「生活保護を受けるのであれば、飼っている猫は手放さないと」と言われましたが…本当ですか 弁護士に聞いた
「生活保護を受けようと思っているが、ペットを飼っていて問題ないか」という相談がありました。ペットに関する法律問題を取り扱っているあさひ法律事務所・代表弁護士の石井一旭氏が解説します。
【相談】体調を崩して仕事が続けられなくなり、生活保護を申請しようかと思っています。でも、知人から「生活保護を受けるのであれば、飼っている猫は手放さないといけないのでは」と言われました。猫を飼っていることは、生活保護を受けることに問題になるのでしょうか。
■生活保護法には「ペットを飼ってはいけない」という定めはありません
▽1 法律上の制限
憲法25条1項には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」との定めが置かれています。
生活保護制度は、この憲法上の人権規定に基づいて制定された生活保護法によって定められた、国民の健康で文化的な最低限度の生活を保証するための制度です(法1条参照)。
したがって、生活保護を受給していても、「健康で文化的な最低限度の生活を営むための資産」については保有が認められるべきです。
長年連れ添ったペットは、もはや家族の一員であり、私達が健康で文化的な最低限度の生活を送る上で不可欠の存在と言えるでしょう。
もちろん、生活保護法には、「ペットを飼ってはいけない」という定めもありません。
したがって、生活保護を受けることになったからといってペットを手放さなければならないことにはなりません。
実際にも、生活保護を受けながらペットを飼っている人は多くいます。また、引き続き飼うだけではなく、新たに飼い始めることについても、法律上の制限はありません。
◇ ◇
別の側面から考えてみましょう。
生活保護制度は受給者の自立の助長(自立支援)も目的としています(法1条)。
生活保護を受給する条件として、長年連れ添い、家族の一員であるペットを手放すことを強制するようなことをすれば、困窮に陥った受給者の精神状態をさらに追い詰めることになりかねません。
むしろ、ペットを飼い、ペットと日々ふれあうことで、心が安定し、仕事や生活への活力を得られるのではないでしょうか。
このように、受給者の「自立の助長」を助けるという側面から見ても、生活保護を受給することになったからといってペットを手放す必要はないと考えます。
▽2 現実的な制約
ただし、ペットの飼育費は生活保護費として加算支給されることはありません。食費や飼育に必要なグッズなど、ペットにかかる費用はすべて、生活保護費の範囲内で負担していく必要があります。
ここで問題となりやすいのが急な出費、主にはペットが病気をしたり、怪我をしてしまったときにかかってくる医療費です。人間と違い皆保険制度がありませんので、ペットの医療費はどうしても高額になります。
また、費用の問題で避妊去勢手術ができず、その結果どんどん繁殖していき、多頭飼育崩壊に至ってしまうケースもあります。
ペットが病気や怪我をしても診療を受けさせてあげられないとなっては、ペットにも受給者にも不幸な結末になります。病気や怪我になることのないよう、ペットの健康管理や安全には特に注意を払っていく必要があるでしょう。避妊去勢手術については、お住いの自治体に助成制度があることもあります。助成の内容は自治体によって異なりますので、問い合わせてみてください。
金銭的理由からペットを飼うことが困難となった結果、生活保護による生活が維持できなくなってしまった場合は、ケースワーカーからペットの飼育について何らかの指導が入ることも考えられるところです。指導に従わなかった場合、保護の変更、停止又は廃止となる可能性もあります。
▽3 まとめ
生活保護を受けるからといって、ペットを飼い続けることをあきらめることはありません。かけがえのないペットの存在は、生活保護受給者の健康で文化的な生活を支えるとともに、自立に向けた歩みの大事なパートナーでもあります。
ただし、ペットとの暮らしが金銭的な面で生活を圧迫してしまう可能性については、十分な配慮が必要です。しっかりと支出を管理し、ペットの健康と安全にも気を配り、ペットと自分の暮らしを守っていく覚悟が必要と言えるでしょう。
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。