ペットロスでもう飼わないと決めていたが…捨て猫と運命の出会い 「猫のいない生活は考えられない」
■公園に捨てられていた子猫
徳島県に住む原口夫妻は、ともに猫が好きだったが、転勤族だったのでペットへの負担も考え、猫を家族として迎えるのは「運命的な出会いがあった場合のみ」と考えていた。
いま住んでいるところに転居し、2カ月ほど経った頃、近くの観光地に遊びに行った。そこは古風な街並みが美しく、野良猫もたくさんいた。観光を楽しみつつ、細い路地を歩いていた時、今にも倒壊しそうな家屋のところで何か気になる影が目に入った。
「夫と確認すると、手のひらほどの大きさのサバ柄猫が、一回り大きな白猫にいじめられていたんです。私たちの視線に気づいたようで、白猫はすぐに逃げていきました。私たちが驚いていると、そのサバ柄猫がよちよちと歩き、か細く鳴きながら家屋から出てきました」
その猫は目が見えていないようだったが、なんと原口さんの足の上に乗っかって眠りだした。原口夫妻は、子猫が「助けて」と訴えているようにしか思えず、被っていた帽子に入れて保護したという。名前は、あるアニメで、目が見えなくてもすごく強いキャラクターがいたので、そのキャラクターにちなんで「藤虎」と名付けた。夫妻は紫色が好きだったということもある。その後、獣医師に助けてもらって懸命に育てたが、藤虎ちゃんは身体状態が悪く、保護してから約3か月で亡くなった。
■死んだ愛猫に似た子猫
藤虎ちゃんに死なれてから原口さんは毎日悲しくて、「こんなに悲しいなら、もう猫はお迎えしない」と思っていた。しかし、藤虎ちゃんと過ごして幸せだった日々が懐かしく、いつしか原口さんは、毎日譲渡サイトを見るようになっていた。
「それから数カ月、今のうちの子が掲載されているのを見つけました。その時、色柄も全然違うのに、何か近しい雰囲気を感じてしまい、私はその子のことばかり考えるようになったんです。毎日募集状況を見ては、まだ里親が決まっていないことを確認しました」
その子猫(生後11カ月・オス)は、捨て猫だった。徳島県でTNR活動(T=TRAP「つかまえる」N=NEUTER「不妊手術する」R=RETURN「元の場所に戻す」)をしている人が、自宅の隣の公園に雨傘に入れられて捨てられていた藤虎ちゃんと妹猫を発見した。生後1~2カ月くらいだったという。
あまりに気になったので、夫に「この子だけ応募して、もうだめだったら猫を飼うのをあきらめる」と伝えると、夫も賛同してくれた。
“里親”に立候補すると、他にも何名か応募していたようだが、保護主が原口夫妻の人柄と、前の子のエピソードを受け入れてくれた。昨年12月11日の面談後、その日のうちにトライアルをスタートすることになった。
■二代目 藤虎
保護主は、「人に捨てられたからなのか、すごくビビりな性格なので、ゆっくり関わってあげてほしい」と言った。家に来てすぐ、ケージの奥で小さくなっていたが、数時間で室内を探検するようになり、その数時間後には原口さんと夫の足の間で寝てしまった。
最初の子の分まで強く幸せにしてあげたいという気持ちから、名前は世襲にした。なので、正確には、前の子は「初代 藤虎」、いまの子は「二代目 藤虎」という名前だ。
「二代目 藤虎には、『あなたは我が家の次男で、すごくいい子のお兄ちゃんがいたんだよ』と話してあります。絶対理解していないですけどね(笑)」
■初代 藤虎の分も絶対幸せにしたい
その後、藤虎ちゃんは子猫らしく、遊びたがりの甘えん坊に育っているという。原口夫妻が帰宅するとゴロスリ状態で、家にいる時は、必ず人の気配が感じられるところにいる。
相変わらずビビりな性格だが、夫妻が親しくしている人は悪い人ではないと思っているのか、必要以上に警戒することはなくなってきた。
「最近は成猫に近づいてきたこともあるのか、今まで夜は毎日私の顔の横で寝ていたのに、足元で寝るようになり、なんとなく少し寂しいです(笑)」。いたずらに困ったり、一日に何回も「こら!」と怒ったりしているが、それでも原口さんは、藤虎ちゃんのいない生活は考えられないという。
「初代の分も絶対幸せにしたいと強く思っていて、そのために頑張れることもあります。何が猫にとって幸せなのか分かりませんが、二代目 藤虎が元気にごはんを食べて、すやすや寝ているのを見ると、きっと私たちのことを慕ってくれて、穏やかな気持ちで過ごしているのだろうと思います。そのことが何より嬉しいです」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)