タリバンはなぜ権力を奪還できたのか 恐怖政治を警戒する人々の一方で…支持する国民も少なくない現実

 8月30日、米軍の最後の飛行機がカブール空港を離れ、バイデン大統領は20年に及んだ対テロ戦争の終結を宣言した。タリバンは第2次タリバン政権を運営していることになりそうだが、今後は女性の人権やテロ組織との関係断絶など諸外国からの要求にどこまで応じていくかが大きなポイントとなる。しかし、ここで今一度よく考えてみたい。なぜ、タリバンは権力を奪還できたのか。それを理解すると、今後のアフガニスタン情勢を予測することはそれほど難しくないかもしれない。

 まず、反政府勢力だったタリバンにとって大きなターニングポイントとなったのは、4月のバイデン大統領によるアフガン駐留米軍の完全撤退発表だった。それ以前からタリバンは国内で攻勢を仕掛け、支配地域を拡大させていたが、バイデン大統領の発表がタリバンの士気を一気に高めることになった。4月の発表以降、バイデン政権は米軍撤退を徐々に進めていったわけだが、パシュトゥン族で占められるタリバンは自らのホームである東部や南部だけでなく、他民族の優勢地域である北部や西部でも攻勢を仕掛け、イランやタジキスタンなどとの国境地帯を一気に支配下に置いた。そして、カブールを包囲するかのように勢力を拡大し、あっという間にカブールを占拠した。このスピード劇については、バイデン大統領も想定外だったと認めている。

 タリバンのスピード奪還を可能にしたのは、タリバンの組織力や軍事力が有能だったこともあるが、いくつかの決定的な理由がある。まず、長年米国が支援してきたアフガニスタン政府や軍の中では汚職が絶えず、軍は兵士の定員を名目上は定めているというが、実際何人いるか正確な人数は分からず、名前があるだけで実際はいない兵士の給与を幹部が横領することもあった。米軍も実際あるアフガン部隊に何人の兵士がいるか把握できなかったことも多々あったという。それもあってアフガニスタン軍兵士の士気は決して高くなく、勤務日なのに配置先に来なかったり、突如脱走したりする兵士も少なくなかった。タリバンの攻勢が一気に強まってから、タジキスタンへ逃げる兵士やタリバンが来ることを恐れ先に逃亡した兵士も見られた。

 また、アフガニスタンは国民の3分の1が飢餓に直面し、15歳以上の識字率が34%しかないと言われる。米国や欧州各国はアフガニスタン軍兵士が独り立ちできるために長年軍事的なアドバイスを行ってきたが、兵士の中には文字の読み書きやコミュニケーションが十分に行えない者も多く、それがアフガニスタン軍の育成を大きく制限したとの指摘もある。

 さらに、アフガニスタンが多民族国家であることも影響していると考えられる。歴史的に、アフガニスタンはこれまで中央集権的に国家運営がなされたことがほとんどなく、パシュトゥン、タジク、ハザラ、ウズベクなどの民族が存在する多民族国家である。当然ながらアフガニスタン軍や兵士にも多くの民族が参加しているが、たとえば上司と部下が言葉も文化も違う異民族で、歴史的な対立構図も影響して関係が良くなく、それが合わさって軍の統率やオペレーション能力、兵士のモチベーションなどの低下に繋がっている。そして、今後タリバン政権となることで、その恐怖政治を警戒して海外へ移動しようとする国民の姿が日常的に報じられるが、タリバンを支持する国民も少なくなく、魅力的な給与をくれるとのことでタリバンに参加している非パシュトゥン系もいると思われる。

 しかし、権力を奪還したタリバンにとっても、その政権運営は決して簡単ではない。アフガニスタン軍が権力を奪還されたような以上のようなファクターは、タリバンにとっても課題となる可能性がある。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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