豊田真由子が考える国家のリーダー像 必要な資質は「人を動かす力」と「優しさ」
自民党総裁選の投開票が9月29日に迫り、各候補者はラストスパートです。(※本原稿の執筆は9月26日時点。)今回の総裁選は、どの候補が選ばれるかが判然とせず、党員・党友票と国会議員票の動向に違いが見られる、支持未定議員もまだかなりいる、など、混沌としており、メディアも連日大きく取り上げています。
■総裁選は「内輪のこと」ではない
「内輪のことに熱中して何やってんだ」という声もありますが、各政党の支持率等を見ても、次の衆議院選で政権交代が起こる可能性は低いと考えられますので、そうすると自民党の総裁は、すなわち、次の日本国の総理になります。とすれば、総裁選は「内輪のこと」ではなく、まさに「日本国の舵取り役を誰にするか、山積する課題を解決できるのは誰か」という、すべての国民と日本国の現在と未来に直接影響があることだといえます。
一回目でどの候補も過半数に達しなかった場合は、上位2名による決選投票となり、2位以下の陣営が連合を組んで、逆転を狙う、という可能性が大きい状況です。その場合、「1位河野議員、2位岸田議員」だと岸田議員が勝つが、「1位河野議員、2位高市議員」だと2位以下の連合がうまく行かず、河野議員が勝つ、とも言われており、まだまだ結果は見えない状況です。
■誰が当選しても、大切なのは「その後」
各候補の方から、多くの政策案が提示されています。目新しいこと、耳障りのいいことを、口で言うのは簡単ですが、問題は、それが真に日本国と日本国民のためになることなのか、そして、実現可能なことなのか、国民や諸外国との関係含め日本国に与える影響はどうなるのか、といった点が重要なのだと思います。
新型コロナ対策、経済、産業、教育、子育て、外交、安全保障等々 -- 我が国が直面する様々な課題を、いかに迅速に有効に、そして、真に国民のためになる・実現可能な形で、実行してくれるのか。当たり前のことですが、どなたが当選しても、大切なのは「その後」です。
一回目と決選投票で逆転が起こることについて、「民意(党員・党友票)を反映しなくてよいのか」という批判がありますが、国会議員は選挙によって選ばれた各々の選挙区の国民の代表でありますから、国会議員の投票は民意ではない、ということにはなりませんし、また、現在の総裁選の仕組み自体が、こうした逆転があり得ることを想定しており、したがって、その仕組み自体がおかしいから変更すべきだという話はあり得ますが、制度自体がそれを前提としている以上、いずれにしても不当とはいえないと思います。
なお、2012年の総裁選までは、決選投票は国会議員のみの投票でした。2012年の逆転について自民党の都道府県支部等から「地方軽視だ」との声が上がり、その後の総裁公選規程が改正されたという経緯があります。
■議員の“格差”は極めて厳しい
「党員になった自覚のない人に、総裁選の投票用紙が届いた」という報道がありますが、これはあり得ることだろうと思います。というのは、自民党の国会議員には、新規党員獲得の厳しいノルマが課されており(年に新規で1000人)、獲得党員数の上位下位の順位が発表されるとともに、規定数に達しない場合は、ペナルティ(新規党員1人不足ごとに2000円)が議員に課されるというシビアなもので、議員の評価にも関わってくるのです。
こうした中で、(望ましいことかどうかは別として)、例えば、その議員の支持者である会社や団体のトップの方が、かけ声をかけて、社員や会員やその家族の方に党員になってもらうということも行われていますので、ご自身は自覚のないままに、ご家族が入党届と会費を出していた、というようなケースもあるのだろうと思います。
ただ、この新規党員獲得のノルマは、議員にとっては、相当しんどいもので、私もそうでしたが、地盤看板カバン無しの身で、応援してくれる方を、必死で少しずつ増やして来たような場合、「応援していただけるようになるだけで、精一杯」であり、「とてもじゃないけど『年に4000円払って、自民党員になってください』なんて、図々しいこと言えないよ」という思いの議員は少なくありません。
政治の世界で、ベテラン議員や世襲議員と、そうでない議員との“格差”というのは極めて厳しいものがありますが、こういう場面でも、それは明らかになります。
■リーダーの資質は「人を動かす力」と「優しさ」
さて最後に、(僭越ながら)、国家のリーダーに必要な資質について、改めて原点に戻って考えてみたいと思います。
まず、国の行く末を考える、幅広い教養に裏付けられた理念や国家観、そして、様々な政策を実行する深い理解力と的確な判断力。
ひとりの人が、多岐にわたる政策分野について、すべてを分かり誰よりも詳しくなる、なんてことは不可能です。ですから、国家のリーダーというのは、きちんと話を聞いて、それを理解することができる、そして、将来的なことも見据えて、何がより良い方策か、ということを判断できることが大事で、これは様々に分野が変わっても、通底する普遍的な能力だと思います。言い換えるなら、それこそが「政策力」があるということです。
それから、「人を動かす力」。
与野党はじめ政治に携わる人たちを、良い意味で心を掴み掌握し、そして、官僚機構を真に使いこなす。決して脅かすのではなく、信頼して、人々の能力とやる気を、国のために最大限発揮させる。“ボトムアップの力を結集したトップダウン”とでもいうべきもの。
「物言えば唇寒し」で、皆が顔色をうかがってばかりでは、政策の立案や実行面でも、リーダーの誤りを正せず、正しいことを主張できず、重要な国益や国民の幸福を脅かす事態になります。リーダーをリスペクトでき、多くの人を奮闘させることが、結局は、国民のためになります。
そして、「優しさ」。
弱い立場、苦しい状況にある人の気持ちを真に理解できる力、国民や社会全体のニーズを汲んで、見極める力が、今こそ政治に求められています。コロナ渦で、経済的に苦境に陥る、自殺が増えている、教育の機会や質が損なわれる、必要な治療が受けられずに亡くなる--、個人の努力だけではどうにもならないことを解決するのは、国家や政治の役割のはずです。
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総裁選の後には、衆院選があります。総裁選に注目が集まり、自民党の支持率も上がっているとも言われますが、新型コロナ対策をはじめ、様々な課題について、積み重なった国民の不信を払しょくし、機動的かつ効果的な政策を実施し、国民の安心と日本国の発展を実現していく--閉塞感が漂う今の日本社会で、多くの国民が望んでいることに、ぜひとも、謙虚に真摯に向き合っていただきたいと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。