新型コロナワクチン3回目の追加接種「効果は?」「副反応は?」 豊田真由子が必要と考える6つの検討事項
新型コロナワクチンの3回目の追加接種(ブースター接種)が議論になっています。
厚生労働省の審議会は、9月17日、新型コロナワクチンについて、3回目の追加接種を行う方針を了承しました。先行接種の対象であった医療従事者は年内から、高齢者は年明けから、それぞれ追加接種が開始される見通しとされています。
新型コロナワクチンの追加接種の有効性については、現時点で必ずしも、十分なエビデンスが出されているとはいえない状況の中で、基本的に各国とも、様々な議論のある中で、重症化リスクの高い高齢者などに対象者を限定して、先行で開始しているという現状です。
日本を含め、各国とも、新規感染者数が急減する中で、ワクチン接種や治療薬の開発等もあり、社会経済活動の再開・発展という大切な局面にあり、ワクチン接種の果たす役割は大きいものがあります。
そうした中で、3回目以降のワクチン追加接種というのは、2回目までのワクチン接種の議論とは、また別の側面があります。2回接種した効果が、いつどの程度減少し、そして、追加接種により、どんな効果がどの程度増大するのか(必要性・有効性)、追加接種の副反応はどうなるのか(安全性)等。2回接種には、基本的にゼロだった免疫をワクチンで獲得するという意義があるわけですが、追加接種はそうではない中で、ベネフィットとリスクの比較衡量も変わってくるといえます。
また、富裕国で追加接種が進められる一方で、途上国での接種が一向に進まないという状況となれば、倫理的な問題に加え、新たな変異株出現のリスクも依然残り、根本的な問題解決を妨げるおそれもあります。
追加接種に関しては、「結論ありき」でのデータ引用と思われる情報も散見される中、本稿では、できる限り、多方面に渡る知見やデータを、中長期的な観点から、客観的にお示しし、掘り下げて検討するよう、努めたいと思いました。
※本稿で引用した研究結果につきましては、末尾に根拠データを付記しております。可能な限り、現時点(2021年10月10日)における最新のデータや意見を基にしました。
■どのワクチンにも、「効果の持続期間」がある
まず、「せっかく副反応を我慢して、新型コロナワクチンを打ったのに、効果が減少しちゃうの?!」「3回目の接種をしなければならないの?!」と、驚きを持って受け止められる場合もあるかもしれないのですが、「時間の経過によって、ワクチンの効果が減少していく」ということは、新型コロナワクチンに限らず、ワクチンの性質として、通常あり得ることです。
ワクチンの効果の持続期間は、ウイルスやワクチンの種類によって、異なります。
※「ワクチンの効果」といった場合に、感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果といった複数の内容があり、どの効果をどれくらい有するか、ということは、ワクチンによって異なります。
各ワクチンの効果の持続期間は、大まかにいえば、例えば流行性耳下腺炎(おたふく風)、風疹、麻疹(はしか):約20~30年、水痘(水ぼうそう):約20年、破傷風:約10年、B型肝炎:約5年、肺炎球菌:約3~6年、インフルエンザ:約5か月等とされています。
インフルエンザ(新型ではなく、通常の季節性インフルエンザ)のワクチンは、毎年接種をします。それは、ワクチンの効果の持続期間が約5か月であることと、インフルエンザは、年によって流行する「型」が異なるため、「そのシーズンに流行することが予測された型」を選んで製造されたワクチンを接種するためです。
■新型コロナワクチンの「効果」の減少状況は?
米国ファイザー社による約4.6万人のワクチン接種完了者を対象とした調査研究(7月28日公表)では、ワクチン有効性に対する評価については、「感染予防効果」は、 2 回接種後、7日~2か月の間は96%、2~4か月の間は90%、4~6か月の間は84%、そして、「重症化予防効果」は、 6か月の時点で97%と報告されました。
米国CDCの予防接種諮問委員会(ACIP)における複数の研究報告(8月30日公表)においても同様に、新型コロナワクチン接種による「感染・発症予防効果」は、時間の経過とともに大きく落ちる傾向がある一方で、75歳以上の高齢者を除いて、「重症化予防効果」は保たれていることが示されています。
これは、「感染予防効果」には中和抗体の減少が大きく関与している一方で、「重症化予防効果」には、中和抗体だけでなく、細胞性免疫の働きが大きく関与しているためと考えられています。
そうすると、ワクチンの追加接種により、「感染予防」を目指すのか、それとも「重症化・死亡予防効果」を目指すのか、によって、追加接種の必要性の程度や、対象範囲、人数等も変わってくる可能性がある、ということになります。
本来は、政策判断として、この辺りも含めた、さらに精緻な議論が行われるべきだと考えます。
■追加接種の効果や、欧米各国の判断は?
米国食品医薬品局(FDA)は、9月22日、新型コロナワクチン(ファイザー製)の追加接種について、一定の層(高齢者、基礎疾患のある方、暴露リスクの高い職業の方など)に限って承認すると発表しました。これを基にした形で、米国CDCは、9月24日、追加接種の推奨方針を発表しました。
FDAの外部専門家による諮問委員会は、9月17日に、委員らの投票により、上記の層への追加接種を推奨するとしていましたが、一方で、ファイザー社が申請していた16歳以上の全人口に対する追加接種は推奨しない、と結論付けました。これは、バイデン大統領が8月に打ち出した「9月20日の週から18歳以上の成人に対して追加接種を開始する」との方針に、FDAから「待った」がかかった形となりました。(ただし、FDAは「急激に変わっていく科学(ワクチンの安全性・有効性等の情報)を検証し、周知していく」と付言しました。)
欧州医薬品庁(EMA)は、10月4日、新型コロナワクチン(ファイザー製)の追加接種に関して、抗体の健康な成人について、抗体価の増加を認め、2回目の接種完了から6カ月以降の接種が可能、との見解を示しました。(ただし、抗体価の増加や減少が、ワクチンの効果に同じ程度で直結するわけではない、という点には留意が必要だと思います。)
また、臓器移植患者など免疫力が著しく低下した人については、(抗体の増大についての直接的なエビデンスは確認できなかったものの)予防効果が増えたケースもあった、ということで、2回目の接種完了から4週間以降、接種が可能としました。
英仏独などでは、高齢者や免疫不全のある方、医療従事者等を対象として、9月から追加接種が開始されています。
また、イスラエルで、ファイザー製ワクチン接種を完了した60歳以上の110万人余りを対象とした調査では、追加接種を受けたグループは、接種の12日後から、2回接種のグループに比べて、感染の割合低下が11倍、重症化の割合低下も約20倍だったとの報告が出されましたが、これは観察機関が非常に短いこと等に留意も必要です。
■追加接種の副反応の状況は?
米国CDCは、9月28日、新型コロナワクチンの3回目の追加接種について、約2.2万人を対象とした調査で、副反応が表れた人の割合が、2回目接種後とほぼ同程度となったとする調査結果を公表しました。
調査は、約220万人の追加接種を受けた人のうち、アプリの登録者約2万2000人を対象に行われ、副反応が接種直後に出たのは、2回目:77.6%、3回目:79.4%。接種から時間を置いて出たのは、2回目:76.5%、3回目:74.1%で、2回目と3回目で、大きな差異は見られなかったとのことです。
そして、3回目接種後の副反応は、接種部位の痛み:71%、倦怠感:56%、頭痛:43.4%などで、副反応のため日常生活に支障があった:28.3%、1.8%が医療機関にかかり、0.1%が入院したとのことです。
2回目までの免疫がある状態で、さらに3回目を接種することで副反応が増大することが懸念されたわけですが、とりあえずそういったことは確認されていない、ということだと思います。ただそもそも、例えば、高熱で寝込むという副反応自体がしんどい、という話もあり(「2回目までと同等だからOK!」ということでも、実はない)、また、国民の安心のためには、血栓症や心筋症などの重篤な副反応や、ある程度の時間の経過に沿った検証も必要ではないかと思います。
■日本の状況は?
9月17日、厚生労働省のワクチン分科会において、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカのワクチンについて、原則、同じワクチンを使用して3回目の追加接種を行う方針が了承されました。先行接種の対象となった医療従事者は年内から、高齢者は年明けから、それぞれ開始されることになる見通しです。
日本政府は、来年1月から、米ファイザー社から新型コロナワクチン1億2千万回分の追加供給を受ける契約を締結しました。追加接種を念頭にしたワクチンとしては、来年初頭から、米モデルナ社製5千万回分、米ノババックス社製1億5千万回分の供給を受ける契約も結んでいます。
米ファイザーの日本法人は、9月日28付けで、新型コロナワクチンの3回目の追加接種の承認申請を厚生労働省に行いました。
■今後検討すべき事項は?
短期的には、新型コロナワクチンの追加接種の必要性、安全性、有効性や、世界の状況等も踏まえた上で、下記のような点について検討が必要と考えます。
①(そもそも)追加接種を行うべきか。
②追加接種の対象者、優先順位、スケジュール等
③同じ種類のワクチンを接種し続けるべきか
④2回接種完了後、どれくらいの接種量で、いつ接種すると、高い安全性・有効性が得られるのか
⑤インフルエンザワクチン等との同時接種の安全性・有効性
⑥世界的なワクチン供給の公平性
さらに、中長期的には、今回の新型コロナパンデミックが収束し(いつも申し上げておりますが、必ず収束します。)、新型コロナウイルスが、季節性インフルエンザのような形で定着するとすれば、流行状況にもよりますが、毎年、繰り返しワクチン接種が必要になる可能性もあります。(超低温ではない)取扱いや使用が容易で、副反応も今より減少するようなワクチンの開発・普及が求められます。
新型コロナに限りませんが、各国のワクチン生産能力や、知的財産権の取扱いの問題等含め、広範で抜本的な転換が求められることになります。(ワクチンに関する歴史的経緯も踏まえれば、日本が、国の政策として、あるいは国民感情や、企業として、これに敏感に対応していけるかどうかは、必ずしもはっきりとしたものではない、と思っています。)
2009年の新型インフルエンザパンデミックの際にも、ジュネーブWHOで直面した、世界のワクチン格差を生み出す複合的理由や歴史、今後迅速に求められる対応等についても、次回以降、検討してみたいと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。