海辺に捨てられた動けない老犬、首には首輪の跡がくっきりと「もう1匹も見捨てない」老犬介護施設を建てた女性と12年前の出会い
民間のペットホテルがその売り上げを使った社会貢献を始めました。元動物保護施設の職員が長年の夢を実現し今年6月、兵庫県川西市に「はまじぃの家」を開業。介護が必要な老犬と飼い主のために無料デイサービスを続けています。「1匹たりとも見捨てない、老いた犬も飼い主も」。そう語るオーナーが老犬介護に捧げる理由とは?
■老犬介護の切り札、無料デイサービスへの道
ペットに癒しを求める人々は年々増えています。その一方で、ペットと飼い主双方の高齢化による”老老介護”が深刻化しています。足が不自由になった老犬の世話は、元気な大人でもとても大変です。
そんな中、2021年6月、老犬介護に直面し困っている飼い主をサポートしようと、兵庫県川西市にあるペットホテルが、老犬を無料で預かるデイサービスを始めました。運営するのは一般社団法人「はまじぃの家」で加賀爪啓子さんが代表を務めています。
加賀爪さんは11年間、動物保護施設で働いてきましたが、2016年、施設を退職し、職場の同僚と2人でペットホテルとペットシッター(訪問ケア)の事業所を設立。開業当時は「なんや、営利目的かい!?」など、動物保護にかかわってきた周囲の人から非難の声もあったそうです。
しかし、飼い主の高齢化で老犬を致し方なく手放す現実に直面してきた加賀爪さんは「せめて一時的に老犬を預かる場所があれば、飼い主の負担も減り、犬を飼い続けられるのではないか」と考えていました。寄付が頼りの保護施設では活動に限界があるため、起業を決意したのです。
■西宮浜に捨てられていた「はまじぃ」を忘れない
いまから12年前のこと。当時、加賀爪さんが働いていた施設で、後ろ足が立たず動けなくなっていた老犬を保護しました。場所は兵庫県の西宮浜。悲しいことに、まだ首輪のあとがくっきりと残っていたそうです。
西宮浜で保護されたため「はま」と呼ばれるようになったオスの老犬は、愛情を注いでくれる加賀爪さんにすぐになついてくれたそうです。やがて彼女の後を追いかけたい一心で自力で歩けるようになり、3年間、施設のみんなに愛されて旅立っていきました。
「家族だった飼い主から捨てられた犬の気持ちを思うと胸が張り裂けそうでした。動物にとって一番幸せなのは最期まで家族と一緒にいることなんです」と加賀爪さんは話します。
「はま」との出会いは、今回スタートさせた老犬の無料デイサービスの小さな出発点となりました。ペットホテルはケージフリーで自由でのびのびとした空間になっています。ただし、無料デイサービス(8:00~18:00)が利用できるのは、自立が困難であることなど、要介護の基準を満たしていることなどが条件。デイサービスを含めホテルを利用するペットは、事前カウンセリングやワクチンなどの接種証明書が必要です。
預けられた犬は小さなケージではなく、仕切りなしのフリースペースで思い思いに過ごしていました。宿泊するペットがいる時は、スタッフが泊まり込みで24時間の見守り体制。ペットホテルを利用することが無料デイサービスにつながるという好循環を生んでいます。
「年寄りだからとか、要介護になったからとか、咬むからという理由で捨てられたり、殺されたりしない社会をつくりたい」
1匹の老犬「はま」との出会いがきっかけとなった加賀爪さんの挑戦は始まったばかり。天国の「はまじぃ」もきっと温かく見守っていることでしょう。
◇一般社団法人「はまじぃの家」
兵庫県川西市向陽台1-6-39センタービル1F
電話072(744)2244
(まいどなニュース特約・山中 羊子s)