サイズは2~3倍!シャリは赤く生のネタはほとんど無し? 江戸時代の握り寿司事情を描いたイラストが話題に
「ネタもシャリも今とは少し違ったようです」
江戸時代の握り寿司事情を描いたイラストがSNS上で大きな注目を集めている。
このイラストを描いたのは編集者でイラストレーターの笹井さゆりさん(@chiyochiyo_syr)。
江戸時代後期に屋台売りの大衆食として始まった握り寿司だが、そのサイズは現代のもののおおよそ2~3倍、シャリは赤酢を使うので赤っぽく、ネタも冷蔵技術が無いためあらかじめ酢でしめたり熱を通したものが大半だった。
笹井さんのイラストに対し、SNSユーザー達からは
「小腹が空いた時にふらっと立ち寄って2~3貫食べる、ファストフードだったんですよね」
「お寿司はトロやらサーモンやら生魚系がお好きな方が多いようですが江戸の昔から存在する細工物こそ寿司の真骨頂!魚の煮方ひとつにも、板前さんの考え方、心意気が出ると思ってるワタシ 現代において赤酢の舎利は、高級店に行かないと出して貰えないですよね…」
「鮪のトロ発祥の(出し始めた)お店は、日本橋の吉野鮨さんと言われています。当時は「アブ」とか「ダンダラ」と酷い名前で呼ばれていたそうです(笑)」
「江戸時代の大トロと言えば、ネギマ鍋もございますね。脂が落ちてさぞ美味しかったのではと思いますが、江戸っ子たちの舌にはどうだったのかなぁ」
など数々のコメントが寄せられている。
笹井さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):江戸時代の寿司事情をお知りになった時のご感想をお聞かせください。
笹井:こんなにも庶民的なファストフードだったことに驚きました。現代のお寿司は少し特別感のある食べ物ですよね。ところが、当時の人にとっては完全に屋台のおやつ。サイズ的にも「握り飯の代わりに寿司でも」という感覚だったのかもしれません。
ネタの種類、好みに関する当時ならではの感覚も新鮮でした。脂の乗った「トロ」が不人気の憂き目を見るなんて、現代人はどうしても気になってしまいます(笑)。
冷蔵技術や交通網の発達を経て、ネタの種類や味の好みが多様化してきたわけですよね…。長い歴史を背負ったお寿司に、改めて手を合わせたくなりました。
中将:現在でもまれに江戸時代サイズのお寿司を提供するお店、赤シャリのお寿司を提供するお店がありますが、笹井さんは召し上がったことがおありでしょうか?
笹井:残念ながら、まだ食べたことがないです。今回、寿司事情を発信した際に、東京で赤シャリのお寿司を食べられる美味しいお店を教えてくださった方がいました。ぜひ今度伺いたいと思います。
中将:定期的に「江戸時代のちいさな話シリーズ」を投稿されていますが、江戸時代の人々の暮らしについてどのように思われますか?
笹井:うまく言えないのですが、江戸時代の人も生まれ落ちたその時代を、一生懸命楽しく生きていたのだなあ、と…。文筆家で漫画家の杉浦日向子さんの描く等身大の江戸の世界が好きなので、その影響も受けています。
現代基準で見れば身分が固定化され、不便も多く、大変な時代にも思えます。ですが実際は、想像よりずっと人々が自由で娯楽も多く、楽しそうです。特に好きなのが江戸時代後期の町人文化。幕府は「贅沢はだめだ」と何度も取り締まるのですが、それをかわしながら浮世絵を刷ったり下品な本を出したりお洒落を楽しんだりしたという構図が多いです。たまに逮捕される人が出ますが、懲りずにまた復活します。そういう強かさを知れば知るほど、江戸時代の人が好きになりますね。
中将:これまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください。
笹井:最初は、自分が知れば知るほど楽しい「江戸」というマニアックなネタのお裾分けのつもりで始めました。ですが予想外にたくさんの感想をいただき、「江戸が好きな人がこんなにいたんだ!」と。このシリーズを見てくださる方には、歴史好きな方はもちろん、学生さん、子育て中の主婦の方、教師の方、着物のコスプレイヤーさんなど様々な方がいらっしゃいます。実社会ではなかなか出会えない方々と「江戸」を通して繋がることができ、嬉しいような照れくさいような気持ちです。
中将:シリーズ連載にあたって心掛けておられることはありますか?
笹井:私は江戸文化の専門家ではなく、このシリーズもあくまで「江戸が好きな素人による調査結果報告」です。文献や展示にまとめてくださる専門家の方がいてくださるからこそ成り立つシリーズなので、見てくださる方が増えるほど、専門家の方へのリスペクトは欠かせません。
自分なりの約束として、毎回必ず参考文献やWebサイトをURLとともに明記しています。ささやかですが、自分の発信をきっかけに、専門家である著者の方に少しでも還元できる機会を増やせたらなと…。これからもできる限り丁寧な調査と発信を心がけていきますので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
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インタビュー中でも触れたが、現在でもまれに江戸時代のサイズ、製法のお寿司を提供するお店がある。筆者もまだ味わったことがないのだが、江戸情緒に触れてみたい方はぜひ一度お調べになっていただきたいと思う。
江戸時代の風俗をテーマに描かれた「江戸時代のちいさな話シリーズ」は毎週日曜夜に更新中
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)