新型コロナ、自宅療養「じっと耐えるしかない」は誤解 豊田真由子が法の趣旨を解説

前回のコラムで、「新型コロナ陽性が判明したら、自宅療養で『じっと耐えるしかない』と思っている方が多いが、そんなことはなくて、具合が悪い場合は、早急に、地域の新型コロナ対応をしている診療所に連絡して、感染を広めないように留意しながら、必要な治療を受けるべき。できれば、電話・オンライン診療、往診で。」と申し上げたところ、多くの反響をいただきました。

法の趣旨や医療の原点に立ち戻れば、これはある意味、当然のことなのですが、一般の方はもちろん、現場の職員や医療機関の方などでも、「それは絶対にできない」と思っていらっしゃる方が多いということで、法の趣旨といったことを、少し詳しく解説したいと思います。

なお、繰り返しになりますが、本件は、自宅療養が可能とされる軽症(+中等症1)の方に、地域の診療所を中心にして、どうやって必要で有効な医療を受けていただくか、という話であり、入院治療が必要な重症患者の方・救急の方等については、野戦病院設置などにより病床を確保するといった別の対応が必要になります。

◇  ◇

新型コロナ陽性者への保健所の関与や外出自粛要請等は、感染症法に基づいて行われるわけですが、そもそも感染症法は、「感染症の患者等の人権を尊重し、良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められているという視点に立って、感染症の予防及び患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図るため」の法律です。(感染症法前文(抜粋))

感染症に罹患した方に、都道府県知事(保健所)が深く関与するのは、基本的に、

・感染した方から、社会に感染を拡大させないようにする。

・就業制限や入院勧告といった、感染した方の人権制限を行うことになるため、きちんと法的根拠を定めて、手続きに則って行政機関が実施することが必要。

といった理由に基づきます。

すなわち、こうしたことは、国民の人権と社会の安全を守るためにそうしている、ということになります。

都道府県知事(保健所)は、新型コロナ感染者に、体温などの健康状態の報告や、外出自粛への協力要請等ができ、協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならないとされています(44条の3第1項、3項)が、だからといって、「新型コロナ陽性になったら、家に閉じこもって、高熱でもどんなに苦しくても、医療機関には一切かからずに、ひたすらじっと我慢してください。」といったようなことであってよいはずがないのです。大切なのは、新型コロナにかかった方とご家族を、不安と苦痛の中に置き去りにしない、重症化させないことです。

もちろん、保健所(現状、実際は、都道府県の担当部局)の人員が十分に確保され、健康観察や医療機関への連絡等が十分でき、感染した方誰もが適時に適切な治療が受けられる、ということなら、それが一番です。しかし、今は実際にそうなっておらず、非常に多くの方が、苦しみ、最悪の場合は、治療を受けることもできずに亡くなっている、という現状がある以上、その状況をいかに解決・打開できるか、を考えるのが、政治や行政や医療の役割であるはずです。

なお、新型コロナ陽性者の医療費は、入院の場合は「保険診療+自己負担分は感染症法に基づく公費」、往診等の場合は「保険診療+自己負担分は新型コロナ緊急包括交付金による補助」という扱いになるため、この点からは、新型コロナ陽性者であることについて、事前に新型コロナ陽性者であることの公的な認定が必要ということになるわけですが、だからといって、保健所から連絡が来るまで何もしてはいけない、診療所も助けに行ってはいけない、といったことになるのであれば、それは、まさに本末転倒ということになるのではないでしょうか。その辺りは、事後の手続きで対応できる話だと思います。

◇  ◇

これまで、(現場のお話をいろいろとうかがった上で)地域の診療所の皆様に、ぜひともがんばっていただきたい、と申し上げてきました。

東京都医師会は、2021年8月13日、都内全域で、自宅療養者・待機者に対して「地区医師会・往診専門医・在宅専門診療所・訪問看護」などで、「24時間見守り体制」を導入すると発表し、そして8月31日、自宅療養中の新型コロナ患者へのオンライン診療を9月上旬に始めると発表しました。訪問看護や往診と組み合わせ、重症化の防止や症状悪化時の早期入院につなげるとのことです。

大阪府医師会は、9月2日、新型コロナの自宅療養者への往診体制を強化すると発表しました。診療所が中心となって医療機関でチームをつくり、保健所と連携して医師が平日の日中に自宅療養者宅を訪れて治療にあたり、健康観察や相談に応じる仕組みで、大阪市内から始め、協力する医療機関が増えれば大阪市外にも広げる方針とのことです。

できない理由を並べていても、苦痛は減らせず、命は救えません。

奮闘くださる方々に感謝と敬意を、そして、誰もができることを精一杯やっていく、ということが、新型コロナを乗り越える上で、大切だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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