カレーにプロティン、せんべいも…食材はすべてコオロギ 阪急うめだ本店で次世代フードと出会える
西暦205×年。晩ごはんの献立に悩む母親が、子どもに聞く。
「きょうの晩ごはん、何がいい?お肉?それともお魚?」
「ぼく、コオロギカレーがいいなー!」
そんな時代が、やってくるかも。2019年に国連が発表した報告書によると、今後30年で世界の人口は97億人になり、当時の人口約77億人より20億人増加。急激な人口増加にともなう飢餓や栄養不良といった食糧問題への対応が課題だ。目前の2030年には、タンパク質の供給が需要に追いつかなくなる逆転現象が起こると言われている。
次世代フードとして注目されているのが昆虫食だ。栄養価が高い昆虫は、牛や豚などの家畜に比べて1キロのタンパク質を生成するのに必要な餌や水の量が圧倒的に少なく、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量も少ない。
昆虫食の中でも、雑食の昆虫で捨てられる食品をえさにして飼育可能なコオロギは特に注目を浴びている。食品ロスを利用して新たなタンパク質を生み出すコオロギは、循環型食材“サーキュラーフード”として未来の食卓を彩る可能性を大いに秘める。
大阪市の阪急うめだ本店では、10月27日から11月2日まで地下1階のツリーテラスで昆虫食のフェア「~未来に繋ぐ食の新たな選択肢~昆虫食」が開催されている。カレーを試食したが、コオロギが入っていると言われなければ気づかないおいしいカレーだった。
昆虫食フェアは同店初の試みで、他の百貨店でもあまり例をみない。阪急うめだ本店のツリーテラスは、同店デパ地下の中でも食の情報発信の場として位置づけられている一等地だ。
企画した阪急阪神百貨店の加堂太一さん(27)は、社内でのプレゼンやバイヤーとして5社の出展につなげた。「新しい体験をしていただこうというご提案で、まずは『おいしい』と思ってもらえることが大切」と、異例ともいえるフェアの意図を説明した。
同店の広報担当者によると、昆虫食フェアは女性客が約6割を占め、健康志向や環境問題への意識が高い来店客からの反響が高い。虫というだけで顔をしかめるマダムがいる…と思いきや、苦情もないという。
フェアに出展した徳島県の企業・グリラスは、自社ブランド「C.TRIA(シートリア)」を販売。コオロギカレーやクッキー、クランチなどの商品が並ぶ。国産食用コオロギをパウダー状にした食材のため、心理的なハードルがなく誰でも手に取りやすい。
グリラスは、2019年に設立された徳島大学発のベンチャー企業。同社のコオロギ粉末は、無印良品の「コオロギせんべい」にも使われている。同社広報の川原琢聖さん(25)は「阪急という場に認めていただいた。当たり前の選択肢として、コオロギが食卓に並ぶ日が来るものとして動いている。自然に食べてもらえるよう、味を魅力とした商品になっている」とPRした。
2014年に日本初の昆虫食専門ベンチャー企業として産声を上げた東京都のTAKEOは、西浅草に実店舗を持つ。タガメエキスのサイダー「タガメサイダー」が人気だが、ひときわ売れていたのがコオロギの煮干しやくん製だ。アーモンドをたっぷり食べて育った「広島こおろぎ」は脂がのり、コオロギ界の“大トロ”をうたう。
同社CEOの齋藤健生さん(36)は、調理師としての生活に疑問を抱いていたある日、公園でセミを捕り、昆虫食の起業を思いついたという。「育った土地や生産者を表示するのは、肉や野菜と同じ。昆虫食は特別な食べ物ではない。肉や野菜、魚と同じように、昆虫が食として楽しまれて、食卓に豊かに並ぶようになれば」と視線を前に向ける。
プロテインの原料に高栄養価のコオロギのパウダーを配合したクリケットプロテインや、プロテインバーを販売するODD FUTURE(東京都)の井川知憲さん(34)は「コオロギは次世代のスーパーフード。100グラムあたりのタンパク質量が牛の3倍で、乳製品にアレルギーがある人でも飲めます」と、コオロギ食の利点を説明した。
昆虫食フェアに出展する企業は社歴が浅く、関わる人がみな若く意欲的だった。「コオロギが日常的になってほしい」「コオロギ食品で株式上場する」と口々に話す未来。昆虫食がデパ地下にふつうに並ぶ日も、そう遠くないかもしれない。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・杉田 康人)