びわの木の下で鳴いていた子猫、かつて保護に失敗した三毛猫への罪滅ぼしの意味もあって保護を決断
■びわの木の下にいた子猫
びわちゃん(5歳・メス)は、大阪府に住む北村家の庭にあるびわの木の下にちょこんと座っていた。可愛い茶トラの子猫だった。その時は「どこから来たのだろう?」と思っただけだったが、ある雨の日、早めの夕食を食べていると、ウッドデッキにびわちゃんがちょこんと座って鳴いていた。
「お腹が空いたのかなと、その日の夕食のおかず、アジの塩焼きの残りを持っていきました。するとびわは、アジを引きずって持っていき、家庭菜園のトマトの陰に隠れて平らげました。塩味の魚なんて!と言わないでくださいね。なぜなら、我が家はわんちゃんのためにも魚を焼くので、調味料は一切付けない素焼きなんです。ご安心を(笑)」
それから、びわちゃんは毎晩来るようになり、北村さんは猫用のカリカリを用意するようになった。毎晩来ていたのが、毎朝来るようになり、昼間はウッドデッキでお昼寝したり、どこかへ出かけて行ったり。しかし、晩御飯には必ず帰ってくるようになった。
「びわは、まだ大人ではないことは確かでした。生後半年くらいでしょうか、子猫でした。ごはんは食べるけど甘えてはこない。その子のために、ウッドデッキの片隅に段ボールで猫小屋を作りました」
そうしてびわちゃんは北村家の庭の住人になった。しかし、「野良猫にえさはやらないでください!」と町内では厳しく言われていた。
「自治体によっては、地域猫を皆さんで世話しているところもありますが、悲しいかな、我が自治体は、そんな感じではありません。いつか注意される。思い切って家の中にいれることにしました」
名前は、散々家族で議論した末に、びわの木の下にひょっこり現れたから、”びわちゃん”と名付けた。
■脱走常習犯
それから猫のかりんちゃんを迎えるまで、びわちゃんは先住犬の楽ちゃんと暮らしてきたが、楽ちゃんは穏やかで、びわちゃんはマイペース。一度だけ、楽ちゃんがごはんを食べているときに、横からちょっかいを入れたら、物静かな楽ちゃんもさすがに、わん!と一喝した。たった一度だけの出来事だったが、びわちゃんも学んだようだった。
びわちゃんを飼って苦労したのは、何度も何度も、網戸を突き破り、家出することだった。「何枚、網戸を張りなおしたことか。網戸などひとたまりもないので、それに金網を張って家出防止対策したのですが、今も、少しの隙間を見つけては逃走。5歳になっても衰えません。家出したら、天気がいい時は一晩帰らないことも。でも、毎晩、おばあちゃんの腕枕で眠るかわいいところもあります」
■罪滅ぼし
びわちゃんを保護したのは、償いの意味もあった。
びわちゃんが来る数か月前、まだ寒い頃だったが、北村さんは、ある三毛猫を保護しようとしたことがあった。その子は、コンビニの裏に他の猫たちと住み着いていた。夜にはボランティアのおばさんが来てごはんをくれるので、細々命をつないでいた。その三毛を見た時、明らかに体調が悪いことが分かった。目にはいつも目ヤニ。時折鼻水も出していて、何度か出産したそうで、弱っていた。北村さんは、治療してあげたら回復するかもしれないと思った。
「私はその子が、以前、私の足元にじゃれついてきた子猫だったことに気が付きました。コンビニに買い物に行った帰り、駐輪場でかわいらしい子猫たちが遊んでいました。可愛い三毛猫が私の足元にじゃれついてきて、しばらく相手をしましたが、家には犬がいました。連れ帰るなど、毛頭考えなかったのです。時が過ぎて、その子猫はコンビニの裏で生き延び、大人になっていたのです」
三毛猫は人を寄せ付けず、いつも厳しい顔で遠目に見ていた。
「もし、あの時、私があの子猫を保護していたら…今こうして、人を信じない子にはなっていなかった。胸が痛みました」
それから何度か捕獲を試みて、ある日成功した。しかし、家に連れ帰り中に入れようとしたその時、猫をいれた袋の隙間から逃げてしまったという。
「ああ、どうしよう。後悔先に立たず。やはり、猫のことを知らない者です。手際が悪い。がっかりしましたが、猫はその夜戻ってきました。ああ、よかったと、ご飯を上げると平らげ、まだ去っていきました」
また戻ってくるだろうと、缶詰を用意していたが、その子は二度と戻ってこなかった。数か月たったある日、コンビニとは離れた場所で、北村さんはその三毛猫に偶然会った。
「生きていたんだ…ありがとう。でも、当然通じることはありません。どこかに逃げてしまいました。ただ、その時は、真っ白の猫と一緒。パートナーだったのでしょう。以来、あの悲しい目をした三毛猫に会うことはありませんでした。一体どうなったのか…」
北村さんは、大きな後悔と三毛猫の生活を変えてしまった罪の意識でいっぱいだった。そんな時に、出会ったびわちゃん。気持ちよさそうにくつろぐ姿に癒されながら、今も「もしあの三毛猫も保護出来ていたら」と振り返って後悔することがある。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)