2週間だけの天使「もう頑張らなくて良いよ。楽になろうね」 拾った子猫は横隔膜ヘルニアで虹の橋のたもとへ
この出会いは必然だったのでしょう。たった2週間だけでしたが、野良猫の飼い主となり虹の橋のたもとに見送った女性がいます。Twitterで「ねこほわらんろん」の名前で活動されているIさんです。
彼女はこの日、商談がまとまったこともありご機嫌で車を運転していました。早く会社に戻ろうと、普段は使わない抜け道を使うことに。ところが、運悪く工事中。他の車ものろのろ運転です。
その時です。道路の端にぽーっと佇む1匹の子猫の姿が目に飛び込んできました。生後2カ月ぐらいでしょうか。慌てて車を停め、子猫のもとに向かいます。すると、私有地の茂みの中に入ってしまいました。
そばで見ていた工事現場の建設業の女性が、「2~3日前からふらっと現れたんですよ」と教えてくれます。Iさんは彼女に名刺を渡し、
「私が育てますので、連絡をください」
と言いました。ふいに口をついてでた言葉です。すでに家には、ほわちゃんという可愛い猫がいるのですが、この子を引き取らないといけないと強く思ったのだそう。すぐあの女性から子猫を保護したと連絡があり、終業後に引き取り家に連れて帰りました。
さて、Iさんの家にやってきたこの子猫、名前は藍(らん)とつけられました。目が綺麗なキトンブルーだったため中国語の「青」を意味する「藍」と、よたよたと歩くばかりで走らないため、いつか元気に走ってほしいという願いから「RUN」です。
先住猫のほわちゃんは、最初こそ「シャー!」と言ったのですが、相手は子猫。すぐ仲良くするように。まるで姉妹のようになりました。
先住猫は良かったものの、当の藍ちゃんの呼吸がおかしい。肩で息をしているのです。IさんはLINEの猫グループの友人に相談をします。皆口々に病院に行くべきだとアドバイスをくれたため、次の日、近くに住むIさんのお母さんが動物病院に連れて行くことになりました。
診断結果は横隔膜ヘルニア。肺が横隔膜に圧迫され呼吸がしづらい障害です。1軒目の病院では手の施しようがないと告げられますが、2軒目の動物病院では生後半年ぐらいになれば手術が可能だと言ってもらえました。ようやく肩の荷が降りた気分です。一緒に動物病院に同行したお母さんもホッとしたといいます。
「あと4カ月ぐらい、頑張っていこうね。そう帰りの車で言っていたのに…」
当時のことを思い出し、Iさんは声を詰まらせながらこう言いました。
そう、2軒目の病院に行った次の日から体調は急変。排泄は自分で出来るのですが、トイレから出られなくなりました。呼吸が楽になるようにクッションを置いているのに、なぜかトイレに居続けようとするのです。
それだけではありません。遊んだあとだけでなく、普通に寝ていても肩で息をしているのです。抱っこされて体を立てた状態で、かろうじて息が出来ている状態。見ているだけでも苦しそうでした。
それが5日ほど続いた晩のこと、ケージの中から藍ちゃんが「ぴゃーぴゃー」と声を上げるではありませんか。ふらつきが酷く、Iさんは急いでケージから出し藍ちゃんを撫でます。
「もう頑張らなくて良いよ。楽になろうね」
撫でながらIさんは藍ちゃんに、こう声をかけたのだそう。そう口にしたくなるほど、あまりにも辛そうだったのです。
この声が耳に入ったのでしょう、藍ちゃんの力はどんどんと抜けていきました。それでも、Iさんの手のひらにつけた前肢の肉球は離すことはなかったといいます。
遂に家族に見守られ、藍ちゃんは短い生涯を閉じました。最期はIさんの腕の中で眠るように逝きました。ほわちゃんは藍ちゃんが火葬されるまで、亡骸のそばからも片時も離れなかったのだそう。猫なりに死を理解し、藍ちゃんを見送る儀式をしてくれたのでしょう。
横隔膜ヘルニアで呼吸がしづらかった藍ちゃん。Iさんに出会わなければ、街の片隅で独りぼっちで現世とお別れしなければならなかったはずです。あの日あの時出会ったからこそ、家族に見守られながら旅立つことができました。
今頃は名前の通り、虹の橋のたもとで元気に走り回っていることでしょう。そう願ってくれる人と出会えたことこそ、藍ちゃんの生まれた意味だったのかも知れません。
そして今、Iさんは新しい活動を始めようとしています。それは藍ちゃんのステッカーを販売し、その収益を保護猫団体に寄付するというもの。藍ちゃんのように障害を持っている猫の医療費にしてもらいたいという願いからです。藍ちゃん、これからもIさんと一緒に頑張ろうね。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)