芸術の秋に…歯科医芸人のオススメ映画 歯科医が登場する作品は意外と多い、いくつ知ってる?
「食欲の秋」「読書の秋」そして「芸術の秋」、秋といえばいろいろな秋がありますが、なかでも秋の夜長に映画鑑賞はぴったりではないでしょうか。歯科医であり吉本所属の芸人である、パンヂー陳(本名・陳明裕)が「歯にまつわる」映画の魅力を語り尽くしました。歯科医芸人がお勧めする映画とは。(聞き手・山本 智行)
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パンヂー陳:芸術の秋ということで、歯にまつわる映画についてお話します。
--なんですか、いきなり。歯関連の映画なんて、そんな話すほどありますか?
パンヂー陳:タイトルに歯がついた映画ではB級ホラー映画でそのまんまの「Dentist」っていうのがありますよ。神経質な歯医者が主人公で、妻の不倫を知ってから結婚記念日の夜に、妻を診察台へ誘って笑気ガスを吸わせて、開口器で口が裂けるまで開かせて、全ての歯を抜き、ついでに舌まで引っこ抜いた挙句に、気づいた助手まで殺しちゃうという、めちゃくちゃな映画でした。
ところが、歯を削るとか抜くとかの行為が一般の人の恐怖心をあおるのか、アメリカでは意外とヒットして、続編の「Dentist2」も作られ、こちらは「キラー・デンティスト」という邦題です。でも公開されたようです。
--何が芸術の秋ですのん!聞いてるだけで歯医者に行くのが嫌になります。そもそも歯医者さんって「痛かったら手を挙げて教えてくださいね」とか言っといて、手を上げても「もうちょっとですから頑張ってくださいね」とか言って全然、削るのやめてくれへんし、それやったら始めっから「痛かったら手を挙げて教えてください」とか言わんでエエのに…。時々、この先生ドSちゃうかって思う時あります。
パンヂー陳:確かに、そう思っている方は多いみたいで「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」というブロードウェイミュージカルを映画化した作品に出てくる歯医者は恋人にDVをふるったり、人を痛がらせるのが大好きという設定で、最後は花屋の食虫植物ならぬ食人植物のオードリーに食べられちゃうんですが、軽快なロックに合わせて歯医者が登場するシーンはブラックユーモアにあふれていておススメです。
でも、こんな歯医者は映画の中だけで、実際はただでさえ歯科医師過剰の中、コロナ禍で受診控えもあって大変な状況なので、どこの医院も前にもまして患者さん本位になっていますから、どの先生も痛がらせないように、かなり気を使っていると思いますよ。
--もっとメジャーな歯にまつわる映画はないんですか?
パンヂー陳:では、こいうのはどうですぅ。ディズニーの「ファインディング・ニモ」で、シャーマン歯科医師がニモを捕まえて、自分の診療室の水槽に入れていました。その歯医者の娘のダーラは魚を飼ってはすぐ死なせるくせに魚好きという設定でしたが、彼女はヘッドギアという、出っ歯の治療等に使う矯正装置を付けて登場していました。
矯正装置といえばディズニー映画は歯の矯正装置が好きみたいで「トイ・ストーリー」ではタカアンドトシのトシさんに似たキャラのシド・フィリップスが口にマルチブラケットという矯正器具を付けていました。
映画では、オモチャを改造したり、破壊したりするのでアンディのオモチャ達から恐れられていますが、母親の前では良い子の二重人格キャラでした。
「モンスターズ・ユニバーシティ」に出てくるマイクは、幼少期にはマルチブラケットがついていましたが、大学生になったら実際の矯正治療と同様に、ちゃんとリテーナーに変わっていて、大学のキャンパス内でも、ちゃんと取り外し式の装置を付けていたことから生真面目なマイクの性格が見て取れる様に表現されていました。
「モンスターズ・インク」では脇役ながら清掃員のスミッティーも矯正をしいてました。スミッティーっていわれてもピンと来ないかもですが、背が高くて角が生えてるニードルマンと、コンビで登場していた背の低い芋虫みたいなモンスターです。
--そんなん、知らんがな、登場人物がマイナー過ぎるわ。
パンヂー陳:メジャーなところではティム・バートン監督の代表作の一つ「チャーリーとチョコレート工場」のジョニー・デップの父親が歯医者という設定でした。でも、これは原作にはない、映画だけに登場する人物だそうです。「お菓子は虫歯の素とか言って、ハロウィンでもらってきたお菓子を暖炉に投げ込むような怖い親父でして、正論ではありますが、ここでも歯医者のイメージはあまり良くないですね。
ジョニー・デップ扮するウィリーがショコラティエになるために家を出る時も「お前の帰る家はない」とまるで次長課長の河本さんの「お前に食わせるタンメンはない」みたいな感じのセリフで、本当に家ごと消えてしまいました。
でも、映画の最後で、成功した息子の新聞記事の切り抜きを額に入れて診察室の壁に飾っていたり、大人になった息子が歯科医院へ治療に訪れた時も、ジョニー・デップの顔を見ても分からなかったのが、歯を診たとたん自分の息子だと気づくんです。
しかし、これって意外と“歯科医師あるある”でして、僕も自分の医院で、久しぶりに来た患者さんなど、顔は忘れてても、口の中を診ると、あっ、○○さんや!って思い出すことって結構あります。
■ブルース・ウイリス主演のアクションコメディー
--歯ではなく、顔で覚えてくださいよ!
パンヂー陳:他にも最近は某携帯電話のコマーシャルのドラえもん役でおなじみのブルース・ウイリス主演の「隣のヒットマン」は多額の借金を抱えて、夫婦仲も悪い歯医者の家の隣に、ブルース・ウイリス扮する殺し屋が引っ越して来て、妻がお金を貰うためにマフィアに殺し屋の居場所を夫を使って、密告をさせた上に、その夫の保険金目当てに殺し屋を雇うというアクションコメディーでした。
この映画の設定は別に歯医者である必要はないかなとは思いましたが、割と面白くってヒットマンだけに映画もヒットしたので、続編の「隣のヒットマンズ 全弾発射」も作られました。こちらはマフィアに妻を誘拐された歯医者の夫が妻を助けるため、メキシコに引っ越していた殺し屋のブルース・ウイリスに頼むというストーリーでしたが、どうやら“2本目の親知らずはなかった”ようで1作目ほどはヒットしませんでした。
--それも言うなら“二匹目のドジョウ”ね、“2本目の親知らず”ではあまり使いません。
パンヂー陳:あと“3本目の親知らず”を狙って合計3作が作られた「ハングオーバー!」シリーズも歯医者が出てますね。結婚前のバチュラーパーティーでラスベガスに行って、酔っ払って色々しでかすんですけど、飲み過ぎて覚えていないという単純なストーリーです。
1作目は元ボクシングヘビー級チャンピオンのマイク・タイソンと虎が印象的でした。この歯医者はメンタルが弱くって、すぐにパニくる設定でしたが、これも別に歯医者の設定でなくても良かったと思います。
あと、マイナーですけど「モンスター上司」にもジェニファー・アニストン扮するセクハラ女性歯科医が出てきます。バーに集まった男3人がモンスター上司を始末するために奮闘するコメディー映画でして。婚約者がいるのに欲求不満のセクハラ女性歯科医に悩まされる歯科助手が、歯科医に呼ばれて行ってみると、白衣の下が透け透けランジェリーだったり、耳を甘噛みされたりと、僕だったらウエルカムなので、羨ましいとは感じても、全くセクハラとは感じませんでした。あと、あまりヒットしませんでしたが、キアヌ・リーブスが歯医者を演じた「サムサッカー」もあります。
--それってサッカーの映画ですか?
パンヂー陳:いえいえ、thumb、親指のsucker、しゃぶる人なので、指しゃぶりを高校生になっても止めない主人公をキアヌ・リーブスが催眠術で治そうと試みる映画です。
--え、それだけ?随分、スケールの小っちゃい映画ですね。同じ映画でも「ハルマゲドン」なんか地球を救ったりするのに、指しゃぶりを治すだけの映画ですか…。
パンヂー陳:確かに、この映画はベルリン映画祭・銀熊賞なんか受賞したんですが、一般受けしなかったようであまりヒットしませんでした。ヒットした映画でしたら邦画ですが「踊る大捜査線」の小泉今日子さんが見せた矯正ブラケット装置を歯に付けた笑顔は、かなり歯が印象に残りましたね。
--キョンキョン、大好きですが、そんなん気になるの歯医者だけちゃいますか?私はそんな、俳優の口の中なんか別に印象に残りませんけどね。
パンヂー陳:えっ、やまもっちゃん、トム・クルーズの上顎の左側切歯がないから歯の真ん中の線が左に寄ってんのも気にならないんですか?
--1ミリも気になった事ないですし。
パンヂー陳:いやいや、側切歯がないんですから1ミリどころか3ミリ以上は偏位してると思いますよ。
■無人島に漂流、虫歯を自分で抜くシーンが印象的
--知らんがな。話を戻してください。
パンヂー陳:「チャーリーズ・エンジェル」でも、キャメロン・ディアス扮するナタリー・クックが「モンスターズ・インク」のマイク同様、普段からリテーナーをちゃんと付けていて、真面目な努力家という印象をかもし出していました。
あと「マラソンマン」では、コロンビア大学生でマラソン好きのダスティン・ホフマンが、ナチス残党の歯科医に、歯を削って拷問されるシーンが有名です。
「キャスト・アウェイ」のトム・ハンクスは、婚約者に会いに行くために乗った飛行機が事故って無人島に流れ着いてしまいます。そこで、ちゃんと歯磨きが出来なくって虫歯になってしまい、痛みに耐えられなくなってスケートシューズの刃を石で叩いて歯を割って抜くんですが、その痛みで気絶してしまうシーンがあります。
虫歯の痛みから逃れるために自分で歯を抜くって、痛々しい限りです。それでも婚約者に会いたい一心で、やっと4年ぶりに国に戻ったんですが、ナ、ナ、ナントかかりつけの歯医者が自分の婚約者と結婚しちゃってたという落ちまでついてました。
--なんちゅう、かわいそうなストーリー。
パンヂー陳:まだまだありますよ、あのコーエン兄弟のお兄ちゃんの方の奥さん、フランシス・マクドーマンドが2018年にアカデミー主演女優賞を受賞した「スリー・ビルボード」は、レイプ殺人された娘の無念を晴らすために3枚の立て看板(スリービルボード)を立てた母親の話なんですが、母親が敵対する警察署長の友達の歯医者で治療を受けた際に、歯医者が麻酔が十分に聞いてないのに歯を削ったことから彼女はブチ切れて、歯を削っていたタービンを奪い取って、仕返しに歯医者の爪を削るシーンがあるんです。
僕はこれを見てからというもの、患者さんの歯を削る時には「痛くないですか?」って、今まで以上に丁寧に聞くようになりました。
--いやぁ、痛そう。女性は怖いなー。
パンヂー陳:怖い女性ならホラー映画の巨匠サム・ライミ監督の「スペル」に出てくるお婆さんも怖いです。銀行の窓口の女性がお婆さんへの融資を断ったことから恨まれて呪いをかけられる映画なんですが、2人の格闘シーンで婆さんの口から入れ歯吹っ飛んで、歯のない口で噛みつくシーンがとても印象的です。
--怖いお婆さんより、きれいな女性の映画の話を聞かせて下さい。
パンヂー陳:じゃあ、「レ・ミゼラブル」でファンティーヌ役を演じたアン・ハサウェイなんかどうでしょう?アン・ハサウェイが演じた娼婦ファンティーヌは娘の生活費のため、原作では前歯を2本抜いて売るんですが、映画では髪の毛と奥歯を売ることになっていました。アン・ハサウェイが実際に髪を切って坊主頭になるシーンが鮮烈でした。
--その場面、よう覚えてます。しかし、髪の毛が売れるのは分かりますよ、私も最近薄くなって来ましたから。でも、歯なんか誰が買うんですか?
パンヂー陳:紀元前のエジプトではファラオが虫歯などで歯をなくすと、奴隷の歯を移植していたといわれていますし、フランス革命当時も歯の移植や入れ歯用にそこそこニーズはあったみたいですよ。
ちなみにアン・ハサウェイは「プリティ・プリンセス」という映画で主人公のミアを演じた際に、保定装置のリテーナーを付けていました。これも真面目で野暮ったい感じを出すための演出だと思います。最後に洗練されたプリンセスに変身するので、その対比を出すための小道具に使われたんでしょうね。
--リテーナーって、歯並びを良くするもんでしょ。そんな演出効果、ありますかね?
パンヂー陳:アメリカ人は矯正治療経験者が多いので、日本とは比べ物にならないくらいリテーナーの認知度は高いですから。あと、大臼歯で思い出しましたが、今最新シリーズが上映されている「ソウ」でも「ソウ3」の映画広告のポスターには、痛そうな抜かれた大臼歯が3本使われていました。
それを見て歯に関連する何か残酷なシーンがあるんじゃないかと期待して観にいったら、本編ではちっとも歯関係のシーンが登場しないんです。なんだか我々、歯医者からしたら詐欺みたいな映画でした。
例えて言うなら、お弁当屋のメニューの写真では、オカズの中に唐揚げが写ってたのに、買ってみたら唐揚げが1つも入ってなかったみたいな裏切られた気持ちになりました。
--確かに唐揚げが入ってないのはガッカリしますけど、歯のシーンがなくても気になりませんけどね。変な例え出すからお腹が空いて芸術の秋よりも食欲の秋の気分になっちゃいました。今日はこの辺で勘弁してください。
パンヂー陳:山本さんも食欲の秋でもないのに太りすぎ。たくさん食べた後は、ちゃんと歯磨きしてくださいね。
--はい、散々、痛そうな歯の話を聞いた後ですのでしっかり磨きます。陳さんも、少しはお笑いの腕を磨いてください!
(まいどなニュース特約・山本 智行)