「風鈴トンネルで待ってるニャ」…涼しげな風鈴の音色と、人なつこい猫たちが参拝客を癒してくれる寺
福岡県田川市にある「三井寺」(真言宗御室派平等寺)。境内には7700個以上の願掛け風鈴が吊るされた風鈴トンネル(長さ約50メートル)があり、風が吹くと境内は涼しげな音色で満たされる。そんな風鈴の音色とともに参拝者を癒しているのが、住職の日出(ひじ)智良さん(61)と妻の由梨子さん(44)夫婦の飼い猫「くう」(メス、8歳)と「じん」(オス、1歳)だ。特にじんは人なつこく、「癒し係」として人気急上昇中。実はじんがやってくる前、寺には「キャラ」(オス、3歳で没)という猫がいたのだが…。お寺の猫たちについて、由梨子さんに話を聞いた。
由梨子さん くうは8年前、寺の倉庫内にしまっていた草刈り機を出そうとシャッターを開けたら、倉庫に置いていたダンボール箱の中にいたんですよ。まだ生まれたばかりで目も開いていませんでした。おそらく窓の隙間から野良の母猫が入ってきて産んだんだと思います。周囲に母猫は見当たらず、このまま放っておいたら死んでしまう…。猫を飼うのは初めてだったのですが、ホームセンターで哺乳瓶を買ったり、ネットで赤ちゃん猫の扱い方を調べたりしながら、手探りで育てました。
その3年後(5年前)、寺にやってきたのがキャラです。檀家さんが家の屋根裏で、幼い子猫がニャーニャー鳴いているのを見つけ、「住職、育ててもらえんか」というので引き取った子でした。たぬきみたいな顔で、人なつこい子だったんですよ。それから3年間ほど、くうとキャラは仲良く一緒に暮らしました。
ある朝、近所の人が「球場前の交差点で猫が死んでいる。もしかしたらお寺の猫じゃないか」というので、慌てて駆けつけると、車にはねられたのか、体は無傷でしたが、キャラはすでに息絶えていました。寺の敷地外に出ることはないのですが、その晩は何があったのか、夜中に網戸を開けて寺を抜け出し、外の道路へ出てしまったようなんです。あまりに突然の別れに、私も住職もたまらなくショックでした。
それから2年が経った昨年5月、悲しみが完全に癒えたとはいえませんが、くう一匹だけでは寂しそうなのと、もう一度、赤ちゃんから猫を育てたいとの思いもあり、「また子猫がほしいね」と住職と話していたんです。すると、生後3週間ほどの子猫の兄弟2匹を保護した知人がちょうど現れ、そのうちの1匹を譲り受けることに。そうしてやってきたのが、じんでした。
ここは元々、近くにあった炭鉱の事故や病気などで亡くなった方々のための炭鉱寺院だったんです。だから、昔は檀家さん以外の方が来られることはほとんどありませんでした。
境内に風鈴を吊るすようになったのは7年前からです。当初は100個くらいで楽しんでいたんですが、次第に「短冊に願いを書きたい」という方が増え、「願掛け風鈴」として参拝者が願いを書いて吊るせるようにしたところ、年々、その数が増えていきました。3年ほど前、地元テレビなどで境内の風鈴トンネルをご紹介いただいたのがきっかけで知名度があがり、風鈴は今夏、7700個を超えました。
くうとキャラが一緒にいた頃は、まだ参拝者も少なく、看板猫と呼べるほどでもなかったのですが、昨年5月、寺にやってきたじんは人なつこくて、気に入った方の膝の上に乗ったり、風鈴の下で愛嬌をふりまいたりするので、すぐに参拝者の人気者に。昨夏、お寺の正式な「看板猫見習い」に任命し、今夏は「癒し係」に昇格しました(笑)。
参拝された方が、「招き猫ちゃんがいた」「また会いたい」と、風鈴のことだけではなく、じんのことをインスタグラムなどSNSで紹介してくれるので、じんのおかげで今夏はたくさんの方に来ていただいています。コロナ禍のなか、「落ち込んでいて元気がなかったけど、涼しげな風鈴の音色と猫にダブルで癒され、前向きな気持ちになれた」といった方も結構おられます。
キャラを失ったペットロスを乗り越えられるようにと、じんが私たちの元へやってきてくれたのではと思うこともあります。悲しいことも嬉しいことも、奥深いところではすべて繋がっているのかもしれません。
ここは田舎の小さなお寺。私たちに時間があるときは、悩みごとなどがあれば話をお聞きするなど、参拝に来ていただいた方にできるだけ寄り添い、ご縁を大切にしたいと思っています。もちろん猫たちも一緒に(笑)。
じんは相手の懐に甘えて入っていくタイプ。まずは自分が心を開いて相手に飛び込んでいく方が、人から好かれるし、人間関係もうまくいくことが多いですよね。一方、くうは我が道を行くツンデレですけど、不思議なことに、私が落ち込んでいるときはつかず離れずそばにいてくれます。100の言葉をかけてもらうより、ただ黙ってそばにいてくれるだけの方が楽なときってありますもんね。2匹のタイプは違いますが、日々、猫たちから知恵をもらっています。いまは寺を一緒に営んでいく同志のような存在です。
【寺院名】真言宗御室派平等寺(通称・三井寺)
【住所】福岡県田川市伊田2706-1
【電話】0947-42-7206
【インスタグラム】@mitsuidera_byodoji
*ナビで案内する本堂側の駐車場は、現在駐車禁止。車の場合、ナビを「田川市民球場」にセット。球場側に臨時駐車場あり。風鈴は5月半ば~9月30日まで(拝観時間は9時~17時)。9月14日~20日(19時~21時)には風鈴の夜間ライトアップを予定(緊急事態宣言が延長になる場合は中止)。また、11月半ばから12月半ばの紅葉の時期は約6千個の「風車トンネル」になる。
(まいどなニュース特約・西松 宏)