子猫ネイミーに再発した脚の震え 「それでも家族に迎えたい」とトライアルを申し出てくれた夫婦 「幸せな猫生を送って」
ネイミーは今年の七夕の日に乳飲み子で保護した。兄妹5匹で保護したが、ネイミーは後ろ脚に震えが見られ、その震え方から獣医師は「小脳に障害があるかもしれない」と言っていた。
しかし、成長とともに震えは治まり、それを見た獣医師は「おそらくビタミン不足が原因だったのかもしれないですね。いまは特に異常もなければ健康ですし、大丈夫です」と太鼓判を押してくれた。
それを聞いた私はホッとひと安心し、ネイミーを譲渡会に参加させることにした。譲渡会には当団体のホームページやSNSでネイミーの里親募集を知って、たくさんの来場者が訪れ、里親希望も入った。早速、トイアル先が決まり、その準備を進めていた。
ところが、喜びも束の間だった。譲渡会から戻ってすぐに突然ネイミーの後ろ脚の震えが再発したのだ。それを見た私は驚きのあまり「ネイミー!」と声にならない声を出し、彼女に近寄った。案外ネイミーは平然としており、震え以外は特に問題がなさそうに見えたが、しばらくすると横になって元気がなくなった。
私は慌ててネイミーを動物病院へ連れて行き、診察してもらうと、高熱が出ていた。抗生剤とビタミン剤が処方され「もし食欲がなければ強制給餌をするように」と言われた。幸い、すぐに熱は下がり、食欲も回復したが、脚の震えは続いている。そのため、後日またネイミーを連れて病院へ向かった。
前回と同様にまず血液検査をしたが、原因を特定できなかった。これ以上のことを調べるにはMRI検査が必要だ。しかし、MRI検査をするにあたって、1つ問題があった。それは麻酔のリスクである。
獣医師は「麻酔が原因でどんな影響が出るか分からないです。たとえば震えがもっと酷くなったり、最悪死に至る可能性があります」と言った。それを聞いて「この検査で亡くなってしまったらどうしよう」と頭の中を不安が駆け巡り、返す言葉を失った。すると獣医師から「でも、今は意識がはっきりして元気もあるので、おそらく問題ないかと思います」と補足があった。
私はこのまま原因を特定できずに悪化するより、100%ではないけれど、何とか原因を見つけて治療できる可能性にかけたいと思った。MRI検査をすることにし、数日後の10月11日朝、動物病院にネイミーを預け、午後からの検査結果を待った。
検査は無事に終わり、病院でネイミーの検査結果を聞いた。獣医師はモニターに映し出されたMRIの画像をもとに「ここが正面から見た映像で…」と説明を始めた。ひと通り説明が終わり「結論から言うと、脳は健康な子と変わりありませんし、MRIの結果は異常がありませんでした」という。それを聞いて私は安心したが、すぐに「震えの原因はなんやったんやろう?」と疑問を持った。獣医師に尋ねると「脳にMRIでも映らない細胞レベルの異常があるかもしれませんが、それは分からないです」と言われた。
また事前検査の血液検査から感染症の一つ、トキソプラズマ症の疑いが見られたため、検査センターに出してもらうことにした。後日の検査結果は陰性だった。できる検査は施し、現段階ではこれ以上の原因究明はできない。そのため、ネイミーの脚の震えが今後良くなるのか、それとも悪くなるのか分からない。
私はネイミーを里親に出さずに当団体の家猫として迎え入れることを考えたが、保護施設には家猫以外にも看取りの子や下半身不随の子など、手がかかる子を保護している。私は「できればネイミーはまだ子猫だし、ネイミーの現状を理解して一緒にこれからのことを考えてくれる里親さんにつなげたい」と思った。
どんなに健康な猫でも、いつどんな病気にかかるかは分からない。万が一、ネイミーが長生きできなかったとしても、優しい家族のもとで太く短い猫生を歩んでくれれば、ネイミーは幸せだと考え、もう一度里親募集をすることにした。
ふだんからネイミーの近況をSNSで発信しており、10月31日の譲渡会に参加することをアナウンスした。すると、彼女を家族に迎えたいというご家族が3組も来てくださり、震えるネイミーを「かわいい!」と抱っこしてくれた。
みなさん、優しいご家族で、どのお家でトライアルを始めさせてもらうか迷ったが、できれば当団体の所在地である兵庫県宝塚市在住のご家族がいいなと考えていた。そのご家族は譲渡会に奥様が来られていなかったため、ご主人から「できれば妻と一緒にネイミーちゃんに会わせてもらえますか?」と申し出があった。「もちろん可能ですよ」と返答し、翌日の11月1日にシェルターでお見合いすることになった。
当日、シェルターでネイミーの”お見合い”が行われた。何回立ち合っても、この瞬間はうれしいものだ。ご夫婦に抱っこされたネイミーは、震えている体が脱力し、喜んでいるようにも見えた。その後もネイミーはおもちゃで遊んでもらい、ご満悦だった。
ただ、ご夫婦が1つ心配していたのは初めて猫を飼うことだった。ご主人は過去に実家で猫を飼っていた経験はあるが、結婚されてからは犬を飼っており、猫との生活は長い間離れていた。ネイミーは脚の震えがあるため、自分たちで飼育できるかを気にされていたのだ。そこで私は今後のサポートを伝えた。もちろん、将来起こり得るリスクもお話し、ご夫婦は納得してくれた。ご家族は「ぜひ、ネイミーちゃんを家族に迎えたいと思います」とトライアルを申し出てくださった。
現在、ご家族はネイミーを迎え入れるために脱走対策など準備を進めてくれているそうだ。ネイミーが幸せになってくれることを想像すると「大変な思いをしたけど、本当に良かった」と思う。ネイミーが優しいご家族のもとで、幸せな猫生を送ってくれることを願っている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)