神戸・北野を街歩きしながら芸術鑑賞 気に入った作品があれば…その場で購入もできるアートフェス
神戸の観光スポット、北野一帯でアートフェス「Any Kobe with Art 2021」が初開催され、話題になっている。異人館やギャラリー、カフェなど21カ所にファッションデザイナーのコシノヒロコさんら関西ゆかりの作家の作品を展示。気に入れば、即購入できるものもある。行楽シーズンを迎え、街歩きしながら芸術の秋を満喫してみた。10月3日まで。
明治、大正時代に建てられた洋館が数多く残っている神戸・北野界隈がアートに包まれた。
招待アーティストとして、ファッションデザイナーのコシノヒロコさんをはじめ、現代美術家の椿昇さん、動物の肖像を手掛ける彫刻家のはしもとみおさん、猫を撮り続ける写真家の森原輝明さんら26人が参加。さらに138人から選ばれた公募アーティスト31人の計57人が出展し、多彩な作品が展示された。
今回の「Any Kobe with Art 2021」は、コロナ禍で発表の場が激減している作家に活躍できる場所を届けたいという思いから生まれた。「Any」としたのもいつでも、どこでも、だれとでも、つながってほしいという願いを込めており、北野の魅力を再発見してもらい、神戸を元気づけたい狙いもある。
そんなアートフェスの特徴は大半の作品がその場で購入できるところ。街歩きをして芸術に触れ、気に入った作品をそのまま自宅に飾ることができるというわけだ。
コシノヒロコさんの作品は2会場で展示され、ホテル北野プラザ六甲荘に展示されている作品は全て完売。北野の異人館の中でも象徴的な建物でもある「風見鶏の館」(入館料別途必要)に展示されているドレスは、コシノさんが事前に会場に足を運び、展示場所となった食堂の雰囲気に合ったものを過去のコレクションの中から厳選したという。
広報担当によると「この作品を見るためだけに訪れた方もいた」といい、観光だけではなくアートを楽しみに訪ねる方も増えたという。風見鶏の館では彫刻家の金愛子さん、画家の海野厚敬さんの作品も観ることができる。
少し歩いて「ギャラリーBricolage」をのぞくと、そこではバンクシー展を開催していた。昨年、大阪で開かれた展覧会で展示されていた作品の複製品も購入可能とあって、それを目当てに訪れる人もいたそうだ。
家具・インテリアを販売している「+CASA」では、家具と花と8人の作家作品がコラボレーションした形で展示されていた。中庭にはアメフラシをモチーフにした灰野ゆうさんの作品が置かれ、外を歩く人も鑑賞することができる。
北野坂にオープンしてこの11月で17周年を迎えるビストロ・カフェ・ド・パリも参加施設の一つ。ゼネラルマネージャーであるアズィ・アズーズさんは元々音楽や絵を描くアーティストの友だちやお客様が多かったそうで、店内には自由に弾けるピアノや楽器を置き、絵画作品も展示されていた。今回のような取り組みは「元々やりたかった」そうで、このフェスに参加してアーティストの作品を15点展示している。
「日本人はまだまだアートを購入しようという人が少ない気がする。うちのお店もカフェなので買いづらい面はあるかもしれないが、今回は興味を持って、お店に来ている方が多いし既に買い手がついた作品も出ている。今後もアート支援に力を入れていきたい」と話してくれた。
同店では周遊チケット持参で飲食された方に「ナヴェット・マルセイユ」(マルセイユの小さな船)という船の形をしたクッキーがプレゼントされる。
北野天満神社では不動貴雄さんの作品「菅原道真公 春覗梅園図」が展示されていた。不動さんは姫路在住。姫路の播磨国総社 射楯兵主神社の永年干支大絵馬奉納事業や七福神座画に取り組んでおり、そうした縁から今回のこの会場での展示となったという。
「作品のモチーフは、菅原道真公をお祀りしている神社さんということ、道真公が鬼門払いの牛を飼っているという話を文献で見たことから選びました。今回をきっかけにいろんな作家さんが日本の芸術文化として神社さんに奉納して誰もいつでも見られるようなものになり、アートと人の距離が縮まるとうれしい」と不動さんは話す。
ちょうど訪れた日は絵に目入れ式を行うイベントを開催。観客が見守る中、境内中央にある神戸市重要伝統的建造物に指定の拝殿にて行われた。佐藤典久宮司は「昔から神社と絵は近しい存在。今回の絵も会期終了後ずっと拝殿に掲示させていただくこととなり、何百年と続く神社の歴史に新たなロマンを刻んだような気持ち。これを機に若い方も神社に訪れるきっかけになってくれれば」と語った。
緊急事態宣言下で休業中のチョコレート店「ショコラリパブリック ギャラリーカフェ北野」は店内が猫一色に。愛猫をモデルに作品を描く山田貴裕さんと拡大レンズを使わず、猫の自然な表情と動きを収めた森原輝明さんの写真が展示されている。
山田さんの作品のモデルであるみーちゃんは2004年にお母さんが拾ってきた猫で現在17歳とは思えないかわいい表情が多くの観客を魅了。木のパネルに直接油性マジックマッキーで描かれたみーちゃんは本当にかわいらしく毛並みや表情が見事に表現されていた。
普段は紙にボールペンや木にマッキーといった身近な画材で描いている山田さん。コロナ禍で時間ができたことで新たに取り組み始めたフェルメールの絵画とみーちゃんの絵をコラボレーションさせたデジタル作品は猫好きにはたまらないかも。
「今回は初めて会うお客様がとても多い。デジタル作品を買ってくださった方も初めての方。そういう意味でも、このフェスは成功だなと思います」と話してくれた。
「今回のフェスの目的は、一つはアーティストさんの活動支援や発表の場を増やすこと、もう一つは神戸の観光を強化し1泊2泊と宿泊しながら何度でも来ていただき神戸を楽しんで周遊してもらえるものにすること。生の作品をぜひ家で飾ってもらって、アートのことをもっと好きになってほしい」と実行委員会の磯崎善彦さん。
既に来年の計画も進んでおり、2回目は北野坂だけでなく、旧居留地にも拡大し、三宮を挟んだ上下で会場数も40以上となる予定だ。また現在アーティスト活動支援と地域活性化に向けたクラウドファンディングも始まっており、未来の神戸とアーティストを盛り上げる活動にも力が入っている。
周遊チケットは2500円。有料会場6カ所と好きな有料会場1カ所の計7カ所を周ることができ(無料会場も11あり)、会場サービスとして飲食店などで10%オフといった優待も受けられる。
また、10月3日はKOBE観光の日となっており北野では風見鶏の館をはじめとする11施設が入館無料やプレゼントといった特典を用意している。今週末でフェスは終了だが、この機会に地元の方も新たな神戸の顔を見に足を運んでみてはいかがだろうか。
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【Any Kobe with Art 2021】
期間: 9月17日(金)~10月3日(日)
開催場所:神戸・北野町界隈21ヶ所
周遊チケット:2500円
(まいどなニュース特約・藤原 玉美)