コロナ禍で映画館応援Tシャツ1万3千枚売り上げ 他都市も羨む?関西ミニシアターの熱い絆とは
関西、特に京阪神地域のミニシアター各館はライバル関係を超越した独自のネットワークを誇り、東京など他都市の同業者が羨むほど仲が良いと聞く。昨年、コロナ禍で映画館が休業に追い込まれたときも、即座に連名でチャリティーTシャツの販売を企画。実に1万3000枚以上を売り上げ、業界関係者を驚かせた。中心になって動いたのが、大阪のシネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館、そして神戸の元町映画館である。8月下旬に元町映画館で開催されたトークショーに各館の代表者らが登壇し、この関係性がどのように生まれ、育まれてきたのかについてあらためて振り返った。
トークショーは、2010年8月に誕生した元町映画館の11年にわたる歩みを紐解いた書籍「元町映画館ものがたり」刊行記念イベントのひとつ。責任編集を務めたライターで同館社員の江口由美さんがホストになり、シネ・ヌーヴォ支配人の山崎紀子さん、京都みなみ会館館長の吉田由利香さん、各ミニシアターと関係の深い映画宣伝の松村厚さんをゲストに招いた。
3人によると、京阪神でミニシアター同士が今のように連携するようになったのは、十数年前に業界を席巻したデジタル上映システムの導入がきっかけという。上映機材をフィルムからデジタルに移行すると莫大な出費になるが、1館だけではどう対処するべきかわからない。そこで当時、大阪の第七藝術劇場支配人だった松村さんが近隣の劇場に声を掛け、勉強会を開催。各ミニシアターはその後も折に触れて連絡を取り合い、映画の共通チラシを作ったり、監督の舞台挨拶ツアーを組んだりするようになっていった。特に2019年からは、次世代を担うインディペンデント映画作家の作品を特集上映する連携企画「次世代映画ショーケース」もスタート。劇場の枠を超えた精力的な取り組みで注目を集めている。
3人の中で最年長である松村さんが映画館で働き始めた二十数年前も、実は京阪神では今とは違うネットワークが存在した。しかし“旗振り役”を務めていた世代が業界から去ると、関係は少しずつ疎遠に。松村さんはその頃から「次は自分がそういう役を担わなくては」と考えていたという。
コロナ禍では、こうして培われた横の繋がりが力を発揮した。休館という未曾有の状況に、地域の文化が衰退してしまうという危機感を抱いた京都みなみ開館の吉田さんが、シネ・ヌーヴォの山崎さん、元町映画館の林さんに「関西の劇場を応援してもらうTシャツを作りませんか」と連絡。即座に「やろう」と企画が走り出し、わずか3日後には販売をスタートさせた。「100枚も売れれば万々歳」と想定していたこの「Save our local Cinemas」Tシャツ、なんと1週間で1万3000枚超の注文が殺到するなど、大反響を巻き起こした。
とはいえ、コロナ禍の深刻な影響は今も継続中だ。「昨年の休館中はほとんど放心状態だった」と振り返る山崎さんも、劇場が移転開業してどうにか軌道に乗りかけたばかりだっただけに「本当に苦しかった」と語る吉田さんも、「出口が見えない中、心身を日々すり減らしながらなんとか繋いでいるという感じ」だと口を揃える。
客席からトークショーを見守っていた林さんも最後にマイクを握り、「こんな状況だからこそ、つまらないことも気軽に言い合える関係性があったことに救われた。連携企画はなかなか簡単にはできないが、これからも私たちの取り組みに注目してもらえたら嬉しいです」と呼び掛けた。
「元町映画館ものがたり」は「街と人との出会い」を軸に、スタッフらのインタビューやコラム、対談などで構成した全5章と、同館の年間売上トップ10と年表で11年の歩みを振り返る1冊。元町映画館と縁が深く、新作「ドライブ・マイ・カー」でカンヌ国際映画祭脚本賞などを受賞した濱口竜介監督も登場しており、「中にいる人たちの奮闘とわちゃわちゃと志を知ったら、あなたもこの映画館の扉を開けてみたくなるはず」との帯コメントも寄せている。
税別2700円、神戸新聞総合出版センター。
(まいどなニュース・黒川 裕生)