「子どもに接種させるか、悩んでいます」その疑問、豊田真由子がお答えします ワクチン接種の注意点<後編>
新型コロナワクチンの接種については、医療従事者、高齢者に続き、職域接種や64歳以下の方への接種が始まっています。現在、ワクチン接種会場の運営の監修をさせていただく中で、ご質問の多かった事項を中心に、考えてみたいと思います。
高齢者からは「重症化がこわいし、周囲に負担をかけたくないから、早く打ててよかった」という一方で、若い方々から「ワクチン接種の長期的な影響が分からなくて不安。ちょっと様子を見たい」、保護者から「子どもに打たせるのは不安」といった声も聞こえます。
ワクチンを接種するかどうかは、最終的には、それぞれの方のご判断です。ただ、様々な情報が世に溢れる中で、少なくとも、その判断の前提として、「その時点における最新かつ(科学的に)正しい情報」が、お一人おひとりにきちんと届くようにすることが、大切なのだろうと思います。前編と後編に分けて解説します。今回は後編。
■Q)ワクチンの効果の最新知見は?
これまで、ワクチンを接種した人は、新型コロナウイルスの「発症」と「重症化」を予防することはできるが、ウイルスへの「感染そのもの」を予防することができるか、そして、それによって、接種した人から「他人への感染」をどの程度予防できるかは、明確でないとされてきましたが、4月15日に公表されたイスラエルの研究結果では、いずれも高い効果があることが示されています。
イスラエルで、①ワクチン接種済みの人と②ワクチン未接種の人、各約60万人(合計約120万人)を比較して、ファイザーワクチンの有効性を検証した結果は、以下のようになっています。
(ⅰ)感染を防ぐ効果:46%(1回接種後)、92%(2回接種後)
(ⅱ)発症を防ぐ効果:57%(同)、94%(同)
(ⅲ)入院を防ぐ効果:74%(同)、87%(同)
(ⅳ)重症化を防ぐ効果:62%(同)、92%(同)
ワクチンを接種することによって、自分の感染、発症、重症化のリスクをいずれも減らすことができ、そして、周囲の人に感染させるリスクも減らすことができることになります。
では、新型コロナウイルスについて、国内でどれくらいワクチン接種が進めば、集団免疫を獲得できるかということについて、確定的な結論ということではありませんが、4割程度で感染動向に変化が現れ、7割から9割の接種率で集団免疫が得られるのではないか、という認識が示されています。
一方で、接種を完了しても、感染・発症する可能性はあります。
例えば、米国CDCによれば、今年4月末までに米国で使用が許可されている3種類の新型コロナワクチン(米ファイザー、米モデルナ、米ジョンソン・エンド・ジョンソン製)の接種を完了した人は、およそ1億100万人で、そのうち、「接種を完了した後で感染した」と報告された人は、およそ0.01%に当たる1万262人だったということです。CDCは「米食品医薬品局(FDA)が承認したワクチンには高い有効性があるものの、ブレークスルー症例は、特に集団免疫が伝染抑制に十分な水準に達していない場合等には、当然起きる。ワクチンは高い効果を示している。」としています。
これらブレークスルー感染のうち、27%(2725人)が無症状、7%(706人)がコロナ関連の理由で入院、1%(132人)がコロナ関連の理由で死亡。発生率はブレークスルー感染が約0.01%、入院が0.0007%、死亡が0.0001%。ブレークスルー感染の5%でウイルスのゲノム配列データが存在し、うち64%が懸念されている変異株で、最も多かったのは、英国で最初に確認されたB.1.1.7だったとのことです。
また、ワクチン接種が進んだ(約6割)イスラエルでの感染再拡大(デルタ株)と規制再強化(例:マスク着用)等も、注視していきたいと思います。
■Q)食物アレルギー、アトピー、花粉症などがあってもワクチンは打てる?
現代社会では、多くの方がさまざまなアレルギーに悩まされていると思います。食物アレルギー、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、アレルギー性鼻炎、じんま疹、アレルギー体質があるといった理由だけで、ワクチン接種を受けられないわけではありません。接種するワクチンの成分に関係のないものに対するアレルギーを持つ方も、接種は可能です。
ただし、これまでに、薬や食品など何らかの物質で、重いアレルギー反応(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある方は、接種後、通常より長く(30分間)、接種会場で待機していただくことになります。予診票にご記入いただくとともに、予診の際に、原因の物質やその時の状況をできるだけ詳しく医師にお伝えいただきたいと思います。
また、ワクチンの成分に対し、アナフィラキシーなど重度の過敏症の既往歴のある方等は、ワクチンを接種することができませんので、「体質上、どうしてもワクチンを受けられない方がいる」ということへの理解も大切だと思います。
■Q)1回目と2回目は、異なるワクチンでもいいの?
1回目と2回目で、異なるメーカーの新型コロナワクチンを接種する「異種混合接種」(例:1回目はアストラゼネカ製、2回目にファイザー製を接種)については、欧州などで実際に行われ始めています。1回目はアストラゼネカ製を接種したドイツのメルケル首相は、2回目はモデルナ製ワクチンを、同じくイタリアでのドラギ首相は、2回目はファイザー製を接種しました。
混合接種については、アストラゼネカ製でごくまれに起こる副作用の血栓症を避けられる可能性や、免疫反応の強化、ワクチン供給不足への対応などの観点からも前向きに検証が進められています。
ただ現時点では、日本では、1回目2回目とも同種のワクチンを接種することが求められています。自治体の接種会場(基本的にファイザー製を使用)の場合は、当該自治体の設置した他の会場で接種することを認めている場合もありますが、自衛隊や自治体の大規模接種会場や職域接種ではモデルナ製を使っており、また、接種記録を的確に管理等するためにも、新たな方針が示されない状況においては、同一会場(あるいは同じ自治体設置の別会場)で、同種のワクチンを接種いただくということになると思います。
■Q)一度新型コロナウイルスに感染した人は、ワクチンを打たなくてもよい?
すでにコロナウイルスに感染した人も、ワクチンを接種することができます。新型コロナは一度感染しても再度感染する可能性があること、自然に感染するよりもワクチン接種の方がウイルスに対する血中の抗体の値が高くなることが報告されていることに基づきます。感染歴のある人の方がワクチンを接種すると、より高い抗体価を得られる、あるいは、痛みや副反応の発言割合が高いという報告もあります。
感染後や治療後は、接種まで一定の期間をおく必要がある場合もありますので、接種前に医師にご相談いただくのがよいと思います。
なお、新型コロナ感染症に感染した人の体内で、どれくらい抗体が持続するかについては、少なくとも8か月や1年は、大半の人で抗体が持続するという研究報告があります。ただ、筆者の周囲では、新型コロナに感染した人が数か月経って抗体検査をしたところ、陰性(抗体が持続していなかった)というケースも、複数聞くところです。
■Q)子どもに接種させるか、悩んでいます。
このご相談も非常に多く寄せられます。「自分で決めて、自分が接種する」のとは異なり、「自分(保護者)が決めて、子どもに接種させる」ということになりますので、より一層慎重になるお気持ちもよく分かります。
ファイザー製ワクチンについては、アメリカで12歳から15歳を対象に行った治験で、有効性や安全性が確認されたとするデータが提出され、これを受け、5月31日、日本でも、法律上の公的な予防接種の対象に12歳から15歳を加えることが決められました。保護者の同意が必要になります。
また、学校での集団接種を行うことについては、国は、現時点では推奨しないとしています。(なお、これまでの我が国の予防接種を巡る複雑な歴史を考えると、学校での集団接種の実施は、難しいだろうと、私は思います。)
感染症の種類によっては、幼い子どもの間で流行しやすい、重症化や後遺症のリスクもある、といったものなども様々ありますので、ワクチンを接種すべきかどうかの判断は、一律ではないのだろうと思います。
留意すべき点としては、新型コロナの新規感染者に占める若年層の割合が、増加し続けていることがあります。
東京都の感染状況ですが、例えば、
3月2~8日は、10歳未満3.7%、10代4.4%、20代21.5%、30代15.7%、40代13.0%、50代12.8%、60代以上27.9%に対して、
6月15~21日は、10歳未満3.1%、10代7.9%、20代32.0%、30代18.9%、40代16.6%、50代12.2%、60代以上9.3% と、若年層の割合が増えています。
ただ、新規陽性者に占める若年層の割合は増えても、重症者に占める若年者の割合は依然として高くはありません。ただし、軽症・中等症でも深刻な後遺症が続くといったことも聞かれ、判断は難しいところだと思います。
これまでのことを総合的に踏まえ、わたくしは、どの年代の方であれ、「ワクチンを接種した方がよいか?」と聞かれた場合には、基本的に、次のようにお答えしています。
・新型コロナウイルスワクチンについては、法律上は、接種は『努力義務』(予防接種法9条)とされ、『ご自分と周囲の方、そして社会全体を守るために、接種することが望ましい』ということになっています。
・新型コロナウイルス感染症は、高齢者の方は重症化リスクが高く、若年者の方は重症化リスクは高くありませんが、後遺症のリスク等はあります。
・これまでのデータによれば、新型コロナワクチンについて、ほとんどの副反応は数日でおさまり、アナフィラキシー等の起きる頻度はまれで、適切な措置をすれば、基本的には大事には至らないと言われています。
・新型コロナワクチンのmRNAは、数分~数日といった時間の経過とともに分解されていき、また、人の遺伝情報(DNA)に組みこまれるものではないとされており、mRNAワクチンを注射することによって、その情報が体内に長期に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれることはないと考えられています。
・ただ、最終的には、ワクチンを接種するかどうかは、それぞれの方のご判断であり、ご年齢や持病の有無、仕事面等での必要性、高齢のご家族との同居の有無等々、新型コロナウイルス感染症によるリスクを考慮し、リスクとベネフィットを比較した上で、ワクチン接種を受けるかどうかを判断していただく、ということになると思います。
公衆衛生・感染拡大防止の観点からは、ワクチン接種を推奨すべきではあるものの、多くの方々の様々な懸念に実際に触れると、一言で簡単にそう片づけることはなかなか難しい・・、というのが、わたくしの実感です。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。