「そろそろ寝たらどうニャ?」夜なべ仕事の店主から離れない笹かま猫 「見守ってくれてるのかな」
福岡県朝倉市にある革製品の店「Therapy Drop」。アトリエ内には、店主で革作家の吉田幸代さん(47)が一針一針心を込めて製作した、ふだん使いの革小物や一点ものの鞄などがずらりと並ぶ。飼い猫の「つゆ」(オス、7歳)は、淡いクリームと茶色の毛並み、アイスブルーの瞳が美しい「笹かま猫」だ。4年前に虹の橋を渡った初代看板犬の「しずく」(オス、15歳で没)と仲良しだった。先輩の老犬・しずくから教わった「あること」を、つゆは今も黙々と実践している。吉田さんにしずくやつゆのことを聞いた。
■雨の日に車の下にいた子猫を保護
つゆは2014年8月の雨降りの日に、夫がたまたま車の下にいるのを見つけ、保護した子です。生後2ヶ月くらい。雨に濡れ、ガリガリに痩せていて、手を伸ばしたら簡単に捕まえられたので、抱っこして家に連れてきたんです。夫は猫好きなんですが、私は猫を飼うのは初めてだったので、最初は戸惑いました。というのも、私はずっと犬派で、つゆが来たとき、当時12歳だった初代看板犬のコーギー、「しずく」がいたんです。
しずくは、私がレザークラフトを始めるきっかけを作ってくれた子なんです。しずくを飼い始めて間もないころ、かっこいい首輪を買ってあげたいなと探していたら、素敵な革の首輪を見つけたのですが、値段がすごく高くて…。革製品に興味があったこともあり、それなら自分で作っちゃおうかと(笑)。
それでまず、しずくの首輪を独学で作り上げました。今見るととても下手ですが思い出の作品です。私、集中するとつい何時間も没頭してしまって、気づくと午前0時を過ぎているということが多々あるのですが、夜遅くまで作業していると、足元に寝そべっていたしずくがムクっと立ち上がり、「もうそろそろ寝たら?」といわんばかりに、じっと私を見つめることがよくありました。
そんなときは、ああ、言葉はしゃべらないけれど、いつも私を見守ってくれているんだなと安心したものです。もともと器用貧乏で、何にでも手を出しては途中で諦める、ということを繰り返してきた私にとって、レザークラフトだけは極めたいと思い、今日までこうしてずっと続けてこれたのは、しずくのおかげでもあるんです。
■しずくがつゆを受け入れた
つゆが我が家にやってきたとき、しずくは当初は警戒していましたが、つゆはおっとりとしてフレンドリーな性格。1ヶ月も経つと、しずくはつゆを受け入れ、ほどよい距離を保ちつつ互いに仲良しになっていました。まるでおじいさんと孫が一緒に過ごしているような感じでした。
そんなしずくが老衰のため、虹の橋を渡ったのは2017年7月の豪雨のときでした。しずくがいなくなって2、3ヶ月の間は、まともに製作ができず、全然やる気が起きませんでした。これがペットロスなんだって気づきました。でも、代わりにつゆがずっと寄り添って励ましてくれたおかげで、なんとかロスを乗り越えられたような気がします。もしいてくれていなかったら、店を続けられなかったかもしれません。
しずくがいつも私のそばにいてくれたように、つゆも私が夜遅くまで作業をしていると、目の前にやってきて邪魔するように寝そべるんですよ。「もうそろそろ寝たらどう?」って。昼間はそんなことしないのに(笑)。生前、しずくはつゆに、「この人はつい頑張ってしまって無理するんだよ。だから、いつも気をつけておかなきゃだめなんだ」って教えたのかもしれませんね。つゆはその教えを受け継いで、私を見守ってくれているように思えてならないんです。
アトリエでは、キーホルダー、小銭入れ、バッグなどを作るレザークラフト入門教室を開催しています。つゆは作業机の上に座り、生徒さんたちが作る様子をじっと眺めるのが好きです。レザーと猫が好きな方にとっては、「楽しくて癒される」と好評です。
■フィギュアカービングに挑戦
今年初めから「フィギュアカービング」に挑戦しています。これは革の表面を様々な道具を用いて半立体に加工し、絵画のように彩色していくレザークラフトの技法のひとつ。これを極めていくことで何か独自の新しいものを創っていきたいと思い、とにかく練習を積みたいとの一心で、「革ネコ」の製作を始めました。
革ネコは、飼い主さんに愛猫の写真を送ってもらい、その猫ちゃんの作品を作って無償で差し上げるという企画です。SNSで1回につき10匹を募集(応募多数の場合は抽選)し、これまでに2回、計20匹分を作ったところ、「すごく似ている」などと喜んでいただきました。
目標は100匹です。すごい技術を持たれている職人さんがいて、私なんかまだ手探りの状態ですが、猫好きさんに喜んでもらいつつ、100匹分作れば、何か感覚がつかめるかなと。元々絵を描くのも好きなので、それも生かしたオリジナルの作品を目指しています。私なりの表現を模索するための「100本ノック」です(笑)。次回は今年11月に募集しますので、興味ある方はご協力ください。ちなみに猫100匹が終わったら、次は犬を作りたいと思っています。
ずっと自分は犬派だと思っていたけど、しずくがいなくなり、つゆと過ごす時間が長くなってくると、実は猫の方が自分のライフスタイルにはぴったりで、私って猫派だったんだと思うときがあります。いや、もしかしたら猫派というより「つゆ派」なのかも(笑)。手にとってくれた方がずっと大切に使っていただける革製品を作れるよう、これからもつゆと一緒に歩んでいきたいです。
(まいどなニュース特約・西松 宏)