テーマパーク「スペースワールド」は閉園しても「スペースワールド駅」は残った 今後はどうなる?
北九州市八幡東区にあったテーマパーク「スペースワールド」は2017年末に閉園し、いま巨大なアウトレットモールに生まれ変わろうとしている。開業は22年春。しかし、最寄りの駅名はJR鹿児島本線「スペースワールド駅」のままだ。”宇宙に最も近い駅”の今後はどうなるのか。JR九州に聞いてみた。
JR小倉駅から博多方面へ電車に揺られて10分弱。車窓を眺めていると左手に広大な敷地が見えてくる。かつて宇宙を全面に打ち出したテーマパーク「スペースワールド」があった場所。シンボルでもあったスペースシャトルの実物大模型をはじめとする施設はすべて取り壊され、跡形もないが、周辺のいたるところに痕跡は残っている。
その最たる例は最寄りの駅名が「スペースワールド駅」のままになっているところだろう。いつ、新たな駅名になるのか。それとも、このまま踏ん張り続けるのか。いや、さすがにそれはないだろう。だって、スペースワールドそのものがないんだもの。何度かここを通る度に気を揉んでいたので今回、思い切って下車。周辺を散策しながら調査してみた。
幸か不幸か、JR九州の職員に聞くと、あっさりと答えが出た。
「いまのところ駅名変更の予定はありません。というのも駅名を変えるとなると、結構大変。ICカードなどのシステム面や印刷物、表示物など関連するものが多く、費用が掛かります。駅名として広く浸透しており、しばらくはこのままです」。行き帰りの小倉駅で尋ねても同じ答えだった。
実際、施設そのものがなくなっても、それを拝した駅名が残っているケースは珍しいことでもないようだ。例えば1998年に閉園した広島「呉ポートピアランド」の最寄りの「呉ポートピア駅」はずっとそのまま。実は昨年、路線図で初めて駅名を見たとき、舟券発売所の「呉ボートピア」と早合点し、驚いたことがある。もちろん、由来は呉港。現在は、その跡地は公園「呉ポートピアパーク」になっており、違和感は全くない。
念のため、スペースワールドについて触れておくと、1990年に新日本製鉄(現新日鉄住金)が総工費約300億円を掛けて開業した人気のテーマパークのひとつだった。実は私も90年代後半に訪れたことがあり、宇宙旅行気分を味わったものだ。きっと同じような経験をしている人は多いはず。だから建設現場を眺めると、あらためて時の流れを感じずにはいられなかった。
さらに言うと、当初の最寄りは枝光駅。施設名を拝した新駅ができたのはスペースワールドの開業から9年後の1999年7月だった。地名をそのまま付けた「東田駅」や八幡製鉄所の操業年にちなんだ「1901駅」といった候補を押しのけ、公募で選出され、以来”宇宙に最も近い駅”として慕われている。
しかし、やがて集客力を失っていったスペースワールドは27年の歴史に幕を下ろし、跡地はイオンモールによる巨大なアウトレットへ。敷地面積はなんと27万平方メートル。主はガラリと変わるものの、今後も駅名だけはしっかり残っていくというわけだ。
そのアウトレットには、プラネタリウムや最先端の科学技術を展示する市の「新科学館」や民間運営の「英語村」など様々な施設が入り、新たなランドマークとして期待されている。オープンは22年春。この日、建設現場を見渡せる歩道橋ですれ違った老夫婦は「このあたりは、すっかり様変わりしてしまいました。変わらないのは皿倉山だけ」と遠くに視線を移した。
今回、下車したもうひとつの目的は”世界遺産”に触れること。下調べをすると、官営八幡製鐵所の関連施設のひとつ、旧本事務所(1899年竣工)を眺望できる場所があるというのでチラッと訪ねてみた。「当時は目の前まで海でした」と男性スタッフ。近くには近代化産業遺産の「東田第一高炉跡」もあり、しばし明治の日本に思いをはせた。
その帰り、女性スタッフに話しかけると、思った以上の収穫があった。空振りの連続というときがある一方で、こういうのが現場取材の醍醐味。彼女は「スペースワールドは私が小学生のときにできたんです。遠足の定番でしたし、北九州の子どもたちにとって、このエリアは思い出の場所。駅名だけでも残っているのはうれしいことです」と思い入れを語り、さらにこう続けた。
「今度できるアウトレットにはプラネタリウムなどが入る施設ができるそうなので、そこに宇宙とか、スペースワールドにかかわるような名前をつけてもらえれば、駅名と調和するのでは」
その後、この女性スタッフに「おもしろい場所があります」と案内され、のこのこ付いていくと、そこは駐車場のトイレで、なんと男女の案内標識が宇宙人。芸の細かさが微笑ましくもあり、もの悲しくもあった。
しかし、スペースワールド駅という駅名はしばらくはいまのままだ。このあたりを訪ねる度に気になっていたことが解決し、スッキリ感もあった。願わくば、女性の提案が実現しますように。星に願い、月に祈りたくなった。
(まいどなニュース特約・山本 智行)