先生の似顔絵で「LINEスタンプを作って販売」は違法? 「子どもの遊び」「才能すごい」で片付けてもいいのか
学生時代、先生のものまねって流行りませんでしたか?先生のマネを面白おかしく披露する友だちに大笑い、マネをした友だちは一躍「人気者」になっていました。なくて七癖、とはよく言ったもので、どの先生も口癖や決まってやる仕草、独特の話し方など、それぞれに個性があります。それをマネするのは、子どもにとっては楽しいこと。ところが「ものまねで大笑い」と片付けられない大事件が勃発したと私のもとに連絡がきました。
■先生ソックリの似顔絵に口癖をつけて…LINEスタンプに
連絡をくれたのは中学生のお子さんがいる保護者。子どもが面白そうに親に見せてくれたのが「先生の似顔絵スタンプ」でした。クラスの友だちが作ったそれは、先生にソックリでセリフも独特、見る人が見れば「ああ、A先生じゃん!」と明らかにわかるものでした。セリフに名前も入っています。
この件を知った一部の先生が「大問題」として学校に連絡、いっぽうで「何が悪いの?」「子どもの遊びだからいいんじゃないの?」「スタンプを作るなんてすごい」という声も一定数あり、学校中が大騒ぎになっているというのです。
販売されたスタンプを見て、絵のクオリティが高く感心していましたが、周辺にリサーチしてみると、似たような事案が実は数件ありました。先生ではなく友だちの似顔絵をLINEスタンプにした、グループ全員の名前をいれたスタンプを作って配布した、というものもあります。
今やほとんどの中学生がLINEを使っていますし、簡単にスタンプを作成できるアプリも配布されており、「娘がLINEスタンプ作ってた」「知らない間に販売していたみたいで驚いた」という親の声もありました。
■「法律的に問題があるのか」弁護士に聞くと…
自分が作ったキャラクターならともかく、誰とわかるような似顔絵を使ってスタンプを作ることは違法なのでしょうか?弁護士の先生に伺いました。
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【「さいたまシティ法律事務所」弁護士・荒生祐樹氏の見解】
法的に問題になると考えられるのは肖像権侵害ですが、肖像権侵害の典型的なケースは、勝手に写真を撮影したり、勝手に撮影した写真を販売したり、写真をSNS にアップロードする行為等です。今回の場合、問題となっているのは写真ではなく似顔絵ですから、写真とは違った考慮が必要になります。具体的には、似顔絵から「その」先生と判断できるかがポイントでしょう。また、似顔絵だけではなく、似顔絵からLINE スタンプが作成されているという事情がありますから、スタンプのタイトルやスタンプのセリフなどの事情も考慮した上で、肖像権侵害の有無が判断されるでしょう。
今回のケースでは、スタンプのタイトルに一部先生の氏名が含まれていますし、似顔絵が先生の特徴を踏まえ、セリフも先生の発言をもとにしていること、そして何より、LINE スタンプという不特定多数に拡散し得る態様で似顔絵を用いていますから、肖像権侵害があったと言えるのではないでしょうか。
もっとも、肖像権侵害か否かという点を措いても、学校の先生の似顔絵を用いて勝手に LINE スタンプを作成する行為が、不適切であることは明らかです。別途、名誉権侵害、プライバシー権侵害が成立することも考えられますので、面白半分であっても、このような行為はやめるべきでしょう。
■「LINEスタンプにすること」は「ノートの落書き」とは違う
法的に問題があるかどうか以上に先生が指摘されているのは「学校の先生の似顔絵を勝手にLINEスタンプに作成する行為が不適切」であること。子どもが面白半分にやっていることでも注意が必要であるという点です。
正直最初にスタンプを見た時は、一見して先生とわかるほど上手に描かれた似顔絵、口癖のセリフなども子どもが親しみを感じる面白みのあるもので、単純に「うまく描いているなぁ、面白いなぁ」と思っていました。しかし、一方で不快に思う人もいるでしょうし、何より先生ご本人がどう感じるかも微妙なところです。
あるいは自分に置き換えた時、例えば誰かが自分の似顔絵をセリフ付きでLINEスタンプを作っていたり、わが子が”親が怒鳴り散らしている姿“を絵に描いて、それがLINEスタンプとして拡散されていると知ったら、それはやり過ぎ!と子どもを叱ることでしょう。
ノートに先生の似顔絵を落書きし、教室で回し見していたのなら笑い話ですんでいたことでもLINEスタンプという不特定多数の人が見る、使えるところに投稿したことが大きな問題であるわけです。
弁護士の先生がおっしゃる通り、面白半分であっても、悪意がないとしても、社会に拡散されるような状況を考えれば、やはりこれは「やり過ぎ」です。
■SNSは便利な道具だが「使い方」に要注意!
LINEをはじめとするSNSはとても便利なコミュニケーションツールです。
あくまで「ツール」である以上は、道具の使い方をまずきちんと覚えることが大前提です。しかも、SNSのようなコミュニケーションツールは便利な反面、人を簡単に傷つけることもできる諸刃の剣でもあり、使い方を間違えると人を傷つけ、自分を傷つけることにもなりかねません。
先生の似顔絵も、黒板やノートに落書きしているうちは「いたずら」ですんでいても、身近なインターネット上のSNSを利用した時点で、笑い話ではすまされなくなります。
肖像権や著作権について、子どもはよくわかっていません。そもそも大人だって、わからないことが多いのですから。
そろそろ夏休みが近づいていますが、時間ができると、SNSの利用も活発化します。
著作権や肖像権についても、わかりやすい動画等を見せたり親が説明したりしておきましょう。加えて、SNSの使い方について改めて話し合っておきたいところです。こういうことをしたら犯罪なり得る、といった「線引き」についてもきちんと理解できるよう説明することが大切です。
先生の似顔絵が描かれた紙が授業中に回ってきて、それをみて笑っていると先生に「何の紙を回してるんだ」と怒られ、必死に隠していたクラスの風景を懐かしく思います。
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◆荒生祐樹(あらお・ゆうき)弁護士、埼玉弁護士会会員。中小企業の紛争を未然に防ぐためのリスク管理をはじめとするクレーマー対策やインターネットビジネスを注力分野とし、またいっぽうで個人情報保護やIT関連についての知見も広い。川口いじめ事件の主にインターネット上の誹謗中傷を巡る対応の代理人に就任し、発信者情報開示請求訴訟、いじめに関する保有個人情報不訂正決定処分取消請求訴訟などを手掛けた。2020年8月に放映されたNHK「フェイクバスターズ ひぼう中傷被害を減らすために」VTR出演。2021年4月に公刊された「子ども六法ネクストおとなを動かす悩み相談クエスト」(小学館)のコラム漫画の法律監修を担当。
◆くま ゆうこ デジタルハラスメント対策専門家。株式会社マモル代表取締役社長。自身の強みであるWebマーケティングのノウハウを活かし、 いじめや組織のハラスメントを未然に防ぐシステム「マモレポ」を開発する傍ら、学校コンサルティング、いじめ・ハラスメントのセミナー登壇、執筆を行う。