「ナウシカの頃はまだアルバイトしてました」島本須美が語る42年の声優人生 “アイドル化”が進む業界の変化に思うことは
「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)のクラリス、「風の谷のナウシカ」(1984年)のナウシカなどで知られる声優でナレーターの島本須美さんは、もともとは劇団青年座の女優として活動をスタートした。声優デビューから42年。現在も数多くの作品に出演する一方、声優スクールの講師として後進の指導にも携わっている。
■「声優」と呼ばれたくなかった
「私が声優のお仕事をするようになった頃は、どこかの劇団に所属している俳優さんがやることが多かったですね。私自身、本業は女優だと思っていたので、最初は『声優』と呼ばれることに抵抗があったのを覚えています」
アニメ雑誌「アニメージュ」主催のアニメグランプリでは、ナウシカが公開された1980年代に女性声優部門を席巻するなど、島本さんは熱狂的な人気を博した。
「これまでの声優人生を振り返ってみると、それなりに一生懸命頑張ってきたかな(笑)。正直、生活するのも大変だったので、ナウシカの頃はまだアルバイトをしていたんですよ」
■自分の声の魅力「考えたことない」
「めぞん一刻」の音無響子役に選ばれたタイミングで「声優としてやれるだけやってみよう」と決意。丸9年所属した劇団をやめた。以降、数々の作品でヒロインや清純な少女の声などを担当。「それいけ!アンパンマン」のしょくぱんまんも、30年以上続く代表作のひとつだ。
「自分の声に魅力があるかなんて、考えたことはないんです。与えられた仕事を一生懸命やってきただけで。アニメグランプリで1位になっていた頃は、今の声優さんたちみたいにもっと“アイドル”的な要素が必要なのかなと考えたこともありましたが、ほら、当時はまだ自分のことを“女優”だと思っていたから(笑)」
■声優のアイドル化について思うこと
現在は声優志望の若者と接することも多いという島本さん。今の声優の「アイドル化」について、複雑に思うこともあるそうだ。
「みんな主役をやりたがるんですけど、主役って今ちょっと『制約』ができていて。つまり、歌が歌えるか、ダンスができるか、イベントに参加できるか、といった条件でキャスティングに影響が出てしまうんです。もちろんルックスも込みで。だから、歌手や俳優、アイドルになりたい事務所の人が、声優の勉強をしていなくてもオーディションに受かっちゃうことも多いし、むしろそっちの方が近道だったりします。『基本ができていなくても、育てていけばいい』という感覚なんでしょう」
「先ほど『ナウシカの頃はまだアルバイトをしていた』と言いましたが、今の若い人たちは出演した作品に付随するグッズや歌、ダンスなどの副収入があるので、当時の私よりは生活できているかもしれません。でも全員が40年後も続けられているかは別問題です。すみません、ちょっと自慢みたいに聞こえましたね(笑)。でもこの業界、私と同世代の人たちがまだまだたくさんいらっしゃるんです。それがすごく嬉しいし、励みにもなっています」
■もっと声に個性を
40年以上、声の仕事と向き合ってきただけに、昨今、声の“個性”が失われていることも憂慮しているという。
「若い人たちはみんな一生懸命に“綺麗な声”をつくろうとするので、どうしても声が似てしまうことがあります。キャラクターはそれぞれ顔が違うから映像を見ていたらさすがにわかりますが、耳だけで聞くと区別がつきにくい。もう少し声質や表現力に個性があった方が、声優としてもプラスになるのにな…と思います」
「でも、アイドル化の流れが悪いと言いたいわけではないんです。そういうものが求められている時代ですから、仕方ありません。それに、いろいろ言いましたが、声優のアイドル化については私たちの頃からその萌芽はあったんです(笑)。三ツ矢雄二さんたちがスラップスティックという音楽バンドで活動したり、声優の写真集が売り出されたり…。アニメグランプリの授賞式も後半は歌謡ショーみたいになっていて、声優たちが歌ったり踊ったりしていましたから」
「ただ、昔は劇団出身の人が多かったので、ちゃんと台本を読めて、表現もパターン化していない喋りができていました。今みたいに『みんな似ている』ということは全然なかったように思います。これからデビューを目指す人たちも、自分の声に合ったキャラクターに出会えるといいですよね。応援しています」
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島本さんが音声ガイドを務める展覧会「アニメージュとジブリ展」が、12月9日から2022年1月10日まで大阪の阪急うめだ本店で開催される。観覧料は一般・大学生1500円、中高生1000円、小学生600円。日時指定制。
(まいどなニュース・黒川 裕生)