修理ならまかせてニャ 調律師の店主を見守るアコーディオン修理工房の猫たち
大阪市西区にある「neneroro(ネネロロ)」は西日本に1軒しかないアコーディオン修理工房。店主で調律師の岡田路子さん(49)の飼い猫「ゆず」(オス、9歳)はお客さんがやってくると、すぐに近づいていってスリスリ。工房の窓辺で道ゆく人を眺める姿も人気だ。ちょっぴり人見知りな「八朔(はっさく)」(オス、7歳)とは本当の兄弟のように仲がよく、岡田さんがアコーディオンの修理をする姿を見守っている。2匹との出会いや接客ぶりについて岡田さんに聞いた。
■ずっと猫がいるのが当たり前だった
<岡田さん> ゆずと出会う前、アメリカンショートヘアの「モモ」(オス)、こげ茶白の「クリ」(オス)を飼っていたのですが、モモは12歳で、クリはその5年後に16歳で虹の橋を渡りました。ずっと猫がいるのが当たり前の生活だったのに、いなくなると工房(兼自宅)の中がシーンと静まりかえり、寂しくてしかたなくなってしまって…。それで保護猫サイトをのぞくようになりました。
サイトにはたくさんの保護猫が載っていて、どの子を選んだらいいのか、最初はわからなかったんです。でも、しばらく探していると、ある日、パッとゆずの写真が目に留まりました。当時3歳の成猫で、毛並みがアメショーっぽい柄で茶色も入っていたんです。あっ、この子はモモとクリを足して2で割ったみたいやなって。それで1ヶ月のトライアルを経て、家族として迎えることに。
一方、八朔(はっさく)は、ゆずが来て3ヶ月後、同じ保護猫サイトで見つけました。1匹だと家に誰もいなくなったら寂しがるかもしれないので、最初から2匹飼おうと思っていたんです。八朔はそのとき生後7ヶ月。「人間より猫が好き」との紹介が書いてあったので、この子ならゆずと仲良くしてくれるだろうと。
それでも、2匹の折り合いがうまくいくか、ドキドキだったんです。引き合わせる前に、新しい猫の匂いがついた毛布を置いておくといいと聞いたので、八朔の保護主に連絡して送ってもらい、八朔を家に迎え入れる前、ゆずがお気に入りの場所にその毛布をしばらく置いておいたんですよ。
■迎えた2匹の保護猫は本当の兄弟のよう
それが功を奏したかどうかはわかりませんが、実際に引き合わせると、2匹はすぐに仲良くなり、ホッとしました。八朔はゆずが人になでられているのを見たら、「僕もなでて」、ゆずが遊んでるおもちゃで「僕も遊ぶ」と、ゆずのやることをなんでも真似します。今も本当の兄弟みたいな関係です。
ゆずは誰にでもフレンドリーで、接客上手です。宅配便のお兄さんが来て、荷物のサイズを測ってるときとかでも「オレってかわいいやろー」と体をスリスリしてアピール。だから、宅配便の人たちも、ゆずと会うのをいつも楽しみにしてくれています(笑)。
■窓辺の愛猫に、みんなが声をかけてくれる
工房入口の机の上に座って、ガラス戸越しに道ゆく人たちを眺めるのがゆずの日課。コロナ禍のなか、1日中、工房内で過ごすことが多くなり、ゆずって近所の人たちからすごく愛されてたんやと気づきました。近くに住んでる女性や登下校中の子どもたちは、窓辺にゆずがいるのを見つけると、みんな声をかけてくれますし、それがきっかけで話をするようになり、仲良くなった方もいます。
音楽について、最近はパソコンで音楽を作曲する方も多く、楽器を演奏する人は年々減っているように感じます。10代から20代の若い人たちはアコーディオンという楽器自体をよく知らなかったり、「ゲームのBGMがアコーディオンで演奏された音楽だったので興味を持った」という方も多いです。アコーディオンって、テコの原理とか、からくり時計のような工業技術が凝縮された最高峰の楽器だと思います。興味を持ってもらえる方が増えるのは嬉しいです。
依頼された楽器を修理するのって実はかなり緊張するんですよ。夜更かしや寝不足、お酒の飲み過ぎは厳禁。心身ともに健康でないと、満足のいく良い音が出るようにならないんです。でも、ゆずや八朔がそばで見守ってくれていると、力みすぎることもなく、穏やかな気持ちでいられるんですよね。私にとって猫たちは、心のバランスを保つための大切な存在でもあるんです。
【店名】「neneroro accordion repair service」
【住所】大阪市西区九条1-28-2
(まいどなニュース特約・西松 宏)