自民は本当に“勝利した“といえるか? 豊田真由子が衆院選を考察<前編>
衆院選が終わりました。
結果についていろいろなことが言われますが、数字・データを基に分析し、「今回の衆院選から、どういった民意を読み取ることができるか」「結果を受け、それぞれの政党が、今後考えていくべき課題は何か」等を、考察してみたいと思います。
■自民は本当に“勝利した“といえる?
今回の衆院選結果について、当初予想されたよりも自民の議席の減少が少なく(15減)、単独で絶対安定多数(261議席)を獲得したこともあり、「勝利」と評されることがありますが、私はそう単純ではないと考えています。
確かに、獲得議席数や得票率(※)を見ると“勝った”わけなのですが、「これまでの自公の政権運営や政策が評価され、国民から強固で積極的な信頼を得た」というよりも、「今の政権に不満もあるが、かといって、自公に替わる受け皿もないし・・」という消極的な支持も多かったと思います。新型コロナ対策や、長年停滞している経済、緊迫する安全保障環境、といった山積する課題への国民の不信を、きちんと感じ、汲み取った上で、実効性のある国の舵取りをしていくことが求められると思います。
(※)今回の自民党の小選挙区候補の得票総数は2781万票余りで、前回2017年よりも約110万票増加した。絶対得票率(投票を棄権した人も含めた有権者全体のうち、その党の候補に投票した割合)は、前回比1.2%増の26.4%で、過去3回のいずれの衆院選も上回っている。(毎日新聞、11月2日)
そして選挙は、「勝ち方」も重要です。
同じ「衆議院議員」であっても、①小選挙区で勝つか、それとも、②小選挙区で負けて、比例で復活するか、というのは、実は、議員本人にとっても、選挙区や党での位置付けや扱いについても、極めて大きな差があります。(①小選挙区で勝った議員、②小選挙区で負けて、比例復活した議員、③比例単独(選挙区を持たない)議員、という順番です。)
その意味では、今回自民は、小選挙区での獲得議席を減らし(21↓)、小選挙区で勝利したところでも、野党との差が僅差のケースが増えており(※)、野党共闘の効果が見られます。ただ自民は、政党への支持が他党よりも大幅に高く、多くの候補者が比例復活したため、結果として、トータルでは議席の減少が抑えられた、ということになります。
(※)今回、小選挙区で自民候補が勝利し、次点候補の惜敗率が90%以上の選挙区は、189のうち34選挙区(18%)。前回2017年の衆院選は29選挙区(13%)、2014年は19選挙区(9%)。(日本経済新聞、11月3日)
実際、「今回の選挙戦はとても厳しい」という声は方々から聞こえましたし、小選挙区での辛勝・競り負けや、ベテラン勢の落選等もあり、今回の結果を楽観的に捉えている人はほとんどいないのではないかと思います。
■立憲の低調は、「野党共闘」のせい?
今回の野党共闘について、その是非は別として、「選挙戦略としてどうだったか」という点について考えると、
・小選挙区では一定の成果を上げたが、比例区ではプラスには作用しなかった。
・立憲が低調なのは、そもそもの政党への支持が低いためであって、野党共闘のせいにしていては、根本的な問題は解決できない。
といったことになるかと思います。
解散時と比較した場合、小選挙区では、立憲57(9↑)、共産1、れいわ0、社民1(それぞれ増減無し)。比例区では、立憲39(23↓)、共産9(2↓)、れいわ3(2↑)、社民0(増減無し)です。
小選挙区での野党候補者を一本化したから、小選挙区で自民は議席を減らし、立憲は増やしたわけです。自民の小選挙区における得票率は前回衆院選とほぼ同じなのに、議席占有率を10%も下げています(※)。
(※)今回自民は、全289小選挙区の65.4%(議席占有率)に当たる189議席を獲得し、相対得票率(有効投票数に占める当該政党の得票数の割合)は48.4%。前回2017年は、75.4%に当たる218議席を獲得し、得票率は48.2%。
確かに、連合会長の懸念のように、共産との共闘によって、立憲から離れた票もあると推察されます。議席を獲得するためだけに、主義主張の異なる党同士が連携することはおかしい、という疑問も有権者の中にあったと思います。
各党の政党支持率には、大きな差があり(※)、政党支持率の低調さから考えれば、特に比例で立憲の得票が伸びなかったのは、ある意味当然です。共闘云々の戦略のせいにするよりも、そもそもの政党自体への支持が低い、そして、無党派層からも十分取り込めなかった、ということについて真摯に考えるべきだと思います。
政策力や人格のしっかりした議員もちゃんとおられますが、あまり表に出ていないので、その辺りの党運営も課題だろうと思います。
(※)政党支持率 自民:38.6、立憲:8.0、公明:4.3、共産:2.9、維新:3.5、国民:0.8、れいわ:0.8、社民:0.7、N党:0.2、特に支持政党無し:31.4(NHK調査:10月22日~24日)
2017年の衆院選では、小選挙区での希望の党の得票率が20.6%、立憲が8.8%で、獲得議席数は、ともに18議席でした。今の立憲は、基本的に2017年衆院選時の立憲と希望と無所属の議員から成り立っているわけですが、前回2017年の希望の得票分が、今回立憲に行かなかった、すなわち、当時希望を支持した人が、今の立憲を支持していない、ということがいえると思います。そして、その受け皿が今回は維新でした。
欧州各国を見ても、自由で民主的な国においては、二大政党制というのは、基本的に、中道右派と中道左派の間での政権交代として行われています。急進左派(のように見える場合)は、支持は広がりにくいでしょうし、また、短期間に政党が分裂や統合を繰り返せば、有権者は混乱し、信頼しようとは思いません。
国会論戦や記者会見で、舌鋒鋭く政権を非難する昔ながらのやり方は、今の若者には受けません。(だからといって、己の理念やポリシーを曲げておもねるべき、と言っているわけでもありませんが。)
有権者が知りたいのは、「では、あなた(の党)だったら、具体的にどうやって問題を解決するの?」という、地に足のついた実現可能な政策の提示、実行力と信頼性だと思います。
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国民は賢く冷静に見ています。与野党ともにですが、「『現金配る』と言っておけば、国民は喜んで、こっちに投票してくれるに違いない」といった薄っぺらい思惑は、容易に見透かされます。
それぞれの国の政治のレベルは、その国の民度を反映しているとも言われます。そして、国民は「お客様」ではなく、この国と社会をともに守り、良くしていく責任を持つ同志であると、私は思います。
政治は、真摯に国民の声を聞き、誠実にその負託に応える、そして、国民はともに未来に責任を負い協働して良い国づくりをしていく、めまぐるしく変わっていく社会の山積する課題に対応するには、そういったことが必要だと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。