リニア中央新幹線、かつて「試乗」できたのをご存知ですか 時速500キロでも新幹線と変わらぬ乗り心地
東京から名古屋まで、2027年の開業を目指しているリニア中央新幹線。南アルプストンネルなど解決しなければならない課題も多く、建設には賛否の意見がありますが、そんな話題のリニアにかつて「試乗」できたのをご存知でしょうか。
■未来の乗り物というとリニアモーターカー
筆者は小さい頃から鉄道に限らず乗り物全般が大好きで、特に国鉄の最初のリニア実験車両ML100の卵形の、まるでウルトラ警備隊が乗ってそうなフォルムにはものすごい憧れを抱いていました。そして1970年代終わりに「リニアモーターカーが時速517キロを出した」というニュースには、こどもながらものすごくテンションが上がったのを覚えています。居間にあった14インチのブラウン管に映った、宮崎県の実験線を走る赤と白に塗り分けられたリニアモーターカーML500の映像に「ついに未来の世界がやって来た!」と感じたのですね。
いつかあれに乗ってみたい。その思いは1985年「つくば博」で一応実現します。一応、というのは「会場内に敷設された350メートルの線路をゆるゆると移動する」という、リニアモーターカーなのにめっちゃ遅い、しかも短い、という体験だったからです。また、このときのリニアモーターカーは国鉄の超電導リニアではなく、日本航空が開発していたHSSTでした。これはスタートからいきなり磁気で浮上するのですが、その高さはごく僅かなので乗っていてほとんど感じられませんでした。そしてそのまま「すーっ」と音もなく移動して、あっという間に終点だったのを覚えています。
ちなみにHSSTはその後、2005年の「愛・地球博」でリニモ(愛知高速交通東部丘陵線)としてデビュー、現在も営業運転しています。
■5年間だけ行われていた体験乗車
JR東海は、2014年から2019年の期間に「超電導リニア体験乗車」という試乗会を行っていました。場所は山梨リニア実験線。山梨県笛吹市境川町から上野原市秋山までの、全長42.8kmです。この区間は開業時にはそのまま路線の一部に組み込まれる予定なので、ある意味先行開通部分と言えるかも知れません。都留市にある県立リニア見学センターに隣接する駅から乗車します。参加は完全予約制で、実施日が決まるとウェブサイトで募集して抽選、という形を取っていました。競争率は初年度で64倍、2015年度でも平均20倍だったといわれています。
筆者がこの体験乗車を知ったのは2016年の初夏。以来、何度かの募集に応募しては落選、また応募を続けました。希望日を競争率の低そうな平日にするなどしたのがよかったのか、2017年の春にようやく当選しました。試乗場所の最寄り駅はJR大月駅。筆者の住んでいる兵庫県から行くとなるとかなり遠いです。集合時間は14時15分でしたので、それまでに余裕を持って到着していないといけません。電車でおよそ8時間、さらに大月駅からバスなので、始発で出ても危ないです。なので、一緒に申し込んだ友達と二人、クルマで出かけました。およそ500キロの道のりでした。
かなり時間に余裕を持って着けたので、時間までゆっくりリニア見学センターを見て回ります。ひとつ早い時間の体験乗車で通過する車両を、この施設から何度か見ることができたのですが、やっぱり速いです。
このL0系と呼ばれる車両には、前方に窓がありません。自動運転を前提にしていて、運転席がないのです。普通の電車はパンタグラフから電気を受け取って電車のモーターを回して進みますが、L0系は車両側に動力がないのです。ていうか、車両自体がモーターの一部なのです。車両の側面に超伝導磁石というものすごく強力な電磁石があって、それを線路側の電磁石でタイミング良く押したり引いたりして動かすのですね。だから線路全体と車両が合わせてひとつのモーター、っていう感じなんです。また「地上側から運転する」って、なんとなく鉄道模型みたいですね。
■時速150キロを超えた辺りで「離陸」!?
さて、時間が来たので乗り場へ向かいます。実験線の下をくぐって、顔ハメ看板とかが設置された通路を歩いていくと、いやが上にも気分が盛り上がります。建物の中で短いガイダンスがあって、空港のような通路を通って車両に乗り込みます。椅子の感じとか、車内はほぼ新幹線の雰囲気です。ただ、窓はかなり小さいです。
これまた新幹線に近い感じで、ショックなく滑らかに動き出します。L0系は最初、車輪で走行します。動力はもちろんリニアモーターなんですが、車体は浮かずに車輪で支えられているのですね。つまり大阪メトロの鶴見緑地線みたいなものですね。車内に設置されたディスプレイを見ていると、速度は躊躇なくどんどん上がっていきます。
時速150キロを超えた辺りでL0系は「離陸」します。車輪を引き込んで、磁気で浮上する状態になるのですね。その途端、それまで感じていた音と振動が消えて、ほぼ無音になります。さらに速度はどんどん上昇して、時速300キロを超えてくると今度は風切り音を感じ始めます。なおも加速して、ついに時速500キロ。ごうごうという風切り音はありますが、揺れはほとんど感じません。ただトンネルの中で景色がないので、速さもあまり感じません。距離の表示だけが冗談のような早さで増えていきます。
乗車時間は30分弱。総延長42.8キロの実験線を1往復半ほどして、体験乗車は終わりました。あっという間に100キロ以上、加減速の時間や止まっている時間も含めて平均時速200キロオーバーで移動したことになります。
帰り道、また500キロのドライブをしながら「リニアだったら一時間の距離かぁ」なんて、友達と二人その非日常な速さを改めて噛みしめました。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)