「グラスを売っているんだよ」 酒類の提供自粛要請が出されていた中、お店の“苦肉の策”にモヤモヤ
新型コロナウイルスの影響を受け、私が住む地域では飲食店の時短要請に加え、酒類の提供自粛要請が出されていました。私には飲食店を営む友人がいて、彼の店もお酒を販売できないことが原因で店の存続が危ぶまれていました。しかしその店では、ある商品を売ることにして売り上げを伸ばそうとしていたのです。
■せめてテイクアウトを その日もふらりと立ち寄ってみた
私の家の近所には、知人が営む居酒屋があります。幼なじみである友人が営むその店は、お父さんの代から続くおいしい焼き鳥屋さんです。新型コロナウイルスの影響で営業時間の短縮に加え、酒類の提供自粛まで求められ、経営が大変なことは知人から聞いていました。その店では少しでも売り上げを伸ばそうと、お弁当や、焼き鳥のテイクアウトを続けています。
ある日の夕方、私はその店を訪れました。焼き鳥をテイクアウトして、少しでも売り上げに貢献しようと思ったからです。それまでも、月に1~2度夕方に立ち寄って、お弁当や焼き鳥を買うことはありました。お酒が出せないこともあり、これまで店内にお客さんはいませんでした。しかし、その日はなぜか数人のグループ客がいて、明るくにぎわっていたのです。
■店内にはなぜか上機嫌のお客さんが
私が店に入ると、顔なじみの店長が「いらっしゃい!」と声をかけてくれました。焼き鳥セットを2つテイクアウトで注文した私。店内はお客さんの明るい笑い声が響いています。そこで私は「今日はなんだかにぎやかですね」と聞いてみました。
すると店長は少し気まずい顔をして「時間あるなら少しお店に寄って行かない?面白いもの売ってるから」と、店の中に入るよう勧めます。私は気になり、思わず店内に足を運びました。
店の奥に入ると、そこにキレイなグラスが並べられていて、そこには「グラス1個1500円」というポップが付けられていました。
グラスを売っているの?と尋ねると、さらに奥の方にはビールサーバーやワイン、焼酎などが並べられていました。そして店長は「うちはグラスを売るようにして、あとは好きにお客さんが飲みたいものを注いでもらうようにしたの。だからお酒を売っているんじゃない。あくまでグラスを売っているんだよ」と言ったのです。
■そこまでして売る?気まずそうにお酒を飲む客
それを聞いて思わず絶句してしまった私。店内では4人ほどのグループがいて、それぞれ真新しいグラスを持ってお酒を楽しんでいます。
そのうちの1人と目が合うと、彼はグラスを隠すようにして気まずそうに下を向きました。ここで飲んではいけない、ということは彼もわかっているのでしょう。それでも店側がこのようなシステムを展開してしまえば、お酒好きな人は集まって飲んでしまいます。
私はもともとあまりお酒が飲めないこともあり、グラスを購入する気にはなれませんでした。その日はテイクアウトの商品だけを受け取って帰りました。その後、緊急事態宣言が解除され、時間制限付きで酒類の提供が解禁された今も、店には足を運んでいません。
◇ ◇
彼がやっていたことはやはり問題があったのではないのか?…でも経営が辛い状況において、苦肉の作戦として打ち出したのだと考えると、非難する気にもなれません。
あの日以来、もやもやとした気分で過ごしています。未だ終息の見えないコロナ禍、早く飲食店で堂々とお酒を楽しめる日が来ることを願ってやみません。
(まいどなニュース特約・長岡 杏果)