「すぐに死んでしまうかもしれません」 難病の疑いでブリーダーから保護された子猫を引き取って

 2016年5月、兵庫県宝塚市在住のIさんは9年間飼っていた黒猫を6カ月の闘病の末、失った。原因は”乳腺腫瘍”だった。しばらくは悲しみのあまり、ひどいペットロス状態に陥り、毎週2、3件の猫カフェに通っていた。

 その猫カフェは里親募集もしている猫カフェで、Iさんは初めて保護猫という制度を知り「私も猫を迎えられないだろうか…」と思ったそうだ。ある保護猫カフェで「里親になりたいです!」と申し出たとき、Iさんはビックリしたという。「どの子がいいですか?」と逆に聞かれたからだ。いまでは笑い話になるが、1匹の猫を示されて「この子をお願いします」と言われると思っていたのだ。まさか、自分で選べるとは思ってもみなかったという。

 「みんな可愛くて選べない…」と猫カフェの猫達をながめていると、1匹の子猫が目に留まった。他の子猫達が元気に遊んでいる中、じっとして動かない、ボサボサの毛玉のような子猫だ。

 第一印象は「本当に子猫!?」と思うくらいだった。一般的に思うカワイイ、子猫らしく元気があって、などの印象は皆無だった。

 子猫は生後2カ月ほどの男の子で、長毛種のペルシャ系と足が短いことで知られるマンチカンのハイブリットである「ミヌエット」という種類だった。なぜ、愛くるしさがあって人気のミヌエットの子猫が保護猫カフェに保護されていたのかというと、FIPという病気の疑いがあったからだ。

 ブリーダーでは病気の猫は販売できないため、理不尽な扱いを受ける事も少なくない。FIPとは猫伝染性腹膜炎といって、発症すると致死率99.9%という重篤な疾患である。効果的な治療もわかっておらず、予防法も確立されていない、猫にとって最も恐ろしい疾患。最近、未認可ではあるが、FIPに効果があるとされる薬が出回り、発症した猫の7割程度が寛解している。

 その子はポッコリお腹が出ており、保護猫カフェのスタッフから「FIPの疑いがあるので、すぐに死んでしまうかもしれません」と念を押された。しかし、Iさんは「一緒にいられる時間は短いかもしれないけど、家族に迎えて病院に通ったり、食事を与えたりしたい」と先住猫を看取った経験があるからこそ、そのように思えた。

 後日、子猫を家族に迎え、名前を「レオナルド」と命名した。ライオンのように強くなって欲しいという願いを込めて…。しかし、レオは家に来てからというもの、動かないし、食欲もない。食べる量も減ってしまい、排便も少なく、遂には出なくなり病院を受診した。

 その結果、レントゲン写真には胃を圧迫するぐらいの便が溜まっていた。医師からは「もう少し遅かったら排便障害になっていたかも」と言われたそうだ。そして、腰椎が通常7本あるところ、6本しかないことも分かった。実際、腰椎欠損症のうち30%くらいは神経の圧迫などで痛みが出たり、尿が出にくくなることや、排便が困難になったりする場合もある。

 また、レオは猫では稀な「停留睾丸」であることも分かった。遺伝性の疾患で、睾丸が下降せず、お腹の中や鼠径輪(後足の付け根)付近で留まるものを停留睾丸という。停留睾丸が腫瘍になる確率は正常の13倍にもなるといわれている。さらに呼吸が早いことも発覚。心臓の検査を求められ「どうすればいいの」と、さすがのIさんも滅入りそうになった。

 その結果、心臓の弁に軽微な逆流が見られるが「異常なし」の診断が下った。たくさんの検査と治療を経て、レオは無事に去勢手術も受けることができた。もうその頃には、すっかり元気を取り戻していた。FIPの疑いは晴れ、Iさんも「これから元気に成長する!」と嬉しく思った。

 元気になったレオはというと、子猫らしく好奇心旺盛で怖いもの知らず。その反面おっとりしており「ホントに猫?」と思うくらい鈍くさいようである。

 Iさんの家には先住犬で柴犬の「姫ちゃん」がいる。ある深夜、レオと姫の2匹が落ち着きなく、ウロウロしていたそう。そのうち2匹は、Iさんの布団の端っこをカキカキ、ホリホリし始めた。

 何だろう?と布団をめくってみると「ギャーーー!!!!!!!!」。何と、そこには2匹が狩りをしたであろうムカデがいた。仲良くムカデを追っていた2匹が微笑ましく思え、たっぷりご褒美をあげたそうだ。

 Iさんはレオを迎えてからの変化をこう語る。

 「子はかすがいと言いますが、猫はかすがいです。私たち家族に自然と笑顔や会話をもたらしてくれました。ペットロスで苦しんでいた私も前を向けるようになりました」

 2017年9月には保護猫コニーも迎え入れた。Iさんは猫を取り巻く現実を知り、その環境改善にも取り組み始めた。

 「販売目的で繁殖され、病気などの異常で販売できないと判断された子猫は、十分な医療も受けられず、運が良ければ保護され里親を探す…という現実を知りました。また、外で生きている猫の存在と、それを取り巻く社会に思いがおよび、”保護猫団体”の存在や活動に目を向け、何らかの形でこのような誰の目にも留まらない”弱い命”の力になりたいと思うようになったのです」

 Iさんは現在、当団体のスタッフとして日々、猫達のために尽力してくれている。もちろん、レオをはじめとする大切な家族から毎日パワーをもらっているのは言うまでもない。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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