「松山まで行ってくれへんか」「猫ですね」 処分前日に救った8匹の命 「この店は猫に助けられた」
「小さな命を救いたい」…超リアルな鉄道ジオラマの上を遊びまわる猫たちの姿が楽しめることで話題の食堂に、あらたに8匹の子猫がやってきた。愛媛県松山市で捕獲されたが、殺処分の期限が迫っているとの情報を受け、急きょスタッフが現地に急行、引き取ったのだという。食堂には10月から猫専用ホテルがオープン予定で、ちょうど多くの猫が過ごせる場所が用意できていた。子猫たちはホテルの初めての“お客さん”になったという。
大阪市天王寺区寺田町にある「ジオラマ食堂」は、オーナーの寺岡直樹さんが手作りした巨大な鉄道ジオラマに、お客さんが自分の鉄道模型を持ち込んで走らせることができる食堂だ。15年も通う常連さんがいるなど、鉄道模型マニアの間では知る人ぞ知るお店だった。
お店が4匹の母子猫を保護したのは、昨年6月のこと。ジオラマの上を自由気ままに闊歩する猫たちの姿をSNSに投稿したところたちまち話題となり、一躍有名店に。そのおかげで、コロナ禍で倒産寸前の危機に直面していた経営はもち直し、遅れぎみだったスタッフの給料も滞りなく支払えるようになった。
「この店は猫に助けられたようなもの」
それ以来、命の危険に晒されている猫を保護しつづけ、気が付けば、猫の数は15匹になっていた。
「より多くの猫のためになること」に取り組みたいと考えた寺岡さんは「猫のためのホテル」を計画。施設が完成間近というときSNSで目についたのが、松山市で引き取り手のない2匹の子猫の情報だった。9月2日が殺処分の期限だったが、引き取り手が現れないまま9月1日になっていた。このままだと、あの2匹は殺処分されてしまう。悩んだ末、寺岡さんは2人のスタッフに声をかけた。
「松山まで行ってくれへんか」
「猫ですか?」
スタッフも心得ていた。
行ってみると、2匹のほかに3匹の子猫がいた。あわせて5匹。どの子も生後30日くらいと推定された。
結局その3匹も一緒に引き取ることにしたが、松山市役所での手続きの都合上、先にSNSで見つけた2匹を大阪へ連れて帰り、3匹は数日あとに迎えることになった。
「ところが、その3匹を迎える日になって、松山から連絡が入ったんです。『じつは、もう3匹おる』と(笑)」
この日までに相次いで保護されていたのだ。
この3匹もまだ小さかった。こうして一度に8匹の子猫を保護したため、ジオラマ食堂の猫は23匹の大所帯になった。
猫専用ホテルが完成! 10月1日にオープン予定
一度に8匹もの子猫を引き取ることができたのは、今年の春からジオラマ食堂の2階で準備を進めてきた猫ホテルが完成していたことが幸いだった。10月1日のオープンに向けて、いまはスタッフの研修が行われている。
どんな猫ホテルになったのだろうか。
「ケージとケージの仕切りは一般住宅用の合板を使っていますし、ケージの上をチェーンで固定して、強い地震がきても簡単に倒れないように手当てしています。猫用のシャワー室もつくりました」と寺岡さん。「出張や旅行で自宅を留守にされる方にご利用いただきたいです。スタッフが交代しながら24時間常駐します」
料金は1匹1泊5000円から。長期滞在は割引がある。滞在中はケージに入れっぱなしではなく、飼い主さんの希望により、ケージから出して店内を散歩させることも可能だ。
収容数は、法的には100匹まで可能だそうだが、ケージを置けるスペースの都合で、実際の運用では100匹より少ないとのこと。
「災害時には預かり先のないペットの緊急避難先にしたり、街なかで保護された猫を一時預かりしたりできるような場にもしたいと考えています」と話す。
完成したばかりの猫ホテル最初の「利用者」が、松山で保護された8匹の子猫となった。獣医の診察を受けたあと、保護されたグループごとに3つのケージに分けられた。ジオラマ食堂の動物看護師がケアをしており、とても元気に過ごしている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)