「死ぬまで小雁」認知症公表の芦屋小雁さん、寺町京極で米寿を祝う”お練り”をする理由

 認知症を公表している喜劇俳優の芦屋小雁さん(87)が米寿の誕生日を迎える12月4日に京都市の寺町京極で”お練り”を行う。芸歴73年で初めて。「要介護4」の認定を受けたいまもなお、役者として活躍しており、米寿を祝うパーティーでは紋付き羽織はかまで立ち回りを演じる。小雁さんは「死ぬまで仕事するで」と張り切っている。

 今回のお練りは寺町京極商店街をスタートし、宴会施設「ウィズユー京都四条河原町」を終点とする500メートルほどの区間。京都市中京区で生まれた小雁さんにとっては思い出の場所でもあり、錦天満宮で芦屋小雁のお浄めとコロナ終息祈願のお祓いをし、豪華絢爛な嶋原葵太夫道中が花を添える。

 お練りは歌舞伎役者の襲名披露などで行うもので、芸能生活73年目の小雁さんにとっても初めて。マネジャーでもあり、夫婦生活25年になる俳優の勇家寛子さんは「コロナで芸能界の動きも止まっていましたが、収束することを祈念し、今回、このような催しをさせていただくことになりました。元気な小雁を見ていただき、商店街や京都の街が活気づく縁起のいいイベントになれば」と話す。

 小雁さんは15歳でデビュー。兄・雁之助さんと漫才コンビを組み、その後出演した「番頭はんと丁稚どん」で一躍人気者に。その後も名脇役として活躍してきた。そんな小雁さんに異変が起こったのは4年前。大阪での舞台に備え、ウイークリーマンションを借りて稽古に励んでいた際のことだった。

 「ここ、どこやねん?オレ、いま何してんの?」

 本人は大阪にいることすらも分かっていない状況。最初は冗談かと思ったが、そうではなかった。いざ、本番。しかし、舞台に立つとアドリブをまじえて演じ切ったという。寛子さんは「こっちはどうなることかと思いましたが、小雁スイッチが入るんですよ」と笑う。

 現在は血管性認知症とアルツハイマー型認知症の合併症で「要介護4」の認定を受けているが、トークショーなどで活動するかたわら認知症への理解を深めるマラソンイベントなどに参加している。

 もっとも、寛子さんによれば、ここに至る数年間は地獄のような日々だったという。極寒の京都で30時間も徘徊し、死がちらついたことも。仕事を減らし、2人で家にこもっているうちに頭の中はどんどんマイナス思考。「小雁ぼける、とネットで書き込まれたらどうしよう」「役者を辞めて遠いところに行こう」など悪いことばかりを考えるようになった。

 光が差したのは偶然で、TBS系バラエティー「爆報!THEフライデー」の出演依頼がきっかけだった。「5分くらい出て、元気な姿を見せてほしい」という要望だったが、落ち込んでいた寛子さんはぶっきらぼうに「病気です。認知症になってしもうたので東京へは行けません」と告白。のちに認知症をテーマにした夫婦愛として30分枠で放映されることになった。

 「番組のインタビューを受けていたら、これってカウンセリングという感じで、どんどん気持ちが整理され、スッキリしたんですよ」

 公表したことで気持ちが楽になったが、もちろん、現在も平常とはいかない。迷子にならないように「お守り」という名のGPS入りの靴を用意してもらうなど在宅介護ができるように工夫。寛子さんはヘルパー1級の資格を取り、さらに介護福祉士を目指して日々奮闘中だ。

 「介護する人とされる人は”合わせ鏡”のよう。こちらが笑っていないと相方も笑わない。認知症で大切なのは最初のころの私のように1人で抱え込まないこと。気持ちの持ちようです。格好悪いと思わず、介護保険を使っていただきたい。目の見えない人に、どうして見えないの、とは言わないでしょう。だから認知症の人になぜ、覚えていないの、というのはおかしいですよね」

 こんなシリアスな話を知ってか知らずか小雁さんはいつもの調子でニコニコ顔。

 「たくさんの人が見に来てくれるとうれしいですわ」

 米寿のパーティーではちょっとした立ち回りも演じるという。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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