亡き母が残した18匹の猫を育てるプロボクサーが猫とともに引っ越し 借金400万円背負って“猫家”完成
亡き母が残した猫18匹の世話を続ける大阪府のプロボクサー・島川大器さんが、決意の引っ越しをした。2020年5月に心筋梗塞で急逝した母の家を猫のすみかとして借り続け、面倒を見ていたが立ち退き問題が浮上。古民家を約400万円かけ改造し、新しい“猫家”が完成した。引っ越し当初こそ戸惑いを見せた18匹の猫たちは、以前にも増して元気に過ごしている。
窓から太陽の光が、さんさんと降り注ぐ古民家の2階。18匹の猫たちは、思い思いにのんびり過ごしていた。フローリングの広い部屋。キャットウォークがわりの棚。エアコンの空調が心地良い。すべてが猫仕様に整えられた新天地。プログラマーを生業とする島川さんの新しい仕事場は、隣の部屋にできた。
窓を隔てて、猫たちの様子が見守れる。「取引先に向かわなくていいので、1日2時間くらい猶予ができた。これはすごく大きい。圧倒的に猫と触れ合う時間ができた。気持ちに余裕ができた」。かまってほしいのか、ガラス越しに猫が島川さんのもとに集まっていた。
18匹の猫たちは、一人暮らしをしていた島川さんの母が野良猫や保護猫を受け入れる形で飼っていた。母の死後、多頭飼育崩壊が発覚。形見となった猫を、島川さんが家賃やえさ代など月15万円ほどかかる費用をまかない、ずっと育ててきた。これまで大阪市内の母の家を借り続け猫のすみかにしてきたが、事情から引っ越しせざるを得なくなった。
島川さんのYouTubeを見た視聴者が、移転先として古民家の提供を申し出た。「先のことも見据えて、長く使えるような工事をしてもらおうと思った」と、古民家の2階部分を大改造。亡き母の夢だった孤児院の猫版・老猫ホームを実現する第一歩を踏み出した。
新天地へのお引っ越し。キャリー6個を使い、旧宅と新宅を3往復した。「新しい環境に行くのって、やっぱりストレスじゃないですか。まずはストレスに強そうな6匹を先に選んで、次はストレスに弱そうではない6匹を選んで、最後はストレスに弱そうな子を連れてきた…みたいな感じなんですけど」と、18匹の大移動を振り返る。
1匹だけ、手を焼いた猫がいた。「仲間がどんどんいなくなるし、めっちゃ怖がってて。逃げ回るし、シャーシャー言うし、かんでくるし、ひっかく動作もしてくるし、大変だったです。よっぽど怖かったのか…」。キャットタワーにへばりつき“ろう城”。最後は毛布でくるみ、毛布ごとキャリーに入れ込んだ。最初は戸惑いを見せていた猫たちも、3日ほど経つと新しい環境でゆったりするようになった。
自己を犠牲にし、猫中心の生活を送る島川さん。世話にかかる時間は余裕ができたが、プログラマーとしての収入は減った。5月に行ったクラウドファンディングでは約260万円が集まったものの、18匹の生活費や猫の殺処分ゼロを目指すまちねこ(地域猫)活動に費やす。クラウドファンディングの工事協賛枠の収益を充てたものの、部屋の工事費約400万円のほとんどは自身の借金になった。
「母さんのため。この子たちは母さんが残していった子たちで、僕と同じ母さんの子。放ってたら生きられないじゃないですか。誰かが何かしないと。その誰かっていうのは、母さんと同じ子である僕。母さんの子がすべき」。亡き母への思いが、島川さんを突き動かす。
猫たちのごはんタイム。しっぽをピン!と立てた猫が、一心不乱に食べていた。「前の家で生活していた時よりはイキイキしてる感じがするなと思います。ずっと元気でいてほしい。なるべく猫がいい環境に、と思って作った。400万円かかっても、良かったと思っています」。18匹を優しく見つめる島川さんの表情から、後悔の念はうかがえなかった。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・杉田 康人)