嘘だろ~帰宅したら家の中に野良猫が鎮座 「追い出すのは忍びない」妙な縁を感じて我が子に
■家に上がり込んでいた猫
秋生くん(現在11歳・オス)との暮らしは突然訪れた。2012年9月27日の夕方、東京都に住む酒井さんは、家の中に1匹の猫がいるのを発見。なんと以前見かけたことがある野良猫が家に勝手に上がり込んで座っていたのだ。近づいても逃げようとせず、むしろ擦り寄ってきた。嘘のような光景だったが、そのときは、まさか自分が飼うことになろうとは夢にも思わなかった。
「全く人間を恐れずに、これほどまでに懐ける子ならば一緒に暮らせるだろうと思い、即日うちの子にしました。秋生は『営業』に成功したのです。これだけ人間に懐けるのにいまからまた野良に返してしまう、つまり我が家から追い出してしまうのは、なんとも忍びなかったのです」
その日は、くしくも亡き祖父の誕生日だった。酒井さんは、妙な縁を感じたという。
■野良猫時代の仲良し、夏子ちゃんに再会
秋生くんがあまりに人を怖がらないので、酒井さんは、どこかの飼い猫で脱走したのかもしれないと思った。家族に迎えたものの、動物病院でマイクロチップが入っていないか検査したり(未装着だった)、近所の迷い猫の掲示板を頻繁に確認したりして、飼い主が見つかったら、元にいた家に帰すつもりだった。しかし、飼い主は見つからなかった。
酒井さんは、家の猫には季節にちなんだ名前をつけ、猫が覚えやすいように呼びやすく発音しやすい名前を選ぶようにしていた。秋生くんの名前は、秋に来たので「秋」の漢字を入れて、名前をはっきりと発音できる「あきお」にした。
秋生くんは当時3歳(推定)になっていたためか、先住猫と会うとすぐに喧嘩を始めてしまった。そこで、酒井さんは、他の猫と部屋を隔離して飼うことにした。秋生くんを保護してから約1年後、酒井さんは、秋生くんと野良猫時代から仲の良かった三毛猫の夏子ちゃんの保護に成功した。実は野良猫時代、秋生くんと夏子ちゃんが一緒にいるところをしばしば見かけたという。
「1年近い空白があったにもかかわらず、2匹は互いのことを覚えていたようで、再会を喜ぶかのように頬を擦り寄せていました。そういうわけで、秋生と夏子が2匹で暮らす部屋ができたのです」
■てんかんは日常生活の一部
保護した翌年の秋、秋生くんは、ある日突然泡を吹いて痙攣を起こした。たまたますぐ横にいた酒井さんは、秋生くんが死んでしまうのではないかと思い抱きかかえたが、手を激しく噛まれて何針も縫う怪我を負った。てんかんの発作だった。薬で抑えることしかできない病気なので、秋生くんは毎朝晩抗てんかん薬を飲んでいる。おとなしく嫌がらずに薬を飲んでくれるので、助かっているという。
当初、酒井さんは、秋生くんがてんかんの発作を起こすたびに気持ちが動転した。
「外出時に発作を起こしていたことが帰宅後に判明したときは、どうして一緒にいてあげなかったのかと自分を責める気持ちもありました。しかし、あるときから、これは一生付き合わねばならない病気なのだし、秋生には自分しかいないのだから、自分がしっかりせねばと考えを改めました」
今はてんかんを秋生くんとの日常生活の一部と捉え、発作があったときはかかりつけの獣医師に報告できるように、痙攣を起こしている時間を測定したり痙攣後の様子を観察したりして、冷静に対応している。闘病を通じて酒井さんは、飼い主として強くなれたという。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)