでお散歩もできるように
安楽死。それはペットにできる「最後の治療」です。しかし、それは最終手段。できるだけ避けたいものです。
長崎県長崎市でも安楽死を検討された猫がいます。名前はルフィーくん、推定2歳です。ずぶ濡れの状態で保護されました。濡れているだけならまだしも、下半身がピクリとも動きません。だから、雨に降られても動けなかったのです。
ルフィーがいたのは、一般家庭の駐車場。見かねた近隣住民が板を立てかけてくれました。そこへレスキューに訪れたのが、「R&G長崎の保健所の命を救う会」の代表・浦川たつのりさんです。今年の5月18日のことでした。前肢は動いているものの、後肢がだらんと力が入っていない様子。尻尾も動きません。
この猫は「ルフィー」と名前をつけられ、浦川さん運営の施設に連れて帰られます。その後は動物病院です。1軒目では、交通事故の可能性を示唆されますが、レントゲンを見てみると骨折はしていません。
2軒目ではウイルスに感染し、神経が麻痺しているかもしれないと言われます。MRIとCTを撮ると、外傷性の脊椎損傷の可能性も出てきました。様々な可能性が出てきましたが、未だ原因不明。最も有力なのが外傷性の脊椎損傷です。
ただ、原因が分かったところで現状が変わるわけではありません。下半身不随で自力で動くことは不可能、自力での排泄もできません。尿道にはカテーテルを差し、浦川さんたちスタッフが皮手袋をはめて2人がかりで排尿をさせます。排便も同じく。指でほじり出してやらないといけません。
保護された当初は、まったくご飯に口をつけなかったルフィーくん。自力で食事もできないのであれば…。浦川さんの脳裏に「安楽死」の三文字が浮かびます。生きようという気力のない猫に、団体のリソースはこれ以上割けません。
なにより無理やり「生きさせる」ことが、果たして当のルフィーくんにとって幸せなことなのか。これ以上苦しむのであれば、いっそのこと…。
安易に「助けろ!」というのは簡単です。しかし、看病をする人間や当事者である猫の苦しみは「死」が訪れるまで続いていきます。この苦しみは果たして正解なのだろうか。浦川さんの眠れない夜が続きます。
ルフィーくんを保護して1週間ほど経ったころ、なんとルフィーくんがちゅーるをガツガツ食べてくれたのです!これなら治療できる!希望の光が見えてきました。その翌日には、ちゅーるだけでなくカリカリも口にしたのです。これには浦川さん、ガッツポーズ。今はカテーテルを抜いて、圧迫排尿ができるようになりました。
ご飯が食べられるようになったルフィーくんは、徐々に健康を取り戻していきます。血液検査では、猫エイズが発見され重度の貧血でもありますが、スタッフが見ているところでは部屋の中を器用に前足だけでお散歩するんですよ。
それになんと、窓側の壁に立てかけてあった網を上って、窓辺のベッドに移動もできたんです。ビックリです。野良猫だから、見渡せる場所が好きなのでしょう。今、ここはルフィーくんの定位置になっています。
ルフィーくんはご機嫌でベッドで過ごしていますが、スタッフは落ちないかヒヤヒヤ。だから、人間がいる時だけの楽しみになっています。
現在は元野良猫ということと体調が悪いことが相まって、非常に凶暴なルフィーくん。それでも浦川さんは、希望を捨てていないんですよ。奇跡が起きて足が動けばと願って止みません。下半身不随でも可愛がってくれる、長崎市近辺の里親さんが名乗り出てくれたらとも願っています。
それでも今は、人慣れすることが先決。排泄処置の際に本気で噛んできますので、まだまだ里親募集は先のことになるでしょう。
「まだ先のこと」とはいえ、未来が見える状態になったルフィーくん。安楽死が頭をよぎったなんて嘘みたい。今日も元気に窓際のベッドに上って、お外と部屋の中を見渡します。
どうか、ルフィーくんの目に映るものは、美しいものでありますように。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)