旧国鉄「キハ40形式気動車」運行実現を…北条鉄道のクラファンに「想像以上の大反響」 五能線カラーで来春にも
小さな鉄道会社のビッグな挑戦だ。兵庫県中部、小野市の粟生(あお)駅と加西市の北条駅を結ぶ北条鉄道が、鉄道ファンから根強い人気を集める車両「キハ40形式気動車」1両を来春に導入するに当たり、クラウドファンディング(CF)を実施している。今月1日にスタートし、同日夜には目標の300万円に達し、ネクストゴールの700万円も6日に達成した。現在、新ネクストゴール1000万円に挑戦中。同鉄道は「想像以上の反響にただただ、びっくり」と嬉しい悲鳴をあげている。
同鉄道が運営する北条線は、1913(大正2)年、播州鉄道(24年に播丹鉄道に改名)として発足。85年4月、旧国鉄加古川線から分岐する北条線を継承して開業した。全線単線の第三セクター鉄道で、沿線を流れる田園風景の美しさは多くの鉄道ファンを魅了。駅舎もレトロ感にあふれ、特に大正時代から残る3駅、法華口、播磨下里、長(おさ)は国登録有形文化財に指定されている。
同電鉄施設課係長の富永篤史さんは「沿線には、樹々のアーチの下を走る“森のトンネル”が3カ所もあって、絵になる美しさです。ここを狙って来られるファンの方も多いですよ」と魅力を語る。
昨年9月、開業以来のビッグプロジェクトなった「行き違い設備」が法華口駅に完成した。単線のために上下線車両が行き違う駅がないために同駅に行き違いできるホームや軌道などを新設した。
これに伴ってダイヤ改正で通勤・通学の時間帯を中心に増発を実施。このため保有車両を3両から1両増やすことが必要となり、「キハ40形式気動車」を導入することになった。22年春の運行開始を目指し、車両改造費などに充てるため9月1日から10月29日までクラウドファンディングを実施。CFサイト「READY FOR」でスタートした今月1日の夜に目標の300万円を突破し、同6日に第2目標の700万円も達成した。現在、第3ゴールの1000万円に挑戦している。
キハ40形式気動車は、国鉄時代の1977年に製造された車両で、全国のローカル線で活躍。ファンの間で根強い人気を誇る。富永さんは「今回のCFで予想以上の反響が寄せられたのも、キハ40形式の人気のおかげかもしれません」と言う。
特に今回導入予定のキハ40形車両は、秋田と青森を結ぶJR五能線を走っていた車両で、今年3月12日に引退したばかり。惜しまれつつ役目を終えたが、日本海をイメージするブルーを配した車体の“五能線カラー”もそのままに北条線で新たに出発することになった。
北条鉄道では「五能線カラーごと北条鉄道が引き取り、復活させることをとても喜んでいただいています」と、順調なCFを分析する。海岸線を走っていたキハが、今度は田園風景の中でどんな姿を見せてくれるのか。そんなファンの期待も後押しする。
CFのリターン例には「運転体験」「助士席での乗車体験」などが設けられているが、リターンが「お礼状」のみの5000円、1万円といった小口の申し込みが中心になっているという。
富永さんは「全長13.6キロ、8駅の小さな鉄道会社の挑戦が、当日中に目標額達成とは“嬉しい誤算”に社員一同、本当に驚きました。北条にキハがやって来る、と期待してくださっている方の気持ちが伝わってくるようです。温かい雰囲気の中でプロジェクトが進んでいます」。
新車両導入は、観光客誘致への期待もかかる。新型コロナウイルス禍の中、現在観光客は減っているものの、全国40のローカル鉄道(第三セクター)が取り組む「鉄印帳」(ご朱印帳の鉄道版)の押印に訪れるファンの姿も。鶉野(うずらの)飛行場跡(加西市)など話題のスポットもあり、キハの登場で沿線の魅力が倍増されそう。
第3の目標「1000万円」も達成できれば、列車内照明のLED化に、運賃表示器をデジタルから液晶に変更するなどに充てることになっている。「今回のプロジェクトを通して、北条鉄道のことを多くの人に知ってもらえたらうれしいです」(富永さん)。
「キハの雄姿をもう一度、北条鉄道で見たい」というファンの熱い思いで、1000万円突破なるか?来春の運行開始が待ち遠しい。
(まいどなニュース特約・入谷 晴美)