山の中に消えていく点線国道とは? 和歌山県の“酷道”371号の最果てを見に行った
日本最大の半島、紀伊半島の内陸部は、ものすごく山深いいわゆる「秘境」です。熊野や大峰山といった信仰の対象や修験道の修行の場などがあったので、古くから人の往来する道はあったのですが、自動車が通れるような「道路」はほとんどありませんでした。
海岸線に沿っては早くから国道42号が整備されていましたが、内陸部は遅れていて、比較的最近まで国道の未開通部分が何カ所かありました。筆者が実際に体験して記憶しているところでは、平成の初め頃に国道169号で川湯温泉へ行こうとしたとき、七色ダムの先をしばらく行ったところで「この先国道は未開通です」という標識があって、少し引き返して県道(だったと思います)を迂回した思い出があります。
しかしそういう箇所も現在ではほとんど解消されて、和歌山県内の国道ではおそらく一カ所だけ、国道371号に点線国道の区間が残っているだけのようです。点線国道というのは登山道などをとりあえず国道に指定して、まだ供用されていない国道のことです。国土地理院の地形図に幅員1.5メートル未満の道路として点線で描かれているから、そう呼ばれているのでしょう。
こういう成り立ちですから、点線国道というのは過渡的なもので、いずれ整備されて消えていく運命にあります。その前にこれはちょっと実際に見に行ってみなければなりません(そんなことはないのだけど)。
■あと1時間、とナビは言った
国道371号の点線区間は和歌山県田辺市と古座川町の間、高尾峠の部分です。未開通ですが本山谷平井林道という舗装林道で迂回できるようです。地図で見ると、古座川町側から進んで林道と分岐した先をしばらく行ったところで、山の中に消えています。ネットで検索したところ、この末端部分には「廃屋が一軒あって、そこで道路が途切れてその先は山の中」という最果て感漂う寂寥の景色が出てきました。こんなところ一人で行ったら寂しくて泣いてしまうかもしれないので、友達を誘って(騙して?)10月のとある平日に出かけました。
快適な二車線の国道311号を田辺市中辺路町栗栖川の交差点で左に折れて、問題の国道371号に入ります。しばらくは二車線の走りやすい道でしたが、ほどなくセンターラインが消えて、1.5車線の狭い山道になりました。しかしドコモの電波は届いているらしく、「Yahoo!ナビ」はきちんと動いていて、点線区間の始まる辺りまでおよそ1時間と言っています。
行けども行けども山の中、道は緩やかに、また時折激しく、くねくねしながらどこまでも続いています。分け入っても分け入っても青い山、です。いい加減疲れてきた頃、ふと気がつきました。これ、1時間じゃない。さっきから1時間以上走ってるけど、まだまだ先が長い。
ネットのナビというのは、そのナビを使ってその道路を走ったクルマの移動時間を元に渋滞を把握したり、所要時間を推測したりするようです。以前、ナビを使いながら人っ子一人居ない埋め立て地を走っていて、ちょっと路肩に止めて休憩していたら、地図に真っ赤に渋滞の表示が出たことがあります。その道路を走っていた1台中1台、つまり100パーセントのクルマが動かないので「これは渋滞だ」と判断したのでしょう。翻って考えてみると、この国道371号のこの区間はまだナビを使って走った人が少なくて、データが揃ってないので「まあたぶん国道311号と同じくらいでいいんじゃね?」と平均速度を見積もったのかもしれません。
■落石に阻まれました、残念
結局分岐から2時間ほど、それこそ嫌になるほど狭い狭いくねくね道を走って、ようやく本山谷平井林道に入りました。確かに舗装はされていてガードレールもありますが、路面の整備はほとんどされていないようで、浮き砂利(硬い路面に砂利や小石が乗ってるとコロコロと良く滑るのですよ)、ひび、穴などが随所に用意されています。この辺り林道としての矜持というのでしょうか。酷道とはいえ国道の371号とはちょっとひと味違いますよ、っていう感じです。標高も高く、谷は容赦なく深いです。
そんな林道を抜けて山の中の橋を渡ると、出ました、国道371号との交差点です。左へ曲がると古座川方面、人里に出られます。そして右はあの、山中に消えていく寂しい寂しい酷道です。
ここは迷わず右へ行きます。これがまた先ほどまでの林道が快適に思えるような、酷い道です。当然のことながらクルマの往来がないので、道に生活感がありません。数十メートル先を鹿が横切っていきました。そっち方面の生活感(獣の気配)はしっかりあります。
あの景色を見届けたい、その一心で先へ先へと進みましたが……、おそらく後数キロのところで、落石に阻まれました。残念です。
バイクだったら行けたかもしれませんが、ここまでのアプローチで心が折れそうな気がします。
この点線国道はおそらくまだまだ解消されないな、と思います。きっといつ行ってもこのままです。また来年暖かくなって気持ちが充実していたらリベンジしたい、するかもしれない、と、緩く心に誓って帰ってきました。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)