多頭飼育崩壊からレスキューされた子猫 今も残る「心の傷」さえも愛おしい…支える家族の物語

多頭飼育崩壊からレスキューをされた猫は、それでハッピーエンドとはいきません。長年の栄養不足により病気にかかりやすく、一般的な猫よりも短命に終わることが少なくないのです。

埼玉県の氷花(つらら)ちゃんも多頭飼育崩壊からレスキューされた1匹で、現在2歳。生後約1カ月の頃に保護されました。あまり体が大きくならず、体重は約3kgしかありません。同時に保護された子猫は虹の橋のたもとに旅立ったことも多い中、2歳まで元気でいてくれることが幸せなことです。

氷花ちゃんが生まれた家は、本当に酷い状態だったそう。認知症のお婆さんとその息子がお世話をしていたのですが、猫が増えに増え約50匹に。トイレの砂は入っているものの、片付けをせずに上からかけていくものですからミルフィーユ状態でガチガチ。

ご飯は出されていましたが、強い子が独占して子猫や弱い猫はご飯にありつけていません。だから、弱い猫はさらに弱い子猫を狙います。共食いです。子猫の死骸がそこらかしこに転がっていたのだそう。そんな中、生後1カ月まで生き延びた氷花ちゃんは運が良かったのかも知れません。

今、一緒に暮らすAさんと氷花ちゃんは保護施設で出会いました。氷花ちゃんが生後3カ月ぐらいの時です。ボランティアスタッフのAさんが猫のお世話に施設を訪れると、いつも出てきて愛想を振りまいてくれたのだそう。辛い目に遭ったのに、それを感じさせない人懐っこい猫です。とてもお喋りで、Aさんの隣に座るといつもウニャウニャお話ししてくれていたそうです。

これだけ懐いてくれるので、ある時、Aさんは氷花ちゃんに尋ねました。

「うちに来る?」

すると氷花ちゃんは「うん」と言ったのです。なんとなくそんな気がしただけですが、前と態度が明らかに変わりました。今までは「好きだけどヨソのオバサン」だったのが、「大好きなわたしのお母さん」に。2020年1月13日、生後約7カ月になった氷花ちゃんはA家の一員に。この日の数日前はAさんの誕生日だったので、とても嬉しい日になりました。

実はA家、先住猫が4匹いるお家。たくさん猫のいる環境が大好きな氷花ちゃん、喜び勇んで先住猫さんたちにご挨拶。でも、けんもほろろにされてしまいます。氷花ちゃんは距離が近過ぎるのです。いきなりグイグイこられると、先住猫たちも困ってしまいます。

そんな空気が読めない子の氷花ちゃんを受け入れてくれているのは、4歳の甘(かん)ちゃん。年が近いのと、同じ保護施設出身ということもあって、何かとお世話を焼いてくれます。

氷花ちゃんの距離が近い時は、教育的指導が入ることもありますが、関係はおおむね良好。毛づくろいをしたりされたり。2匹でくっついて、何かお喋りをしていることもあるんですよ。

これでめでたしめでたしといけば良かったのですが、心の傷は思わぬところに表れました。それは、氷花ちゃんが人間の食べ物に興味を持つこと。特にパンは食い散らかさないと気がすみません。他、洗面台でおしっこをしてしまうのも困った癖です。どちらも以前の家でもしていた可能性のあること。ふとした時に思い出してしまうのかもしれません。

そんな様子を見たAさん、やっぱりうちの子にして良かったと思っているのだそう。他の家だとこれらの癖で返される危険性がありました。うちの子なら、「もう困るなぁ」で済みます。

そう言ってくれるAさんのことが氷花ちゃんは大好き。ベタベタに甘えます。もしかすると、これも多頭飼育崩壊の後遺症かもしれないとAさんは考えています。人間に媚びることが生存を分けていた。そう思うと、余計に氷花ちゃんが愛おしくてたまらないのだそう。

不安だっただろう多頭飼育崩壊家庭での日々。でも今はAさんや甘ちゃんが一緒にいてくれます。一人ではありません。美味しいご飯に清潔なトイレ、早くこれが氷花ちゃんの「当たり前」になりますように。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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