ネコだけどペットじゃないので!「かまいすぎず見守って」動物園のネコ科動物舎の掲示に込められた深い理由
肉球ペロペロ、顔をゴシゴシ、お腹を見せてゴロニャンスリスリ…。トラやヒョウ、ジャガーなど動物園の猛獣系ネコを見ながら、「うちの子とおんなじ」「モフモフさせて」は多くの人が思うこと。かわいいかわいいと「エア猫かわいがり」するのは愛で方の一つかと思われますが、ネコゆえに困ったことも起きているようで、展示舎には「かまいすぎないで、見守って」とのお願い掲示が。そこには命を守るための深いワケがありました。
■「興奮しすぎて体調を崩すことがあります」
神戸市灘区にある市立王子動物園。黒光りするマッチョなオスジャガーのもとに遠く南アフリカからお嫁に来たネリアは、バラの花状の斑紋が美しい2歳のメスで、春に公開が始まると、その人懐こさもあって大人気に。ところが間もなく「かまいすぎず、そっと見守って」というお願い掲示が登場しました。
「大声を出したり物を振り回すと興奮しすぎて体調を崩すことがあります」とのこと。また、多くのネコ科動物を展示する通称「王子猫長屋」でも、ボブキャットとオオヤマネコ前にも同じような掲示が。まさか、猫じゃらし持参でやってくるわけではないでしょうが、SNSには「何もしないのに遊んでくれました」と、ネコたちがガラスの外側の何かに夢中になる様子が投稿されることもありました。
■大きな音や動きで気を引こうとする人も
獣医師で飼育展示係長の谷口さんは「わざと大きな音を立てたり、大きな動きをして動物の気を引いたり、追いかけさせようとする人がいて…」と声を落とします。リラックスしている様子が退屈そうに見えるのか“遊んであげる”という感覚があるようですが、「ネコ科動物は、疲れているときや体調が悪い時でも、動いているものに本能的に反応してしまう」と谷口さん。悪気のない何気ない行動でも、ストレスを感じたり、はしゃぎすぎてエサを食べなくなったりするなど健康面に影響が出ることがあり、同園では、掲示のほか、現場に居合わせた時には直接お願いすることもあるそうです。
また、新型コロナウイルスへの感染も心配です。世界各地でペットのイエネコや動物園のネコ科動物の感染事例が報告される中、同園でも、通気口に顔を近づけて息をふきかけるなどの行為をやめるよう注意を呼びかけてきましたが、最近では物理的に近づけないよう、観覧制限を強化。ネコ科動物がどんどん遠くなっていることに戸惑う声も聞こえてきますが、ここまでせざるを得ないのが現状なのです。
■「あくまで野生動物」自然な姿、遠くから見守って
身近に感じやすいからこそ、意識して距離感を保つことも求められる動物園の猛獣系ネコたち。「ネコ科動物は『捕食動物』として狩りに特化した身体的特徴があります。鋭い爪や牙、俊敏な動きなど共通した特徴もあれば、生息環境によって体表の模様、木登りや泳ぎが得意かどうかなど、異なる特徴もあります」と谷口さん。気を引いて振り向かせようとするのではなく、自然な姿を静かに見守り、「野生のネコ科動物の力強さ、美しさ、しなやかさを感じていただき、さらに彼らの生息地のことを考えていただくきっかけにしていただければ幸いです」と観覧ポイントを教えてくれました。
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)