未来の都市のあり方は「ネコ」から学べ?~建築家・隈研吾がネコの視点で「5656(ゴロゴロ)原則」発表
コロナ禍によってリモートワークで会社に出勤しなくなり、人が集まる商業施設は休業を余儀なくされ、人間にとってハコ(建物)とはなんだったのか改めて考えさせられますね。日本を代表する有名な建築家である隈研吾氏が、ハコを出て歩き始めて出会った半ノラのネコからヒントを得て5656(ゴロゴロ)原則を導き出したそうです。
■神楽坂に住んでいる半ノラのトンちゃんとスンちゃんにインタビュー
東京国立近代美術館で開催している『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』という企画展で、ネコの視点から都市を見直すリサーチプロジェクトである『《東京計画2020(ニャンニャン)ネコちゃん建築の5656(ゴロゴロ)原則》』が発表されています。日本を代表するデザイン・イノベーション・ファームであるTakramと、まもなく開幕する東京五輪のメインスタジアムである「新国立競技場」を設計した隈氏とのコラボレーションで制作したもの。
今回の展示は、前回の東京オリンピック前の1961年に、丹下健三氏が『《東京計画1960》』という、東京湾に会場都市をつくる案を建築雑誌に発表したことへの応答として企画されたものです。丹下健三氏は人口都市を俯瞰する視点に着目したのに対して、隈氏は、「いまの時代、都市についてなにかを提案するとしたら、高度経済成長期のように都市を上から見るのではなくて下から見るべきである」という考えから、なんと地面に近いネコの視点に着目したのです。
■ネコの視点になれる作品で疑似ネコ体験
▽「テンテン」
半ノラのトンちゃんとスンちゃんにGPS機器を装着して、神楽坂のどこで過ごしているのかをリサーチ。歩いている軌跡を画面に表示させ、住処にしているカフェ(ムギマル2)を拠点に、エサがもらえる場所、昼寝する公園などを周回していることがわかる作品。
▽「ザラザラ」
2つの画面の一方にはネコの肉球でも滑ってしまうツルツルとした現在の神楽坂を映し、もう一方は爪とぎしたり身体を擦り付けたりできるザラザラした素材に替えてみたら、ネコの振る舞いがどうなるのかを想像した作品。観賞用に置かれた3つの椅子も、ザラザラ具合が異なる素材でできていて、触ることでネコの気持ちを体感できるようになっていました。
▽「シゲミ」
ネコは臆病だから、シゲミに隠れたりトイレを隠したりするのを好みます。トンちゃんは寺内公園の草むらがお気に入りだけれども、都内からはどんどんシゲミが減っていることも事実。ネコ目線のシゲミと人間目線のシゲミを再現した作品。
▽「スキマ」
ネコは自分の身体のサイズにあった窮屈な空間を好むというのをプロジェクションマッピングで表現した作品。この作品はエアコンの室外機の音や足音などの生活音が出ていて、一番目立っていました。最初は室外機の上にいるネコが3DGGで登場し、そのあとはネコのシルエットと地についた足跡などで動きを表していました。
▽「シルシ」
ネコがものに身体を擦り付けたり、爪とぎしたりして、匂いや跡を残すのは、ネコ同士のコミュニケーションのひとつ。また匂いで判断してネコ同士の距離を保っています。映像ではどういうところで匂いを残しているのかをパープルやブルーで色付けして可視化しています。「テンテン」の作品とあわせて見ると、トンちゃんとスンちゃんの行動範囲が異なるのがわかります。
▽「ミチ」
ネコにお願いしてGPS機器を装着し、神楽坂のどういうところを歩き、生活しているのかを線で描いた作品。ネコはミチのかすかな変化にも柔軟に応答してフラフラと揺れながら軽やかに歩いているのがわかります。
◇ ◇
どの作品も3DCGアニメーションで紹介され、子どもでもわかりやすい内容になっています。作品を見ると、半ノラがどういう行動をしているのかがわかり、それと同時に彼らにとって住みにくい街になってしまったというのもわかりますね。
▽『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』
会場:東京国立近代美術館1F 企画展ギャラリー
会期:2021年6月18日(金)~9月26日(日)
(まいどなニュース特約・鈴木 博之)