きっかけは社長から全社員への誕生日メール 気象庁会見で注目、予約即完売「口元が見えるマスク」開発の舞台裏
10月に入って青森や東京で震度5強の地震が相次ぐ中、会見する気象庁職員が着用するマスクが注目されています。口元が丸見えで、一見飛沫が気になりますが、ご安心を。透明のシートで顔の下半分を覆い、唇の動きや表情がよく伝わるように工夫されたマスクを着けています。気象庁によると、聴覚障害者からの「口元が見たい」という声を受けて、初めて導入したそうです。
気象庁は会見の際、手話通訳者が同席していますが、「手話が分からない人もいる」「口元が見える方が、唇を読むことができ伝わりやすい」といった意見もあり、くもり止め加工を施した広い透明部を通じて、職員の口の動きが分かるマスクの導入を決めました。気象庁広報室は「アクリル板を置く案もありましたが、報道陣のライトやフラッシュが反射して、口元が見えにくくなる懸念もありました。地震の情報がより分かりやすく伝わるよう、聴覚障害者にも配慮させていただきました」と話しています。
■聴覚障害者の社員の声受け、ユニ・チャームが開発
この「顔がみえマスク」を開発したのは、国内マスク最大手のユニ・チャーム。同社によると、聴覚障害がある女性社員の思いが開発のきっかけでした。
コロナ禍でマスク着用が定着していた2020年夏、ユニ・チャームの高原豪久社長から聴覚障害がある女性社員に一通のメールが届きました。高原社長は全社員の誕生日に祝福メールを送っており、女性社員は返信でお礼を述べるとともに、マスク文化が広がる中、話し相手の発言内容が分かりにくくなり、業務上のやり取りに苦慮していることを高原社長に伝えたといいます。
高原社長は聴覚障害者に役立つマスク開発を指示し、2021年春の商品化にこぎつけました。同社広報室は「マスク生活が長引く中で生まれた課題が、ニーズとして表出した」といいます。
■予約販売は早々に完売
「顔がみえマスク」は布部が鼻から頬周辺までしっかりフィットし、隙間を作りにくい構造となっており、日本製で1枚1480円。使用後は水で手洗いすれば、繰り返し使うことができます。ユニ・チャームでは4月の販売開始以降、何度か予約販売を行っていますが、いずれも早々に完売。同社広報室の担当者は「手作りなので量産体制が取りにくい。月産3000枚が限界」と話します。
気象庁の会見でマスクが注目されると、SNSでは「会話の理解度が格段に変わるのでありがたいです」「私が所属している手話部でも導入を検討しているところです!」と反応が寄せられた。
■政治家からも問い合わせ
ユニ・チャームによると、「顔がみえマスク」は気象庁など政府関係機関のほか、音楽や英語を教える教育現場、保育園でのニーズも高いといいます。「楽器を奏でたり、単語の発音したりする際の口の形を伝えることができ、保育士さんは『もぐもぐするんだよ』などと口の動きや表情で子どもに訴えられることが多いといいます」。意外なところでは、政治家からの引き合いもあるのだとか。
女性ボーカルグループ「SPEED」で活躍し、息子に聴覚障害がある今井絵理子参議院議員は、SNSで「顔がみえマスク」を紹介し、東京都議会議員選挙の応援演説で着用しました。
■ビジネスとしては考えていない
注目度が高い「顔がみえマスク」ですが、同社広報室は「ビジネスとしては考えていない」といいます。手作りのため量産が難しいだけではなく、「まだまだ改善の余地があり、ご意見を受けて逐次修正を図っている」とさらなる使い心地の向上を目指しているのだそう。
気象庁は今後も「顔がみえマスク」を使う方針です。官公庁の会見や教育現場、政治家の演説で、「顔がみえマスク」を見かける機会が増えそうです。
(まいどなニュース・伊藤 大介)