「阪急と阪神」定期券客の減少率を調べて分かった! テレワークの影響が出やすい路線・出にくい路線
コロナ禍になり「テレワーク」や「ステイホーム」が日常語として定着し、様々な影響を与えています。特に鉄道会社はテレワークの普及により、定期券客の減少に頭を悩ませていますが、定期客の減少率を見ると鉄道会社の間で差があることもわかります。なぜ差が生まれるのか、その原因を並行して大阪-神戸間を走る阪急神戸本線、阪神本線の沿線環境から考えたいと思います。
■阪急も阪神も定期客の減少率は低め
阪急電鉄も阪神電気鉄道もコロナ禍により、定期客は大幅に減少しています。2020年度の阪急の定期客は27万7068人となり、前年比-19.6%です。一方、阪神の定期客は10万7336人となり、前年比-15.9%です。
これでも大手私鉄16社の中では「マシ」といえます。定期券客の減少率が少ない方を上位とすると、何と阪神は1位、阪急は6位です。参考までに最も減少率が大きかったのは東急電鉄となり、前年比-33.7%でした。
一方、定期券外客を比べると話しは変わります。阪急は前年比-33.0%、阪神は前年比-35.7%となり、定期券客よりも減少率が大きいことがわかります。
■バラツキが見られる業種別テレワーク普及率
ところでテレワークはどのような業種で進んでいるのでしょうか。総務省が6月18日に発表した「令和2年通信動向利用調査」によると、産業別のテレワーク導入状況(2020年8月末時点)は情報通信業92.7%、不動産業68.1%、金融・保険業67.6%、製造業56.1%、運輸・郵便業30.4%となっています。やはり現場の仕事が多い製造業や運輸・郵便業は情報通信業や不動産業と比べると遅れをとっていることがわかります。
また資本金規模別に見ると50億円以上が83.7%に対し、1000万円未満は19.1%にとどまっています。
■定期客の減少率は沿線環境とリンクするのか?
先ほど見た定期客減少率ランキングでは1位阪神(-15.9%)、2位南海(-17.1%)、5位近鉄(-18.0%)、6位阪急(-19.6%)、7位京阪(-20.3%)でした。同じ関西でありながら、ここまで差がつくのはなぜでしょうか。
ここでは並行路線である阪急神戸本線(大阪梅田~神戸三宮)、阪神本線(大阪梅田~元町)を例に取り上げて考えます。ここでは会社別と同様に阪急神戸本線と阪神本線においても定期客の減少率に差があるという前提で話しを進めていきます。
阪急神戸本線と阪神本線の沿線環境を比較する上で参考になるのが尼崎市が発表した「尼崎市都市計画マスタープラン2014」です。尼崎市では市を「阪急沿線地域」「JR沿線地域」「阪神沿線地域」「臨海地域」の4地域に分けています。
2014年発表の地域別土地利用現況割合によると阪急沿線地域の住居系の割合は51.8%とずば抜けて高く、工業系は7.9%です。
一方、阪神沿線地域の住居系は43.5%、工業系は18.4%です。ここで注目したいのが阪神本線の南に広がる臨海地域です。臨海地域は工業系が60.8%を占め、住居系はほとんどありません。尼崎市の臨海地域は阪神工業地帯の一翼を担い、製造業を中心とする大企業の事業所や中小企業が集まる工業団地や運輸・流通施設があります。
臨海地域へ向かう阪神バスは阪神・JRの駅を始発としています。尼崎市では阪急線と阪神線の間は比較的離れているため、阪急の各駅から臨海地域へのアクセスはそれほど多くないと思います。なお西宮市や神戸市も尼崎市のように海側に工業地区が設定されています。
このようなデータから勘案すると、現場作業が多い製造業などの工業地区がある鉄道路線は定期客の減少率が低いという結論が導けるのではないでしょうか。現に定期客減少率が低い南海も沿線には堺・泉北臨海工業地帯をはじめとする工場群を抱えています。
コロナ禍が終わってもテレワークは定着、普及することでしょう。今後の鉄道会社の取り組みに注目したいところです。
(まいどなニュース特約・新田 浩之)