「看病していたつもりが、看病してもらっていたのかも」瀕死の子猫が、私を暗いトンネルから連れ出してくれた

何をしても楽しくない、笑うことができない。栃木県のO家のお母さんYさんが6年前、そんな状況に陥りました。育児も仕事も上手くいかない。どうしたら良いのか全く分からず、出口が見えない暗いトンネルの中にいるかのよう。

そんな時、小学6年生の息子が猫を拾ってきました。生後2カ月ぐらいでしょうか、ボロボロの猫です。近所の会社の産廃置き場にいたのだそう。

「お母さん、どうしよう」

実は息子が猫を拾ってきたのは2回目。先月にも1匹、生後1カ月ほどの小さな小さな子猫を拾ってきました。この子は残念なことに、家に来て3日ほどで他界。この出来事もYさんを落ち込ませる原因でした。

今度の子は助けたい。その一心で動物病院の門を叩きますが、獣医師は険しい表情です。

「こりゃ酷い……」

猫風邪が酷く、お腹には虫がいました。根気よく薬を飲まし、点眼点鼻をしてほしいと指示を受けました。Yさんは子猫に嫌われるのを覚悟で、献身的に看病をしました。

夏休みの8月に拾われて、治療が終わったのは肌寒い11月。実に3カ月の間、毎日点眼と点鼻を続けたのです。その甲斐あって病院に行く度に震えていた子猫は、すっかり綺麗な顔に!

毛皮の色から「こむぎ」と名づけられたこの子猫は、O家の全員から可愛がられてすくすくと大きくなります。お父さんもメロメロなんですよ。体が小さいので病気がちになる心配もされましたが、6歳になるまで病気らしい病気は一切していません。

小柄で運動神経の良いこむぎちゃんの特技は、壁上り。実はカーテン上りをするので、Yさんがカーテンを撤去してしまったのです。そこでこむぎちゃん、柱を伝って登ることを覚えました。瀕死の状態から復活した彼女は、上昇志向が強いのかも?

上昇志向が強くても、優しい女の子。弟分の陽太(はるた)くんと茶々丸くんの良いお姉ちゃんです。といっても、女の子ですから男の子とベッタリくっつくことはありません。付かず離れず。時々、毛づくろいをし合っています。

そんな様子を眺めるのが、Yさん今一番の幸せです。このこむぎちゃんが元気になってからは、Yさんの気持ちも晴れやかになりました。今まで何をしても楽しくなかったのが、こむぎちゃんと一緒なら何をしていても楽しいのです。家の中に笑顔が増え、笑い声が絶えません。

趣味のキャンプに、こむぎちゃんもリードをつけて一緒に行くこともありました。今まで楽しくなかったのに、こむぎちゃんと一緒なら再び楽しめるようになったのです。こむぎちゃんも、虫を追いかけたり枯れ葉に潜ったりと楽しそう。

こんな日々が続くと、今まで荒んだ気持ちでいたのが嘘のようです。やんちゃだった息子も、こむぎちゃんが来てからは穏やかな性格に。生き物を大切にする優しい「お兄ちゃん」になりました。今では猫のいない生活が全く考えられません。

「こむぎたちがいると、私は何でも頑張れるんです」

Yさんは笑顔でそう言います。猫は飼い主が世界の全てだからこそ、落ち込んでいられないとも。どうやら、Yさんを暗いトンネルから引っ張り出してくれたのは、こむぎちゃんだったようです。看病していたつもりが、本当は看病してもらっていたのかも。

当のこむぎちゃんはそんなことは知りません。今日はどの柱を登ろうか、ワクワクして家の中を散歩します。またキャンプにも行きたいにゃあ。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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