「感謝の言葉多すぎ」「雰囲気の良い言葉が飽和」 バッハ会長のスピーチ「問題点」はどこ?プロによる徹底解説が話題
「校長先生の長話かよ…」
東京オリンピック開会式での 国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長のスピーチを聴いてそう感じた方は多いのではないだろうか?実際、バッハ会長がスピーチに費やした時間は、同じくスピーチを披露した大会組織委員会の橋本聖子会長の倍以上となる13分。長くても大きな盛り上がりや面白さがあればまだいいのだが、特にその内容を評価する声も聞かれなかった。
今、SNS上ではそんなバッハ会長のスピーチの弱点を指摘し、どうすれば良い内容になったかを解説する投稿が大きな注目を集めている。
「みなさんの違和感の正体が、スピーチのどのような技術に由来するのか、スピーチライターの視点で分析してみました。」
と4ページにわたり綴ったのはスピーチライターの千葉佳織さん(@kaolly13)。
「感謝の言葉が多すぎたため聴衆が飽きた」
「メリットがない原稿構成」
「重要なキーワードの説明が不十分」
「論旨の厚さと発表時間がアンバランス」
千葉さんの指摘は手厳しいが、ポイントごとに細やかな説明がなされており非常にわかりやすい。
この投稿に対し、SNSユーザー達からは
「おじいちゃん、それさっき読んだ話じゃない?という行を読み違えて同じことを繰り返している印象でした。さあ、これで終わりと思いきやまた語り出すというね」
「長くても構成が練られたり、共感や納得、ストーリーがあれば聴かせるスピーチになるんだよね。でも時間制限がある中でのオーバーは許されないわ」
「自分の中で何故あのスピーチはあんなにも退屈だったのかを言語化されたように思いました」
など数々のコメントが寄せられている。
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千葉さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):千葉さんははじめバッハ会長のスピーチを聴かれてどう思われましたか?
千葉:開会式はリアルタイムでは観ていませんでした。私はスピーチ制作、スピーチスクール運営の会社をしているのですが、開会式の翌日に出社した時、スタッフや受講生から「あのスピーチ長過ぎたよね」「何がダメだったのか教えてよ」と言われてはじめてNHKのアーカイブ映像を観ました。
オリンピックは全世界の人が観る大切なイベントですし、特に今回はイレギュラーな問題も多くありました。こういう場で披露するスピーチはみんなの思いを一つにする言葉でなければいけないと思うんです。ですがバッハ会長のスピーチは私からすると、とても洗練された内容とは思えませんでした。正直、悔しさを感じました。
今回の投稿は、スピーチに携わる者としてこういった残念な例を少しでも減らしたいという思いで制作しました。
中将:バッハ会長のスピーチが低評価すぎた反動か、SNS等では橋本聖子会長のスピーチを評価する声も見られました。千葉さんは橋本会長のスピーチについてはどのように思われますか?
千葉:彼女の思いが伝わる内容で良かったと思っています。自身がオリンピアンであること等、バックボーンについてもう少し説明していればより聴衆に伝わったとは思いますが、そんなレトリックを凌駕する気持ちの強さが声質や表情に出ていました。
たとえば後半の
「アスリートの皆さん。この舞台に集まっていただきありがとうございます。困難な中でも決して立ち止まることなく、前を向いて努力を続ける姿に私たちは励まされて今があります」
という部分ですが、彼女の思いが「本当にこの言葉通りなんだな」とひしひしと伝わってくるような表情、間合いで話されているんです。彼女のスピーチには長さや構成といった要素を超えて人の心を動かすものがあったのではないかと考えます。
中将:SNSの反響に対するご感想をお聞かせください。
千葉:仕事でプレゼンやスピーチをする立場の方たちから「これは活かせる」と言っていただき嬉しいです。今回解説したようなスピーチ法はお仕事以外でもさまざまなシチュエーションで活用していただけると思います。今後もぜひ多くの方にお読みいただきたいです。
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「今回の出来事を経て、あらためて言葉を伝える力を社会に浸透させたいと思いました」と千葉さん。色々と問題が指摘される今回のオリンピックだが、「失敗は成功の母」という言葉もある。より良い未来に向け、こういった学びは積極的に拾っていきたいものだ。
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【千葉佳織(ちば・かおり)さんプロフィール】
株式会社カエカ代表・スピーチライター。
15歳から日本語のスピーチ競技、弁論をはじめる。2011年安達峰一郎世界平和弁論大会にて優勝、2012年内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会にて優勝、2014年文部科学大臣杯全国青年弁論大会一般の部にて優勝をする。慶應義塾大学卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。小説投稿サイトの企画を経て、人事部で新卒採用を行いながら、同社初のスピーチライターの業務を立ち上げ、イベントや採用の登壇社員育成、代表取締役社長のスピーチ執筆など、部署横断的に課題解決に取り組む。2019年、株式会社カエカを設立。話す力を磨き、確実に伝える力を得るためのスピーチの学校「GOOD SPEAK」代表。企業・政治・教育現場にスピーチトレーニングプログラムを提供している。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)