アーティストによるアーティストのための労働組合づくり、SNSでの呼びかけが話題
「一人に依存しない」「相談し合いやすい環境づくり」「リーダーはいてもみんな同じ立場」…
アーティストによるアーティストのための労働組合づくりの呼びかけがSNS上で拡散されはじめている。
「【ゆる募】アーティストによるアーティストのための労働組合を作ります。年齢性別地域問わず組合員募集中。組合の仕組みをみんなで考えるところから始めようと思っています。」
この呼びかけは美術家、“魔女”として活動する菊村詩織さん(@shiotsuito)によるもの。
たしかにアーティストはフリーランスとして活動している人が多く、他者と取引する際になにかと理不尽な待遇を強いられたりトラブルに巻き込まれることが多いという。菊村さんの呼びかけに対し、アーティスト活動に関心のあるSNSユーザー達からは
「この仕組みしっかり組み立てていけたらめちゃくちゃ助かるアーティストおおいんじゃなかろうか……」
「まだ学生なんですけど、将来作家として生きていきたく思っていて、このお話に興味を持ちました。」
「当方も度々、アーティストの『横の繋がり』の重要性についてツイートしてきました(ハラスメント対策としても)。個人的には近いジャンルの作家さんで『互助会』を作るのが良いのでは、と考えていましたが、こういった取り組みも素晴らしいと思います。」
など数々の賛同、共感のコメントが寄せられている。
菊村さんにお話をうかがってみた。
中将タカノリ(以下「中将」):今回、労働組合の必要性を感じられたきっかけや思いをお聞かせください。
菊村:現在私はギャラリー等に所属しないアーティストとして活動しています。きっかけは、私が美術とは関係のない職種のアルバイト先でパワーハラスメントを受けて退職した事でした。腹が立って労働局に相談しようかと思ったのですが、Twitterのフォロワーさんに「個人でも入れる労働組合があるよ」と教えていただきました。恥ずかしながらこれまで「労働組合」の存在を意識したことがなく、入ってみようかと調べるうちに「これは自分で作ったら面白いのではないか?」と思いました。
近年SNSを中心に文化芸術関係者たちのハラスメント問題が多く叫ばれています。「表現の現場調査団」なども立ち上げられ、多摩美術大学でも労働組合が結成されました。こういった運動は文化芸術業界だけではなく、多くの業界で起こっているムーブメントなのではないかと思います。Twitterでは他にも「こころの窓口を作りたい」と言っている方もいて、今回の私の呼びかけにはそのツイートも影響しました。
今の私たちに必要なものは、問題が起こった時に相談できたり誰かと連帯できること、そしてそもそも問題が起こらないように知識や抑止力を得ることだと考えました。アーティストやアートマネジメント系労働者は、会社員のように雇用されているケースが少なく、フリーランスや個人事業主として活動しているケースが多いです。ハラスメント問題以外でも、インボイス制度の導入など、個人の労働者に対する風当たりはどんどん強くなっています。そのような働き方の問題もカバーするためには「労働組合」という名称は正しくないのかもしれませんが、目的が達成できれば労働組合ではない団体名でもいいのです。
そんなわけで、メンバーが集まったらそれっぽいかっこいい団体を作るためにあーでもないこーでもないと議論し合いたいです。そもそも「芸術活動は労働か?」という議論もあると思いますが「自分の好きなことをやってるんだから多少の我慢はつきもの」というような考え方や、「芸術家は清貧であるべき」という幻想がたくさんの搾取を生んでいると思うので、困りごとにはきちんと抵抗していけるようにしたいです。
中将:普段のご活動で、ご苦労されたエピソードなどお聞きかせください
菊村:・ギャラリーに在廊しているときに男性客から過度に性的な話をされたこと。
・ギャラリーに在廊しているときに男性客から妙に見下すような発言をされた。その男性客がほかのギャラリーでは出入り禁止になっていると知ってもなお、ギャラリストが軽視していること。
・SNSのメッセージ機能で性的なメッセージが送られてくる。たった一言でもメッセージを開くのがストレスになるので、活動意欲を削がれたり、活動機会の損失につながる。
・SNSのメッセージ機能やメールでギャラリーからの展示依頼が来るも、よく話を聞くと高額な出展費をこちらが払わなければならないらしいこと。これもメッセージを開くのがストレスになる。
これらのエピソードは組合を作っても対処できるのか微妙なものも多いですが、組合での情報共有で自衛できる場合もあるかと思います。
中将:これまでのご投稿への反響についてご感想をお聞かせください。
菊村:投稿がゆるやかに拡散されています。参加したい方、情報提供、応援、「まだ学生だけど一緒に勉強してみたい」などのメッセージを少しずついただき嬉しい限りです。
ただ「組合ができたらいろいろ教えてほしい」という姿勢のアーティストがまだまだ多いのではないかと思っています。私はこの団体を「アーティストによるアーティストのためのインディペンデントな団体」にしたいと考えています。そうなるためには一人一人が誰かに頼り切るのではなく、自分ごととして参加し助け合うことが大切です。そうしないとこの団体にも上下関係が強く生まれてしまい、ハラスメントの温床になりかねないからです。
SNS上ではハラスメント問題について話題になりやすいですが、その話題を一過性の流行として消費しないために、私たちは私たちの意志で世界を変える必要があります。アーティストは自分も含め、常に展示の準備などに追われていて忙しい人が多いのですが、参加者が増えれば役割分担でき負担も減ると思うので、ぜひ気負わずにご参加いただけたらと思います。私自身あまり頑張りたくないですし!
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日本はフリーランス労働者の立場が弱く、かつ芸術への理解が少ない社会だという指摘は数多い。菊村さんの呼びかけが業界の人々に新たな気付きを与え、より快適な活動の実現につながることを願いたい。
なお菊村さんは10月28日~10月31日に東京都現代美術館で開催される「TOKYO ART BOOK FAIR」でパフォーマンスを披露するとのこと。ご興味のある方はぜひチェックしていただきたい。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)