禁断の深海魚は「相当においしいが相当にヤバイ」 食の可能性を切り開く自称・野食ハンターに聞いた

 「野食」という言葉を聞いたことがありますか?

 野食とは、野生の食材をとって食べることを意味する言葉。文章を書いてメシを食べている筆者がこの言葉に出会ったのは、ほんの2カ月ほど前のこと。知人から「相当に美味しいが相当にヤバい、禁断の深海魚があるらしい」と垂涎の情報がもたらされたことが始まりでした。

 禁断の深海魚について調べると、食品衛生法で販売が禁止されている「バラムツ」という魚であることが判明。そしてさらに調べるうちに、出会ってしまったのです。まだ食材として広く認識されていない野生の動植物に挑み、自らを「野食ハンター」と称する男、茸本朗(たけもと・あきら)さんに…。

 なお、バラムツは自分で釣ったものを自己責任で食べる分には問題なし、とのこと。では実際に釣り上げ食べた結果、「人生を台無しにしかけた!」という茸本さんに話を聞きました。

■“リアクション芸人”体質

ーーバラムツで人生を台無しにしかけた、ということですが...何が起きたんでしょうか?

 バラムツはワックスエステルという人が消化できない脂分をもっているので、一度にたくさん食べると消化できなかった脂がお尻からそのまま出て大変なことになります。僕は身を1キロ食べた後、当時勤めていた会社で勤務中にズボンがぷーっと膨れて漏れ出たことに気付き「あっ、社会的に死んだ」と悟りました。なんとか事なきを得たものの、その後も怖くて4日間ほどオムツをしてました。

ーー1キロを一度に...って、かなり多いような気がしますが...?

 30キロ以上ある巨大なやつで、その肉塊からすると本当にごく一部だったんです。大変なことになるのを知っていたから、やむなく途中でやめて1キロでした。

ーーやむなく、ですか。そんなに美味しいんですね。ちょっと食べてみたいし、自分のお尻からワックスエステル、出してみたいです。

 そういう願望、みなさんあるんじゃないでしょうか。日ごろ美味しいものしか食べないような子が嬉々として「出た!」って報告してきたりして、みんなリアクション芸人になりたいんですかね(笑)。僕自身、見た人が喜んでくれるから野食ハンターをやっている面もあるので、芸人体質なんだと思います。

■見て、触って、そして食べる

ーーそもそも、野生のものを食べようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか?

 幼少の頃から大食漢で、かつ食べ物に関する図鑑が大好きだった僕が、10歳の時に東京から自然豊かな福岡のとある町に引っ越したことがターニングポイントでした。多くの子どもが花や虫の図鑑に興味を持つ頃に、山菜や魚、キノコの図鑑を眺めていたので知識があったんです。そんな中、自然が身近にある環境に移り住んだことで、自分で採取して食べるようになりました。

ーー食材として珍しいものだと、さばき方や下処理などの情報は少なそうですが、どのようにして身につけたんですか?

 経験と知識の半々かなと思います。例えば魚なら3枚におろすといった基本的なアプローチから入っていきつつ、その食材に触れながらアイディアが出てくることも多いです。あとはネットで検索して知った知識もあります。

ーー未知のものを食べるって、ちょっと恐怖も感じます。人生台無し未遂体験はともかく、命の危険を感じたことはないんですか?

 あります。いちばん怖かったのはアレルギー。隠岐の島や高知県などで食べる文化がある「ヒザラガイ」というダンゴムシみたいな貝を食べた時に、顔じゅうの粘膜という粘膜がパンパンになりました。次同じものを食べたら、アナフィラキシーショックで死ぬだろうなと感じてます。

ーーひぃ!身体というか、命張ってますね...。では、命には関わらないけど、まずくて食べられなかったものはありますか?

 手の施しようがなく単純にまずかったのは、クリオネですね。川崎の市場で3匹瓶詰めされていたのを買ったものの、冷たい海にしか生息しないミジンウキマイマイを餌とするクリオネを自宅で飼育するのは難しい。そこで食べていいのか分からないまま踊り食いと湯引きで食べました。かんだらすごいシンナー臭がして...。あれは多分、忌避物質でしょうね。

ーー「流氷の天使」と呼ばれているクリオネをいただいちゃいましたか!しかも、それがシンナー臭を放つ生き物だったなんて、見た目とのギャップがすごいですね...。気を取り直して、美味しかったもののお話を伺えますか?

 最近YouTubeでもアップしたミドリガメはかなり美味しいと感じました。カメ肉の味は鶏肉に例えられることが多いんですが、ミドリガメは赤身が純粋なタイプの牛肉っぽさが強いです。

ーーミドリガメというと、ペットのイメージが強かったです。

 これまでも食べる人は食べていたんですが「可愛いペット」という感覚が強かったと思います。でも実は、日本の生態系を脅かし、在来種を食害してしまう凶悪な外来種なんですよ。川で日向ぼっこしているカメをよく見かけますが、あれのほぼすべてがミドリガメという状況で、国の特定外来生物に指定される方向です。

■目指すのは「最初に食べた人」

ーー外来種の問題にも直面したり、まずかったり、生命の危機に瀕したり、シビアな経験もされているようですが、野食ハンターとしての原動力はどこから来てるんでしょうか?

 シンプルに、初めてウニ食べた人ってかっこいいなって思っていて。そういう人間になりたいんです。見た目は最悪だけど、実は美味かったっていう食材を一生探すと思います。

ーー「その昔、茸本さんが食べてくれたから、今これは食材として存在してるんだよ」と語り継がれるような存在になりたいってことですね。

 そうですね、本当にそうなりたいです。これからも、できるだけ、たくさんのものを口に入れたいと思います。

  ◇  ◇

 それまで食材として扱われていなかったものが一般に広く定着するまでには、きっと相当な工夫や苦労があったのだろうということは想像に難くありません。それぞれの時代の「最初に食べた人」がいたから今日の豊かな食文化があるんだと、あらためて感謝の気持ちがこみ上げ、大好物であるウニの軍艦巻きが無性に食べたくなりました。

 そう、「最初に食べた人」は、人類の食の歴史に名もなき名を残したチャレンジャー。「そうなりたい」と話してくれた茸本さんが食材として確立させたものが、みなさんの大好物になる日がくるかもしれませんね!

(まいどなニュース特約・脈 脈子)

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